表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
報復した少女は逃亡した  作者: 夏樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/17

三国同盟(アーネ)

引き続きアーネ視点です。

 今、アーネ達がいるブルーメルラ王国は、世界の中央に位置する中央大陸で最も力をもつ三国のうちの一つだ。


 中央大陸にはいくつかの国が存在するが、中でも古くから三国同盟を結ぶシュテルン、ブルーメルラ、シュネーレが力をふるっており、長くその力を維持していた。


 それぞれが星月の国、花籠の国、雪狼の国と呼ばれる三国は、花籠の国が食料を、雪狼の国が武力を、そして星月の国が浄化を担い、長年同盟によって協力関係にあった。


 花籠の国、ブルーメルラ王国は広大で肥よくな大地に四季を持つ国であり、多くの自然があふれている。中央大陸の食糧庫とも呼ばれ、シュテルン、シュネーレだけでなく諸外国にも多くの穀物を輸出しているのだ。


「ただ、ブルーメルラは領土が広く平地が多いから、領土の防衛が難しいのよ。だから、平時は自国の軍で守っているけれど、もし戦争が起こればシュネーレからの援軍が来るの。そのための三国同盟よ」


 フード付きマントを購入したアーネたちは、朝市の出る通りにあるベンチで一息ついていた。既に朝市が終わった通りは人通りも落ち着いて穏やかなものだ。


 これからシャウに戻るためにどうするかを考えるのだが、それ以前にイサーナがこの国について何も知らない様子であるため、改めてアーネは簡単な説明をすることにしたのだ。


 アーネからの説明に、イサーナは不思議そうに首を傾げた。


「シュネーレって国はどうしてブルーメルラを守ってくれるの?」

「シュネーレはシュテルンを挟んで北の端にある国で、一年の半分以上が雪に覆われている土地なの。領土もあまり広くない。食料のほとんどをブルーメルラからの輸入に頼っているわ。ブルーメルラは食料を、シュネーレは武力を、それぞれが提供できるもので協力しあっているの」

「ふーん、支え合いってやつね。あれ? じゃあ、シュテルンは? 今の話だとブルーメルラとシュネーレの二国同盟で完結出来そうなのに。シュテルンは何を提供してるの?」


 イサーナの純粋な問いに、アーネは驚きと共に確信した。


(本当に何も知らないのね)


 それは、周辺諸国で生きるものであれば平民でも知っている常識だった。


「シュテルンは、浄化を担っている国なのよ」

「浄化?」

「貴方、瘴気も知らないとか言わないでしょうね?」

「あ、えっと、毒で、作物が育たなくなったり人が腐ったりするやつだよね」

「そうよ」


 瘴気はシュテルンだけでなく、大陸全土で問題視されている現象だ。

 それを知らないと言われたら、いったいどこに住んでいたのかと問い詰めるたくなるところだった。


「確か、聖女にしか浄化できないって……」

「ちょっと違うわね。瘴気自体は聖女以外の聖魔法や魔道具でも浄化できるの。ただ、瘴気は瘴気の穴と呼ばれる黒い穴から噴き出していて、浄化してもその穴をどうにかしないとしばらくすれば元に戻ってしまうのよ」


 瘴気の穴は、人や生き物が死ぬときに発生する穢れが一定量大地に溜まると発生すると言われている。


「シュテルンには聖女という特別な浄化魔法が使える女性がいて、瘴気の穴は聖女にのみ消滅させることが出来るの。シュテルンは外の二国で瘴気の穴が発生したら聖女を派遣して浄化する約束で、ブルーメルラから食料を、シュネーレから武力を得ているのよ」


 ただし、この三国同盟は完全な平等ではない。


 近年は中央大陸の情勢が安定しており、ここ五十年ほど大規模な戦争が起こっていない。そのため、武力を司る雪狼の国シュネーレはその立場を弱くしていた。

 食料をブルーメルラに、浄化をシュテルンに依存しているシュネーレは、この二国に対して頭が上がらない状況だ。


 もっとも、ブルーメルラも大地を汚染されては作物が死んでしまうこともあり、シュテルンの外交官はどちらに対しても強気の姿勢でいるらしい。


「シュテルン建国の祖が強い力をもった聖女様らしくて、そのせいなのかは知らないけれど、シュテルンにしか聖女が生まれないらしいわ」

「へ、へえ……」


 政治が絡んだ話はイサーナには難しかったのか、顔をしかめて頬を引きつらせていた。


「聖女って一人だけなの?」

「そうね。一代に二人ってのは歴史上聞いたことないわ。一人が務めて、亡くなると次の聖女が力に目覚めるらしいわ」

「じゃあ、誰が聖女になるかってのは分からないんだ」

「歴史を見れば貴族出身者が多いみたいだけど、平民出の聖女もいないわけじゃない。だから、シュテルン王国の女性であれば誰でも聖女の可能性があると言えるわ」


 だからなのか、地方によっては女性をとても大切にしているところもあるらしい。


(王都ではそんなこと、欠片もなかったけど)


