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第250話 EE-エヴォリューション・エクスプレス

「ぎゃあああああ!? わらわの、わらわの手があああ!?」


「カヲルコお嬢様!? ぎゃっ!?」


「おのれ貴様! ぐわーっ!?」


さすがは名刀。まさか俺の拙い技術でも、斬撃を鎌鼬のように飛ばせるだなんて思いもよらなかったが、とても助かったので結果オーライ。黒い天狗の面をかぶった侍達が、俺の飛ばした斬撃に心臓だけを斬られ、背中から一筋の血を迸らせながら斃れていく。目には見えない巨大なカッターの刃が、猛スピードで左胸を貫通していくようなものだ。アケガラスと言ったね。うん、よく手に馴染む。カガチヒコ先生肝煎りの降誕祭プレゼント、早速の大活躍である。


「う、動くな! この男がどうなってもいいのか!?」


「うん、いいよ」


「いいのか!?」


手首を切り飛ばされ絶叫しながら錯乱する女剣士を後方車両に退避させ、残った黒天狗面の男達が呆気に取られる熟年紳士の首に刀をあてながら俺を脅すがあいにく俺にその手の脅しは効かないよ。


「助けられたら助けようって思いはしたけど、無理なら無理でしょうがないっしょ。あ、もしその人を殺すつもりなら、そこにいるその人の奥さんと子供もキッチリ殺してね? 俺が助け損なったせいでその人が死んだんだとかって、諸悪の根源であるお前ら差し置いて何故か俺が逆恨みされでもしたら堪ったもんじゃないから」


「こんの、外道があ!」


「え? お前らがそれ言っちゃう?」


先生直伝の抜刀術と鎌鼬の組み合わせは強烈だ。たった一振りで熟年紳士を背後から羽交い絞めにしていた黒天狗侍と、その喉に刀をあてていた黒天狗侍の2人の首を同時にポロリさせる。悲鳴を上げさせる間もなく、ゴロっと転がり落ちる2つの黒天狗頭。うーん、こんなにも嬉しくないポロリもあるよは、以前みんなで海に行った時に、アグレッシブに泳ぎ回るクレソンの巨体に水着が耐え切れずにビリビリしてしまった時以来かもしれない。


「ぐっ!? ウィンタ! フユミ!」


「父上ぇ!」


「アナタぁ!」


頭部を失い崩れ落ちる2つの遺体の首から噴出した血をちょっと浴びてしまいながらも、必死に2つの胴体を突き飛ばして逃げ出した人質熟年紳士が奥さんと子供のいるボックス席に飛び込んで、そのまま覆いかぶさり懸命に家族を庇おうとする。うんうん、美しい家族愛だね。あんな奴らに壊されてしまわなくてよかったよかった。


「貴様!? 異人か!?」


「アッタリー。でも半分はジャパゾン魂持ってるよ? あーいや、半分のジャパン魂の更にジャの部分だけだから、1/4ぐらいのクオーター?」


「ふ ざ け た ことをーっ! わらわにこのような仕打ち、あああ赦さぬ! 父上が赦す筈がないっ! 貴様は今、黒天狗党の全てを敵に回したのだっ! もう逃げられはせぬ! そなたはもはや死んだも同然! 世界中どこに逃げようとも、必ずや黒天狗党の追手が貴様を一族郎党地獄の底に叩き込むであろう!」


どうやらお仲間に回復を魔法をかけてもらったらしく、止血され手首から先がなくなった腕を引っ提げて半泣きになりながら戻ってきたテロリストの実行部隊の隊長たる女剣士の潤んだ目と俺の青い目がかち合う。まあいいか。どうせ生かして帰すつもりもなかったしな。


どうやら利き手ポロリショックが異人にして実行犯たる俺への怒りで上書きされたのか、この車両内に残っていた黒天狗侍どもが全員斃れてしまったことで後に引けなくなったのか、外道女剣士が残った方の手、恐らく利き手ではないのであろうそれで、腰に差した刀をぎこちなく抜き放つ。


怒りたいのはコッチだよもう。せっかくのいい鉄道旅夢気分の筈が、急遽予定を変更してジャパゾンの車葬からをお送りさせられた挙げ句目の前でいきなり不幸せ家族計画を見せられそうになったんじゃ、カガチヒコ先生の真心の余韻が台無しじゃないか!


