番外編・変身します
前後編の予定が、前中後編になってしまいました。ダラダラ長く書いてしまうのは私の悪い癖です…。もっと短くまとめられる人になりたい。
日間ランキング1位、週間、月間ランクインありがとうございます。ブックマーク2800越えをしていて、正直喜びがビビリに変わってきているチキンです。
私は今現在庶民で、一時期貴族籍だったことはありましたがそれはなかったことになっている、生まれついての庶民で、さらには孤児で。庶民の視線からすれば、貴族の方は綺麗なお洋服を着て、綺麗な言葉を話して、綺麗な所作で、すごいなぁと思っていたのです。羨ましいなぁとも思っていました。
後宮に入ることになり、ティナに色々教わるようになって、初めて貴族は大変なんだと思ったものです。アレク様がおいでになるようになってからは、その大変さも増していて、貴族ではなくなったものの、アレク様の側に仕えるというのは本当に大変なのだと思っていました。
でも、それは間違いだったようです。
「てぃ、ティナ?私はどうなってしまうの?何が起きているの!?」
「以前から思ってはいたのですが、ユーシェ様はご自身への関心が薄すぎます!せっかく陛下のお側にいらっしゃるようになったのですから、もっと磨き上げませんと!」
「みがっ、磨くって、何を!?」
「全てです!」
「ひぃっ」
アレク様が部屋を出ていかれた後、私がティナに連れてこられたのは湯殿でした。
孤児院にいた頃は毎日お湯に浸かるなんてできなかったので、後宮に来た頃は毎日お湯を使えることに感激したものです。ティナは当初から手伝うと言っていたのを断り、一人で入浴していたのだけど、アレク様が夜お越しになるようになってからは流石にいけませんと怒られ、ティナに手伝ってもらうようになっていた。入浴を手伝ってもらうなんて、庶民にとっては信じられないことで、今でも慣れない。と、いうのに、今日はティナの他にも侍女が二人入って来てお手伝いしますと鼻息を荒くしていた。断れる雰囲気ではなかった。
もうそれだけでさっきのお茶の時に食べた茶菓子は消費してしまったと思う。
そして入浴が終わった今は、裸のまま色々なところを揉まれていた。
確かに、アレク様と床を一緒にするようになってから、入浴後にティナがいい匂いのするクリームを塗ったりしてくれていた。けれど、今のように揉み込まれてはいなかった。うつ伏せを許されていることだけが、唯一の救いだ。
「あああの、ティナ?その、私はこれからどうなってしまうのか教えてもらえる?」
うつ伏せのまま顔を横に向け、ティナを探した。しかし、新しい侍女は見つかったが、ティナの姿は見えない。声はしたからこの部屋にいるのは間違いないのだけど、見回す事が出来ないのがもどかしい。
「ユーシェ様には、立派なご令嬢に変身していただきます」
「立派な…ご令嬢…?」
耳を澄ませば、ティナの声は背中の方からしていて、背中のマッサージをしているのだと分かった。「私はここにおりますから安心してください」と告げられ、ホッとして顔を元に戻した。
「私が令嬢らしく見えないことは分かっているわ。それがアレク様を困らせているということ?」
「ユーシェ様、ご令嬢らしいというのは、ただ美しく着飾ることではないのですよ。私は今のままのユーシェ様でも、十分ご令嬢らしいと思っております。陛下が大切にしていらっしゃるのがいい証拠です。ですが、それだけではダメなこともあるのです」
「さっきアレク様が言っていたことがそれなの?」
「はい。ユーシェ様のお耳には入れないようにしておりましたが、陛下の許可がおりましたのでお話しいたします。手を動かしながらで申し訳ないのですが、このまま聞いていただけますか?」
「え、えぇ」
礼儀を重んじるティナがそう言うということは、時間がないと言うことなのだろう。落ち着きはしないけれど、うつ伏せのままティナの話を聞いた。
私は後宮の奥で、ほとんど外に出ず、アレク様以外の人と接触することはないために、外の噂を耳にすることはない。必要な情報ならばティナが耳に入れてくれるし、不要と判断されたものは耳に入らない。それに問題を感じてはいなかったし、不慣れな私が情報を処理できるとも思わなかったので、そうしていた。
けれど、ティナが話してくれた、アレク様にまつわる噂は想像を超えていた。
まさか、幼子を愛でる性癖があるだなんて。
「ね、ねぇ?アレク様のことをそんな風に言うのは不敬ではないの?」
「もちろんそうでございますよ。ですが、年頃の美しい娘に見向きもしなかった陛下を快く思っていない方々は少なからずいらっしゃると言うことです。ですが、今回のことは度を超えています。そのままにしてはおけないと判断されたからこそ、陛下はユーシェ様に会いに来られたのですよ」
「……私、自分が美しいだとか自惚れたことは一度もないからそれはいいのだけど、その、私の顔は…幼く見えるのかしら?」
