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  作者: しゅう


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内なる声4

 窓の外、都会の地平線が微かに、しかし確固たる意志を持って白み始めた。

それは夜明けという現象が、不可避な物理法則として部屋の闇を侵食し始めた合図であり、同時に、私の内なる時間が外界のそれと再び同期し始めたことを告げる鐘の音でもあった。私は、深い沈潜の海から引き揚げられたような重い疲労感とともに、椅子の背もたれからゆっくりと身体を起こした。関節の一つ一つが軋み、肉体が再び「重力」と「時間」という過酷な制約の中へ引き戻されていくのを感じる。しかし、その重みはもはや、昨日の私を縛り付けていた絶望の鎖ではない。今の私にとって、肉体とは、内なる深淵で結晶化させた宇宙の真理を、この三次元の世界というキャンバスに定着させるための、最も精緻で、最も強靭な「表現装置」へと変容していた。

それは、天と地、内と外、潜象と現象を繋ぎ、荒ぶる生のエネルギーを「日常」という硬い土壌に力強く定着させる、循環と調和の最終プロセスだ。


 私は、昨日、自らの手で儀式のように電源を落としたスマートフォンへと、再び手を伸ばした。液晶の冷たい、無機質な感触が指先に伝わる。ほんの数時間前の私なら、この黒い鏡を覗き込むことに、抗いがたい依存と底知れぬ恐怖を同時に感じていただろう。そこから溢れ出す無数の通知、他人の虚飾に満ちた日常、アルゴリズムによって最適化された無味乾燥な広告。それらは私の魂を薄く削り、個としての尊厳を奪い去るための研磨剤でしかなかった。しかし、今の私は違う。

電源を入れ、再びシステムを起動させる。

暗転していた画面に人工的な光が宿り、数時間分の遅延した世界の情報が、堰を切った濁流のように流れ込んでくる。だが、不思議なほどに心は静かだった。情報の断片は、私の内側に構築されたフィルターを通り過ぎる時、その毒素を失い、ただの無機質な記号へと分解されていく。私は、システムの歯車として摩耗する受動的な存在ではなく、システムを利用し、その巨大な循環の中で「ずっと自分であり続ける」自律的な観測者としての視座を、この週末の夜に確立したのだ。通知の赤色は、もはや私の心拍を乱すことはない。それはただの波長に過ぎず、私の内なる太陽を揺るがすことはできないのだ。


 台所に立ち、一杯の水を飲む。身体の隅々にまで冷たい感覚が浸透し、細胞が一つずつ覚醒していく。この何気ない動作さえも、今は一つの神聖な儀式のように思える。私はコーヒーの豆を挽き、その香りが部屋に満ちるのを待つ。昨日の私なら、ただ眠気を覚ますための燃料としてそれを流し込んでいただろう。だが今の私は、その香りの奥にある土の記憶や、遠い異国の陽光を感じ取ることができる。日常とは、こうした微細な「呼びかけ」の集積なのだ。


「落ちないで、飛び続けること……」


私は、部屋の空気に溶け込んでいたその言葉を、今度は自分自身の血肉の一部として、深い確信とともに飲み込んだ。

飛び続けるとは、現実の苦難から目を逸らし、どこか遠い理想郷へと逃避することではない。むしろ、誰もが逃げ出したくなるような無機質で、時には残酷なまでに合理的な日常の真っ只中にあって、なお自分自身の「源泉」から汲み出した愛を注ぎ続けるという、果てしない反逆と挑戦の継続のことだ。夢見ることも、愛することも、かつての私にとっては「いつか辿り着くべき、遠い未来のゴール」だった。しかし、今の私は知っている。それらはゴールではなく、一歩を踏み出すたびに消費され、そして同時に自らの内側から湧き上がり続ける「歩行そのもののエネルギー」であるということを。夢を見ているから歩けるのではない、歩き続けることそのものが、夢の実装なのだ。


 私は、一週間分の社会的な排気ガスと、自己への疑惑で澱んでいた部屋の窓を、勢いよく開け放った。

冷え切った朝の空気が、私の内側に残っていた潜伏の熱と衝突し、白い吐息となって舞い上がる。窓の下には、すでに覚醒を始めた都会の動脈が見える。始発電車が鉄の音を響かせ、足早に職場という名の持ち場へと向かう誰かの影が、街灯の下を等間隔に通り過ぎていく。かつての私は、彼らの中に「自分という空虚な存在」を投影して絶望していた。しかし、今の私が見ているのは、彼ら一人一人の背中に宿っているはずの、まだ本人さえ気づいていない、内なる源泉の可能性だ。世界は、私たちが思っているよりもずっと、呼びかけに満ちている。

