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第281話 先に推理を披露した方が負けの法則

結局その晩、ディナーパーティは開かれなかった。第2、第3のシャンデリア落下事件が起きても困るし、しょうがないね。乗客たちは安全のためそれぞれの客室に待機を要請され、1等客室にお泊まりのお客様の食事は船員さんたちがそれぞれのお部屋まで運んでくることになり、2等以下の客室のお客さんたちは指定の時間にそれぞれのエリアにあるレストランやフードコートまで食べに行くことになったそうだ。


そんな状況で夫人の検死も無事終わり、イグニス様のお部屋にて豪奢なディナーを摂った俺たちが何をしているのかというと、情報収集並びに現場の再検証だ。女神スマホからのナノマシン散布によるシェリースキャンでこの船全体を3次元的に解析し、徹底的に事件に使われたであろう凶器を探している最中、ちょっと奇妙な事に気付いたので、凶器の確保は後回しにしてこうして地固めに勤しんでいるのである。


かくして現在は封鎖されている、血痕の跡が生々しい第1パーティホールでイグニス陛下と調べ物をしていると、例の美少女探偵がヒョッコリ顔を出した。


「ねえアナタたち、パセリーちゃんを見なかった? お夕飯のお時間だっていうのに帰ってこなくて心配なの!」


「さあ?」


「知らんな。時に我がライバルよ、捜査の具合はどうだ?」


「秘密なのー! この事件を解決するのはこの名探偵エシャロットちゃんだもの!」


「うむ、その意気やよし!」


「まだ何か用なんです?」


「ううん、べっつにー? ただ、エシャロットちゃん以外の探偵さんと現場でバッタリ出くわしたのは初めてだから、なんだか新鮮だなーと思って!」


「フ! 名探偵の往くところ事件あり! まして斯様ないかにもクローズドサークル的事件が起きそうな豪華客船だ! たまたま探偵がバッティングしてしまったとしても無理はあるまい!」


「そうなのー! おじさん解ってるのー!」


エヘヘー! とあざとくイグニス様に纏わり付くピンクのオカッパ頭の美少女探偵。イグニス様も満更ではなさそうに大笑いしている。よくやるよ全く。昔の俺だったらその光景がなんか面白くなくて、不貞腐れて足早に立ち去っていただろうな。俺も大人になったもんだ。


「さて、これで大方事件の目星は付いた。後は決定的な証拠を見付けるだけだな」


「そうなの? 凄いのー! ひょっとしたらエシャロットちゃんと同じ結論に至ってるかもしれないの!」


美少女探偵はニコニコしながらイグニス様をじっと見上げている。


「あのねおじさん。もしエシャロットちゃんの方が先に、その決定的証拠を見付けちゃったかもしれない、って言ったらどうする?」


「それは実に無念である! だが美味しいところは早い者勝ちと相場が決まっておるでな! 大いに悔しがりつつ、そなたの健闘を称えるであろう!」


「……そっか! それじゃあおじさん、後でね!」


ニンマリ笑ってそう言うと、美少女探偵はスカートを翻し、ピンクのオカッパヘアーを揺らして第1パーティホールからバタバタと出ていった。


「さて、どうなりますかね?」


「さてな。後はローガン次第であろうさ。なんなら、俺が手伝ってやっても構わん」


「2人目の死人を出すおつもりで?」


「はっはっは! 言うではないか! そなたにも天国行きの特別切符を切ってやろうか? 今ならば特等席に乗り放題だぞ? ん?」


「はっはっは! それこそまさかですわ」


     ◆◇◆◇◆


「さて諸君。よくぞ集まってくれた」


時刻は23時。イグニス陛下のスペシャル推理ショーが始まるよー! と事前に派手に喧伝しておいたため、1等客室の高級ラウンジにはかなりの人数が集まっている。特に、あの事件発生当時パーティホール内にいた人間は全員集めるようにと陛下が船長さんに念押ししておいた。


だがどうやら当時あの場にいなかったであろうアリバイ持ちの人間も含め、1等客室に宿泊している客はほぼ全員が参加しているようだった。そりゃそうか、あの名物暴君イグニス・マーマイトのワンマン推理ショーだもの。気にならないわけがない。


ちなみにこれまた陛下の強い要望により、この場でこれから行われるイグニス陛下の推理ショーは伝声管を伝って船内中に響き渡る手筈となっている。さあ、ここからが頑張りどころですよイグニス様。


「諸君! 本日発生した痛ましい事件について、余は既に粗方の仔細を掴んでおる! まず第一に、これが殺人であることは紛れもない事実だ!」


選挙演説か! ってぐらい声を張り上げ、力強くそう断言する陛下に何人かが息を呑んだ。ソファに力なく座って項垂れていた、亡きネグローニー夫人の侍女プルーンさんが顔を上げる。


「あのシャンデリアは拳銃により故意に撃ち落とされたものだ。弾は4発。いずれも人目を盗み、寸分の狂いもなく鎖に命中させた殺人犯の手腕は見事というよりあるまい!」


「ですが、それなりの人数がいる中で誰にも見咎められることなく、4回も銃を撃つことなどできるのでしょうか? 狙いを定めるべく腕を高く掲げれば、それだけで目立ちますが?」


