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12.終章 3

「では、そのように」

「はい」


 打ち合わせを終えて、ユレイオンは部屋を出た。

 中庭に面した回廊を進みながら、すれ違う魔術師たちの会釈を受ける。

 楽し気に笑いあう若い少年たちに目をやり、ため息をつく。

 カリスから戻ってきてからこちら、ずっと忙しく働いている。

 帰ってすぐ受けた力の判定では銀二位と確認された。

 石が割れていた件では事務局からねちねちと嫌味を言われつつも部屋の配置換えがされた。

 最上階の銀二位の並びの一角になった新しい部屋は前の部屋の倍はある。

 そして今まで以上に忙しくなった。

 今までならば、塔内部の仕事や授業の手伝い、銀二位が行くまでもない小さな祭りなどでの仕事が順繰りに割り振られ、それをこなす以外は研究に当てる時間が取れていたのだが。

 今では睡眠時間も惜しいほどに忙しい。

 本を読む時間もひねり出さなければ作れない。

 慣れればなんでもなくなる、と先輩諸氏は言っていたが、いつになれば慣れるのだろうかと切実に思う。

 回廊から中庭に足を踏み出しながら足場を作って風で押し上げる。

 ふう、ともう一つため息をついて、回廊に降り立った。

 明日からは依頼で少し遠方の町まで行かなければならない。十日かかるという話だった。荷造りをしながら、不在の間の教育カリキュラムを組み立てなければならない。

 銀二位になってから、銅位の子供たちの個別指導を受け持たされた。

 ユレイオンが得意とするのは水の魔法で、同じく水の魔法を得意とする少年たちを数人、個別に実技を見ている。教育者には向かないと思っているのに、これは義務だと塔長に押し切られた。

 あとは、新しく届いた魔法書を読んで、地方から送られてきている現在の世界情勢とか、魔術師の動向だとか、読まなければならないものはたくさんある。

 立ち止まったまま思案に暮れていると精霊たちがクスクスと笑いながら通り過ぎた。

 顔を上げれば、見慣れた部屋の前だ。

 考え事をしていたら、以前よりも上階になった分を忘れてついいつもの階で降りてしまったようだ。

 踵を返して回廊から中空にもう一度足場を作り、上昇させると今度はちゃんと自分の部屋のフロアに降り立った。


「お帰りなさいませ、ユレイオン様」


 部屋の前にたどり着くよりも早く、少年の声が飛んできた。

 声のほうを振り向くと、階段を走って上がってきたのだろう、肩で息をしながら黒髪の少年が立っていた。

 顔に見覚えはあった。確か、以前塔長の部屋で紹介された少年だ。

 名をなんと言っただろうか。


「ああ」

「塔長様から、ユレイオン様が明日から出張なので荷造りの手伝いを命じられました。何でもお申し付けください」

「ああ、そうか」


 そういえば、そんなようなことを塔長が言っていたような気がする。

 個人的には自分の部屋に他人が入るのはあまり好きではないのだが、塔長の命令であれば仕方がない。

 自分の部屋へ誘導すると、扉を開けた。


「うわぁ……すごい。きれいに片付いていますね。驚きました」

「そうか?」


 入り口で立ったまま部屋の中をぐるりと見回している少年に、ほんのわずか眉を顰めつつも部屋の奥に進む。

 広いとはいえ一人部屋だから、部屋に仕切りはなく、入り口から奥まで一目で見渡せる。


「はい。一人部屋で気楽だからだと思うんですが、物があちこちに散乱していたり、足の踏み場もなかったり、すごくて。ここまできれいに片付いている方のお部屋は初めて見ます」

「そうか」

「それでは、お手伝いしますね」


 少年はてきぱきと部屋の中を確認すると必要なサイズと思われる旅行鞄を引き出し、クローゼットから必要と思われる着替えなどを選び出して荷造りを始めた。

 ユレイオンは面食らった。


「あの……君?」

「セインと呼んでください」


 そう答える間も振り向きもしなければ手も止まらない。彼がようやくユレイオンのほうを向いた時には、必要と思われるもののパッキングはあらかた終わっていた。


「すみません、ユレイオン様は旅慣れない方だと伺っていたもので、最低限必要なものをピックアップして詰めておきました。ユレイオン様が必要なものを入れたら完成です」


 彼の行動にもそうだが、言葉にも驚きつつ荷物を検分する。

 確かに、彼の言葉の通り、最低限必要だと思っていたものはすべてそろっていた。それどころか、何かあった場合を考慮した品もほぼ網羅されている。あと足りないと思えるのは、本と紙といくつかの呪具だけだ。


「……あまり他人にあれこれ触られるのは好きではないのだが」

「申し訳ありません。そうおっしゃるだろうと思ったもので、手早く済ませました。……塔長様からも聞いてはおりましたので」

「そうか。……それにしても、手慣れているな。君はその……魔術師ではないのか?」


 額にはめてある環は銅。石の小ささからいうと銅六位だろうか。年齢は十四、五ぐらいだろうか。幼く見えるのは童顔のせいだ。


「一応魔術師なのですが、あまりそちらの才能はなくて。生活能力の高さを買われて塔長様のお世話係をさせていただいております。あの……自己紹介、してませんでしたでしょうか」


 身を縮めて恐縮する少年に、ユレイオンは首を傾げた。塔長の部屋で会ったことは間違いないのだが、名乗られたかどうかは覚えていない。


「申し遅れました。僕はセイン・アリュウと申します。塔長様の世話係の傍ら、銀位の方々のお手伝いをしております」

「そうか。ユレイオン・フォーレルだ」

「はい、存じております。では、他に用がなければ僕はこれで失礼します」


 礼をして部屋を出ていく少年を見送り、ユレイオンはようやく肩の力を抜いた。


 これが、一年後やってきた彼の相棒――金髪の魔術師とユレイオンの世話係になる少年であるが、それはまた別の話である。

ようやく完結となりました。

一部伏線の回収忘れがあるなど、いろいろまずい部分を残したことは残念でなりませんが、無事完結できたことはうれしく思っております。


長年書き上げたいと思ってきた作品だけに、いろいろ齟齬があったり言葉遣いが古いままだったりとつたない部分も多々あると思いますが、どうぞご容赦ください。

あ、もちろん辛口批評は大歓迎です。


次に塔の魔術師たちをお目にかけることができるとしたら、だいぶ先の話になるかと思います。

アダの聖域から数年後、シャイレンドルが塔を出た後のお話しになるかと思いますが、それよりもアダの聖域をファローン女の子バージョンで今のテイストで書き直すほうが先になるかもしれません。

気長にお待ちいただければと思います。

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