幸せを知らないのは、幸せの呼びかけを理解できない人だけ。

私は今、その呼びかけに力強く応答するための、新しい「生の言語」を携えている。それは、昨日までの私が他人の顔色を窺いながら使っていた、既存の辞書に載っているような、使い古された死んだ記号ではない。放射と潜伏という極限の往復運動を繰り返し、自らの細胞の一つ一つに刻み込んできた、熱を帯びた生の鼓動そのものだ。私はこの言葉を武器として、あるいは贈り物として携え、再び月曜日という名の、美しくも過酷な荒野へ戻る。


 都会の灰色のビル群が、朝の光を受けて銀色に輝き始める。その無機質な壁の向こう側には、数百万の孤独があり、数百万の「内なる声」が押し殺されている。私は、その巨大なシステムの中心部へと向かう。満員電車の密閉された空間、無機質なオフィスの蛍光灯、効率という名の神に捧げられる膨大な時間。それらはかつて、私の魂を窒息させる牢獄だった。しかし、今の私にとって、そこは「私が私であることを証明するための戦場」だ。周囲の喧騒が激しければ激しいほど、私の内なる静寂はその輝きを増していく。

一入立って思う。生きることにあらかじめ意味が用意されているのではない。私自身が、この無意味に見える世界の一瞬一瞬に、意味を「与え続ける」のだ。私が光源となり、この冷淡な現実に意味という光を放射し続ける限り、世界は色鮮やかな物語としての輝きを失うことはない。たとえ明日、再び不安と後悔という名の天使と悪魔が私の頭上を不吉に飛び回ろうとも、私はもう、その影に怯えることはない。彼らもまた、この広大な生の循環を構成する、欠かすことのできない不協和音の一つであることを知っているからだ。星のイバラが敷き詰められた茨の道も、無数の意志が交差する銀河の交差点も、すべては私が「私」という一個の宇宙を完成させるために用意された、最高の舞台装置なのだ。


 私は、鏡の前で身支度を整える。鏡の中に映る男は、一見すれば昨日までの彼と同じ、疲れた顔の凡庸な男に見えるかもしれない。しかし、その瞳の奥には、週末の深淵を潜り抜けた者だけが宿すことのできる、静かな凪の海が広がっている。私は、磨き上げられた一足の靴に、祈りを込めるように足を入れる。その革の感触は、大地という名の現実と結び直す、新しい契約の儀式のように感じられた。

扉を開け、一歩外へ踏み出す。

駅へ向かう道すがら、私はあえて立ち止まり、街路樹の葉の擦れる音に耳を澄ます。見慣れたアスファルトの隙間から顔を出す名もなき草花に、生命の逞しさを見る。これらすべての微弱な信号を、以前の私は「無益なノイズ」として切り捨ててきた。だが今の私は、それらすべてが私を呼んでいることを知っている。

朝の眩い光が、私の全身を容赦なく貫く。それは「生の黄金」だ。内なる声が、都会の喧騒と排気ガスの臭いを突き抜け、永劫の響きとなってこの世界の隅々まで鳴り渡る。


「ずっと、自分であり続ける。」


その誓いを、消えることのない道標として胸に抱き、私は確かな足取りで歩き始める。

落ちないで、飛び続けるために。

この生が残してくれた、無数の愛と希望の断片を、日常という名の真っ白なキャンバスに、私だけの色彩で描き出すために。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

本作『内なる声』は、これにて完結となります。


本作の着想は、古代の叡智である「カタカムナ第47首」に示されたことわりから得たものでした。この首には、「四相性を持つ生命の持続」や「マミクラタナ(神の仕事場)」といった概念が示されているとされています。


当初、この言葉をテーマに据えようとしたものの、なかなか具体的なイメージが結ばず、途方に暮れていました。しかし、何も浮かばぬまま、ただ手探りでキーボードを叩き始めたとき、導かれるようにこの物語が生まれました。

振り返れば、ある一晩の濃密な「妄想」の記録のような内容かもしれませんが、その静かな熱量こそが、今の私の「内なる声」だったのかもしれません。


【読者の皆様へ】

本作を最後まで見届けてくださり、心より感謝申し上げます。

皆様の率直な感想が、今後の執筆の大きな糧となります。

もしよろしければ、以下の5段階評価、および皆様の心に残った情景をお聞かせいただけますと幸いです。


評価: ★ 〜 ★★★★★


コメント:

最も印象に残った場面や、心に触れた描写など、自由にお聞かせください。

皆様がこの「内なる声」を、どのような響きや光として想像されたか、といった点も伺えれば幸いです。


皆様からいただく言葉が、この物語に最後の一片を付け加え、真の完成へと導いてくださることを願っております。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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