「クソ! 全ては貴様ら異人共のせいだ! 貴様らさえ来なければ、この国がこんな風になってしまうこともなかったんだあーっ!」


「それはただのやつあたりでは? トレンディー精神を尊重するならもっとこう、まずは平和的にダンシングなサムシングの集団デモ暮らしーから始めるべきなのでは?」


「煩い煩い煩い! 死ね! 我らが正義のために! 父上の大義の、この国の未来のために死ねえーっ!」


「No, We can't.」


って、もう聴こえてないか。斬撃を飛ばすだけで片がつくと、体や刃に血を浴びなくて済むからいいな。血の臭い、苦手なんだよな俺。レアステーキの血ですらあまり好きになれなくて、ステーキは常にウェルダンで食べるぐらいには駄目なのよね、血。とりあえず女剣士を斬ったことで動く敵はいなくなったし、先頭の運転車両はカガチヒコ先生にお任せしたから、後は順番に最後尾まで駆除していけばいいか。


「黒天狗党の関係者がいたら手ー挙ーげてー!」


一応黒い天狗の面をかぶらずに一般乗客のフリして乗っている奴はいないか、もしいたら本人の意思とは無関係に強制的に挙手してしまう魔法を込めた言葉で車両内にいる乗客達に問いかけるも、誰も手を挙げないどころか狂人でも見るような目で怖ろしげに俺を見つめてくるばかりだ。てことは、大丈夫みたいだね。この要領で最後尾まで行こう。


(ねえシェリー、念のため訊きたいんだけど、列車の屋根に乗ってる奴とか外壁にしがみついてる奴とかいないよね?)


(衛星からの空撮とスキャン結果ではいらっしゃらないようですな。念のため広域マップで確認致しましたが、黒天狗党の列車や飛空艇が接近中、という事態もなさそうでございます)


(OK、ありがと)


「ま、待ってくれ! 君は一体!?」


次の車両に移ろうとする俺を、ヨタヨタと立ち上がった件の熟年紳士が呼び止める。えーと、なんだ。こういう時はバージルを見習って、『名乗る程のもんじゃあごぜえやせん』とかキザな台詞を吐けばいいのか?


「……人呼んで、快傑アブラミ小僧!」


「……は、はあ?」


しまった! なんかそれっぽいこと言おうとして、盛大に滑ってしまった! 気まずすぎて死にたいので、今のはなかったことにしてさっさと先を急ごう! どうせもう二度と会うこともないであろう赤の他人だしね。へーきへーき、だいじょーぶだって! (精一杯の強がり)


「アブラミ小僧君、命を救ってくれたこと、感謝する」


「……別に。アナタも聞いていたでしょう? 俺はアナタを人質に取られても、平然と見捨てようとした程度の酷い男ですよ」


「それでもだ。あの時君が助けてくれなければ、私はなす術なく射殺され、最悪家族にも危害が及んでいただろう。私達一家を助けてくれて、本当にありがとう!」


その場のノリと勢いでくっだらない冗談を言ってしまった後だというのに、そんなにも真面目にお礼を言われてしまったら、ますます俺の立つ瀬がない。自業自得とはいえ気まずさマシマシすぎるので、俺は猫耳つきの子供用編笠をさらに目深にかぶり、無言で後部車両へと走り出す。


前々から薄々思っていたことだが、どうやら俺にはユーモアのセンスがなさすぎるのかもしれない。こういう緊迫した場で殺伐とした空気を和ませようと、笑えないジョークの1つも飛ばしてしまってからいつも後悔するのである。あまりの薄ら寒さや場違い感に、読めない空気を凍らせてしまいがちな俺のそういうところ、いかにもコミュ障拗らせて育った駄目なオタク君の典型って感じでちょっと悲しい。そして必要とあらば人を殺すことになんら躊躇いや戸惑い、抵抗がなくなってしまっていることも。


この世界の人間としては、むしろそっちの感性のが正常なのかもしれないけどさ。


     ◆◇◆◇◆


「『快傑アブラミ小僧現る!』『通りすがりの小さな正義の味方!?』。黒天狗党の党首とやらは……ふむ、憲兵共は取り逃がしたか。随分とまあ、大立ち回りの大活躍だったようでござるな?」


「勘弁してください」


まさかのテロ組織による列車強盗にバッタリ遭遇してしまった翌日。列車内にいたテロリスト達を全て殲滅し、そのまま転移魔法を使って2人で行方を晦ました俺達は、空港を経由することなくゴルド邸に直帰していた。あの状況でのんびり鉄道旅行なんか続行してる場合じゃなかったからね。次の駅で停車して乗り込んできた憲兵さん達に事情聴取などされてしまったら、指名手配犯のカガチヒコ先生が逮捕されちゃうよ。