 瘴気の穴の発生が多くとも、聖女のお膝元であることと魔道具の発展のおかげで、ここ数十年シュテルンの王都では瘴気による被害がほとんどない。

 それゆえに、王都に住んでいる貴族の中には爵位を継ぐことができない女性を見下す者たちも多いのだ。シュテルン自体が、古い考えが残った国でもある。


「でも、今のシュテルンには聖女はいないわ。高齢だった先代聖女が一年前に亡くなって、まだ次の聖女が見つかっていないらしいわね」

「それって結構まずいんじゃ……」

「まずいどころじゃないわ。聖女はシュテルンの象徴であり救世主なのよ。聖女がいなければシュテルンはいずれ瘴気の浄化が追いつかなくなるし、他国へ派遣できなければ同盟違反になって最悪同盟からはじかれるわ」


 そうなればまず困るのが食料だ。

 瘴気は大地に影響し、農作物に直接的な被害を及ぼす。


 自国の浄化が間に合わなければ食料難になり、ブルーメルラとの同盟が切れれば食料輸入も今までのようにはいかないだろう。ブルーメルラからの食糧輸出は他国も欲するだろうし、ブルーメルラ自体も自国の浄化に手を焼くだろう。


 今まで、浄化を盾に有利に立っていただけに、聖女を失ったときの反動は大きい。


(ある意味、聖女によって支えられている国だもの。その柱を失えばあっという間に崩れる)


 そのことを憂えるのではなく、いい気味だと思った。


「なんか……シュテルンだけじゃなくて、この世界全体が聖女がいなきゃやばいんじゃない?」


 見れば、イサーナが青ざめた顔で声を震わせていた。

 どうやら勘違いさせてしまったらしい。


「それが、そうでもないのよ」

「へ?」

「どういう理屈かは私も専門家じゃないから分からないのだけど、瘴気の穴が発生するのはシュテルンとその周辺国だけらしいの」

「そうなの!?」


 驚きの声を上げるイサーナに、アーネは苦笑した。

 イサーナの驚きは尤もだ。


「どうも、シュテルン王国の国土が瘴気の発生しやすい土地らしいわね」


 大陸全土で問題視されている現象ではあるのだが、実際に発生する場所は大陸でもシュテルン近辺に限られている。

 何故瘴気が発生しやすいのかは、シュテルンでは長年の研究課題だ。


 言い伝えでは、もともとその土地自体が瘴気が蔓延する大地だったらしい。

 シュテルンの祖である聖女は、瘴気に苦しむ人々を救わんと女神が遣わした使徒だとも言われており、初代聖女の献身によって大地は浄化され、そこに国が作られたと言われている。


(もともと瘴気の蔓延していた土地だから汚染されやすいのかは分からないけれど、よくもそんな場所に国を興そうと思ったわよ)


 余程己の力に自信があったのかもしれないが、後年苦しめられている子孫からすれば、いい迷惑でしかない。


「だから聖女がいなくて困るのは、シュテルンとその周辺国だけよ。それに、瘴気の浄化自体は出来るのだから、今すぐにどうこうなりはしないわ。どちらかというと、十年単位でじわじわと苦しんでいく形になるんじゃないかしら?」


 通常の浄化魔法や魔道具を使えば瘴気自体は浄化できるのだ。

 ただ、元である穴を消せない以上、定期的な浄化が必須になる。その浄化を行えるだけの金と人材がない土地から順に駄目になっていくだろう。


「そうなんだ……」


 イサーナはなんと言っていいのか分からないのか、気の抜けた返事をしながら複雑そうに口をへの字に曲げていた。


「どのみち、私たちが気にすることじゃないわ」


 気にしたところで、個人がどうにか出来る問題じゃないのだ。

 今だ顔をしかめているイサーナの強張った肩を宥めるように叩くと、イサーナはどこかほっとしたように体の力を抜いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