今までは生きることに必死で、自分の見映えを気にしたことがなかった。孤児院では気づけば年長だったし、誰かと自分を比べたことがほとんどないのだ。
後宮には綺麗なご令嬢がたくさんいるとは言っても、実はそのお顔を拝見したことはない。外の集まりに行ったのは、入宮したての時の一度だけ。それも、他の方に不快な思いをさせないようにと終始俯いていたから、私が見ていたのは自分のつま先だけなのだ。
そういえばティナは何歳だったか…。しっかり聞いたことがなかったのだと、今更気づいて驚く。
「ユーシェ様は年齢相応なお顔立ちだと思います。ですが、年齢差のこともございますから、難癖をつけたい方は何も問題のないことでも問題にしたがるのですよ」
「確かに私とアレク様は年が離れているけれど、ここにいらっしゃる他のご令嬢も、私と同じくらいの方が多いのではなかった?」
「そうでございますよ。殿方は若い女性の方が好きだからと、ご自分達で年若いお嬢様方をこちらへ送って来られたのに、ユーシェ様のことが公になった途端に掌を返したのです。勝手すぎますわ」
ティナの言葉からは怒りが感じられるのに、動かしている手の力は変わらないところがすごいなぁなど考えてしまう。
「他のご令嬢は良くて、私ではダメと言うことは、やはり私に問題があるのよね。問題がたくさんあるのは分かってはいるのだけれど。そのせいでアレク様が悪く言われてしまうのは嫌だわ」
「ユーシェ様、これは外見の問題ではないと思います」
「え?」
「ユーシェ様はこちらから出られることはほとんどございませんから、ユーシェ様のお姿を見たことがある者は少ないのです。ユーシェ様にお仕えする私達侍女や護衛は、ユーシェ様のことを許可なく口にすることはありません。女官長もユーシェ様の事をとても気にされていましたし、口の堅い方ですからどなたかに口外されることはないと思います。ドルガ伯爵はユーシェ様のお顔をご存知ですが、そもそも養子縁組はなかったことになりましたし、不用意なことを口にすれば今度こそお咎めがありましょうから、そちらから情報が漏れることも考えられません」
「では、何故アレク様はあのように言われているのかしら」
私の顔が幼いかどうかはよく分からないけれど、私の顔を知る者は少ないのだから、アレク様の噂の原因は私の顔ではない…かもしれない。そうなると他に原因があると言うことで。
「お姿の話ではないのです。陛下とユーシェ様が初めてお会いになったのが、ユーシェ様が6歳の頃だということで、6歳のユーシェ様に心を奪われたのだと話を誇張されたのですよ」
「え、えぇ!?」
それは…想定外です。アレク様が6歳の時の私にそんな感情を抱くなんて、普通に考えて有り得ないのでは…。
「アレク様にここでお会いした時、私の事なんて覚えてなかったわよね。私は覚えていたけれど…。むしろ、ずっとアレク様に会いたいと思っていた私の方がおかしい…ということにはならないかしら」
あの時心を奪われたのは私の方で、決してアレク様ではないと思うのだけど。私はずっとアレク様に憧れのような思いを抱いていて、ここでお会いして、その気持ちが、その…変化したのだと…私は思っている。けれど、アレク様はそこまで執念深く私を思っていたわけではないし、それが当たり前だと思うんだけど、何故おかしな話になってしまっているのだろう。
「命を助けられたんですもの。何もおかしくはありませんよ」
「でも…私のせいでアレク様はおかしな噂を立てられてしまったのよね。きっとお怒りよね」
「ユーシェ様に対して怒っているわけがありません。陛下がユーシェ様をどれだけ大切に思っていて、特別に思っていらっしゃるかは、ここにいる者全てが理解しています。だから、余計に許せないのです。そのような噂をたてるなんて、ユーシェ様と陛下のお気持ちを何も知らない者が汚すなんて、許せません」
「ティナ…」
「ですから決めました。私たちの持てる全てでもって、ユーシェ様を誰もがあっと驚くご令嬢に変身させてみせます」
「…え?」
「今まではユーシェ様のお気持ちを尊重して、簡素な格好でいることにも何も言いませんでしたが、こんなことになってしまった以上、もう我慢しません。陛下におかしな思想があるといった方々に後悔させてやりましょう!」
「え、え…、あの…、えぇと…」
「いいですね!ユーシェ様!」
「あ、…は…い……」
もしかして、一番怒っているのはティナなのでしょうか…。背中から怖いオーラが漂ってくる気がします。これは絶対に否と言ってはいけないと、本能が判断しました。
そして私は何も言うことなく、ティナと他の侍女の言う事に従う事になったのです。他の侍女の顔をチラッと見ると、ティナと同じような目をしていて、思わず震えたのは仕方がないと思います。
えぇと、私はこれから変身させられるようなのですが…。一体どうなってしまうのでしょう!