そしてどうやらあの時俺が助けた熟年紳士はただのセレブではなく、ジャパゾン国の鉄道省に勤務するお偉いさんにして大手新聞社の株主さんでもあったようで、事件当時のことを赤裸々に語る彼のインタビュー記事の中で話題に出た快傑アブラミ小僧のことが、大々的に三面記事を飾ってしまったのである。


まさかの事態に危く盛大にモーニングコーヒーを噴いてしまうところだった。ハロウィンの時といい、新聞絡みで碌な目に遭わないな俺は! まあ今回は俺の写真じゃなくて、似ても似つかない浮世絵だからまだダメージは少ないけれども。


「うー……こんなことなら俺が先頭車両に行って、カガチヒコ先生に後方車両のお掃除頼んだ方がよかったかなあ。なんで俺、あの時前じゃなくて後ろに行っちゃったんだろ……って、ああそっか。先生、指名手配犯だからしょうがないかー……」


「幸い、主殿は某のように面割れまではしておらぬご様子。気乗りせぬのであれば、このまま放置し都市伝説として風化するのを座して待つがよろしかろう」


「風化するかなー。するといいなー。人の噂も49日って言うし?」


「否、75日にござる。差し引き26日分の延長であり申すな」


……ギャフン。


新聞記事によれば、どうやら黒天狗党の首魁たる黒天狗様とやらは、列車ジャックが失敗に終わったことを知ると即座に逃走し、そのまま憲兵さん達の追跡を撒いてまんまと逃げおおせたらしい。以下黒天狗党やそれを取り逃がしてしまった政府や特警へのバッシング等が続き、その隣には子豚のお面をかぶった小男が、天狗のお面をかぶった大男達を懲らしめている浮世絵がデカデカと掲載されている。


わざわざこのためだけにジャパゾン国まで朝刊を買いに行ってきたカガチヒコ先生もカガチヒコ先生だけど、まるで講談師めいて快傑アブラミ小僧があたかも八面六臂の大活躍で、テロ組織相手にバッタバッタと快刀乱麻の大立ち回りをしたかのように誇張しまくった話を掲載する新聞社というのはいかがなものか。或いは黒天狗党の名をできる限り貶めんとする、プロパガンダが目的なのか?


どちらにせよジャパゾン国では今、『快傑アブラミ小僧が黒天狗党の邪悪な野望を打ち砕くべく立ち上がった!』だの、『アブラミ小僧とは一体何者なのか!? 気になるその正体に迫る!』だの、『アブラミ小僧の正体に繋がる情報をタレ込んだ者には政府から金一封!』だのと面白おかしく騒ぎ立てられた結果、謎のアブラミ小僧ブームが流行り出してしまったらしく、俺としてはどうしてこうなった? と首を傾げるよりない。


アレか、黒天狗党を倒すだけ倒して、列車内から忽然と姿を消してしまったのが不味かったのだろうか。謎が謎を呼ぶミステリアスな感じで、正体不明の不思議な存在になってしまったからこそ中途半端に人々の好奇心を面白おかしく刺激してしまったのかもしれない。いやでもコチラとしては、あの場面逃げ出すしか選択肢がなかったわけで。はー、ほんと早く廃れてくれないかな、快傑アブラミ小僧。


民衆が無責任に期待するのは勝手だけど、俺わざわざ黒天狗様とやらを退治しにまたあの国まで行ったりはしないからね? たまたま通りすがりに降りかかってきた火の粉を払っただけだから! 今年も残り僅かだなーって静かに余韻に浸る間もなく、とんだドタバタ騒ぎの年の瀬になってしまったぜ全く。


来年は何事もなく、静かで平和な年になればいいなー。ほんと、頼むよ女神様。

皆さん、今年は萌え豚転生をご愛顧頂き本当にありがとうございました。

なんとなくで書き始めた小説が、まさかの受賞を頂き書籍化までいくとは夢にも思いませんでした。


これも全てホークたちの活躍を応援してくださった読者の皆様、数ある名作の中から拙作を拾い上げてくださったツギクルの方々、その他大勢の皆々様方のお陰だと思っております。

来年も続けられる限りは続けていきたいと思いますので、これからもご贔屓に頂ければ幸いです。


それでは皆様よいお年を。

ありったけの感謝を込めて。


2021年末。神通力。

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