陛下の独壇場に合いの手を入れたのは俺だ。無論、これも仕込みである。


「無論、可能だとも! なんなら余にもできるぞ? ほれ」


陛下がそう言いながら上着のポケットに手を突っ込むと、そのまま軽く肘を曲げて上着の裾ごと何かを持ち上げる。何人かがそれはポケットの中にしまわれた拳銃だと気付いたようだった。


「さすがに撃ちはせぬから安心するがよい! さて、銃を握ったことのない者らは知らぬやもしれぬが、通常、銃には風の消音魔法を刻印したサイレンサーと呼ばれる魔道具が付随するものだ。これを使えばたとえ銃を撃ったとしても、その銃声は誰の耳にも届かぬ」


「発砲時に上着に穴が空いたり、火薬で布地が焦げたりすることまでは防げませんけどね」


「犯人は何食わぬ顔で引き金を引き、その全弾をシャンデリアを吊るす四方の鎖に命中させ、撃ち落とした! 諸君らの中に、事件の直前、金属が割れるような音を聴いたような覚えのあるものは?」


何人かが顔を見合わせ、そのうちの数名がおずおずと手を挙げる。


「結構。かくして夫人は憐れにも鎖を失い落下するシャンデリアの下敷きとなり、亡くなってしまったというわけだ!」


「……では陛下、一体、誰が奥様の命を……?」


「うむ、判らん!」


「は?」


そのミス・プルーンの『は?』は、この場に集められた者たちの、或いは伝声管越しにこれを聴いている全ての者たちの総意であったことだろう。


「少なくとも当時あの場にいた招待客、スタッフらの中の誰かの犯行であることは疑いようもないが、その後の初動がな! シャンデリアの突然の落下に驚き逃げ出した者、下敷きとなった夫人の痛ましい姿を見て気分を悪くし席を離れた者。助けを呼びに会場から出た者もおったな?」


「とにかく、俺たちはあの後一度、全員部屋に戻された」


「その通りだ! その後、件の美少女探偵がこれは事件だと騒ぎ出し、皆を集めて事情聴取を始めるまでに、それなりの時間があった! つまりは凶器である拳銃とそれを隠すのに利用した上着なりストールなりを海に投げ捨てた後で、手や腕を洗って硝煙反応を消してしまえるだけの時間が誰にでも余裕であったというわけだな!」


ちなみに硝煙反応は金属性魔法で検出できるそうだ。便利だね魔法。便利すぎて光や闇の嘘を暴く魔法を片っ端から容疑者にかけていけばいいんじゃね?? と言ってはいけない。ほら、1等客室エリアに招待されているのは世界各国のVIPばかりだから、きっと何か見えない力が働いているんだよきっと。


イグニス様なら『皇帝特権だ!』とか言いながらやろうと思えば余裕でやれるだろうけれど、そんなことしたら折角の探偵ムーブが台無しだから今はまだやるつもりないだろうし。……ゼト神&ローガン様の良心組が言った通り、こういう倫理観の低さが俺やイグニス陛下の重篤な短所であり、割りきりの早さという長所なんだろうなあ。


「じゃあ、証拠がないじゃないですか」


「うむ、ない! 決定的な目撃者が見つかるなり、この広い海のどこかに漂っているであろう件の凶器が見付かれば話は別だが、そもそも犯人を捕まえねば、何故夫人が殺されたのかを断定することもできぬ! 推測や憶測、仮説の類いを幾ら立てようとも、それを裏付けできるだけの証拠がなければさしもの名探偵と言えどお手上げなのだよ!」


周囲の困惑の視線など余の知ったことではない! とばかりに自信満々で力強く断言する陛下の演説慣れした姿は非常に堂々としており、何名かはその堂に入った姿に騙されて、あのイグニス様がそう仰るのならばそうなのだろう、みたいに納得しかかってしまっている。まさにイグニスマジックだ。


「遺産の相続権を巡るネグローニー家のお家騒動ならば、わざわざあんな悪目立ちする方法で派手に殺す理由がない。行きずりの物取りの犯行ならば夫人の私物が手付かずなのはおかしい。人目に付く場所で死人を出してシルバー・フラワー号の処女航海を台無しにしてやろうという悪意ある陰謀ならば、そもそも夫人でなくとも誰でもよかった可能性もある、ということですね」


「金持ちへの逆恨み、海洋保護活動絡みで買った怨恨、理由なき快楽殺人鬼、その他諸々の可能性をどれほど検討しようとも、最後に物を言うのは決定的な証拠よ! それが見付からぬ以上、この事件は証拠不十分で迷宮入りということになるな! 諸君! カシミール公国到着までは船内に潜む殺人鬼に注意しつつ、各自おとなしく部屋に引きこもっているように!」


では解散!! とニヤリと笑って陛下が大きく手を叩いたその時。


「ちょっと待ってほしいの! 事件はまだ終わってないのー!」


件のピンクのオカッパ頭の美少女探偵が、まるで扉の後ろで見計らっていたかのようなタイミングで、何か布のようなものを抱えて飛び込んできた。さーて、おいでなすったぞう。

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