50.聖女の裏切り
「ダンジョンも深くなってくると、上級の悪魔や魔人たちは、自分の意見を言うだろう。
必ずしも戦いで決着を付けなくても良いというボスとも、出会っているんじゃないか?」
シメオネさんは、説得口調になってきた。
俺たちを戦わせないようにとでも、考えているんだろうか?
「口ではそんなことを言う魔人もいたのは確かだが、結局攻撃してきたぞ。
人類と悪魔や魔人族は、共存できないと思うけどな」
リサは、聞く耳を持たないという感じだ。
「自分は、リサ先輩が戦うなら全力で援護します」
ロバート君は、リサと同意見のようだ。
「じゃあ、ボクはブクちゃんの方針に従うよ。
だって、ブクちゃんがボクたちのパーティーのリーダーなんだから」
ソラは、俺に判断をゆだねる。
「そうですわね。
でも思慮深いカマラ師匠が、ダンジョン放置派だったなんて。
もしかしたら、ダンジョン攻略は魔族の生存権を奪う酷い行為なのかもと、考えてしまう自分もいますわ」
イノリは、迷っているようだ。
4人の目線が、俺に集中している。
俺は、みんなの顔を見回してから告げる。
「俺たちは、今50階層のダンジョンの47階に居るんだ。
俺は正直言って、200年前に何があったのか、全く分からない。
ただあと3回、王子たちが48階を突破してくれていたら、あと2回。
戦いに勝てば、俺たちは大手を振って街に帰れるし、人類が存亡の危機に立つことも無い。
引くっていうなら、もう遅い。手遅れだと思う。
進もう! 本当に魔族が人類との共存を望むのなら、少なくともラスボスは戦いを放棄するはずだ。
そうじゃないなら、戦うしかない。
ここまでも、そしてここからも、俺たちは前に進むことしかできない!」
「言うじゃねえか。ブク。
アタイ達は、てめえをリーダーに担いだ瞬間から、てめえに命を捧げてるんだ。
進むって言ってくれて、感謝してるぜ。ありがとう、ブク」
「ブクロー先輩、自分は信じていたっス。
こんな所で戦いをやめたりするような人じゃ無いって」
リサとロバート君が、涙を流しながら握手してくる。
「ボクも、ブクちゃんの為なら死んでも後悔はないよ」
「私の行く道を決めるのは、ブクローさんだけです」
ソラとイノリも3人の握手の上に手を重ねてくる。
自然に5人の声が揃う。
「「「「「エイ、エイ、オー!」」」」」
「すみません、シメオネさん。
俺たちは、200年前の出来事について、どちらが正しいのか分かりません。
だから、進むことしかできません」
「あ、ああ。俺たちのことは、気にしないでくれ」
シメオネさんは目を逸らす。
そして一泊明けて、俺たちは48階に降りて行った。
『プリンス・プディング』は、ボスフロアでキャンプしている。
どうやら、48階のフロアボスを倒したようだ。
でも、何だか様子がおかしい。
テントの外には、カマラさんとスアレスさんの二人しかいない。
「ふ、二人だけ? 他のメンバーは?」
カマラさんが、淡々と教えてくれる。
「4人は、命を落としたわ。
王子は、まあ生きているわね。
大けがはしていないけど、テントの中よ」
フロアボスを倒していたら、いつもなら元気に出迎えてくれるんだが、大丈夫なのかな。
俺は、少し不安を感じながらテントの中に入った。
「ああ、君たちか?」
王子が、全然元気がない。
まあ、仕方ないかも知れない。
カマラさんによると、地下48階のボスは最初に話し合いを求めてきたそうだ。
カマラさんとスアレスさんは、真っ先に武装を解いて話を聞く姿勢を取った。
そこで王子はいきなり、敵に切り付けたらしい。
敵は、その一撃でかなりの重傷を負った。
そのおかげで勝てはしたが、王子と共に攻撃に突っ込んだ4人は全員帰らぬ人となったそうだ。
王子は当初4人を犠牲にしたが、48階を突破したことに喜んでいたそうだ。
49階は俺たちに任せるんだから、50階での戦いに3人だけでも加われれば、それなりに戦えると踏んでのことだろう。
だがその夜、カマラさんとスアレスさんは王子と共に戦わないことを宣告したらしい。
卑怯な勝ち方をして、仲間の犠牲を無下に扱ったことが許せないと、懇々と諭したらしい。
王子は怪我もしていたが、カマラさんからの治療も受けていないようだ。
イノリが治療をしようとするが、拒否された。
「クソッ、こんな最後の最後にきて、仲間に裏切られるなんて」
王子が吐き捨てるように言う。
カマラさんはダンジョン放置派だったようだから、最初から裏切っていたようなものだろう。
だが、王子の行動に問題があっただけで、裏切ったのではなく見限られただけにも思える。
「それで、どうするんですか?」
俺の質問にも返事はない。
「アタイ達は進むしかない。
ブク。お前が昨日そう言ったんだぜ」
確かにリサが言うように、王子たちのパーティーがどうあれ、俺たちは進むほかは無いだろう。
「しかし、『母の胎内で、聖女が裏切る』か。
裏切る聖女は、カマラさんだったのか」
俺が、ポツリと漏らす。
「今何と?」
イノリが、俺の方をすごい迫力でにらんでいる。
「い、いや、モーソイのやつが、すごく当たる予言の話をしていたんだ。
ハ、ハハハハ」
何だか、ヤバい気がする。
「モーソイさんの話は、どうでもいいです。
ブクローさんは、私が裏切ると思っていたんですか?」
「いや、そ、そんなことは、か、考えたことも、な、ないぞ」
「どうして、そんなに言葉に詰まるんですか?」
や、ヤバイ、王子のことをとやかく言う前に俺が見限られてしまいそうだ。




