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第248話 メリー降誕祭・急

「うわっぷ!? やったなこの!」


「おいおい、どォこ狙ってやがんだァ!」


バシャバシャと、ごっつい水鉄砲から勢いよく撃ち出されたお湯が互いの顔だの体だのに命中し、そこかしこにお湯が飛び散る。クレソンが降誕祭プレゼントにと買ってきてくれたのは、まさかの子供用の玩具の詰め合わせだった。お風呂で遊べる水鉄砲だの、お湯に浮かべて組み立てられる立体パズルだの、最初はこの歳になってお風呂ではしゃげるかよ! とツッコミを入れてしまいそうになったのだが、これがなかなかどうしてどうして、いざ遊んでみると結構童心に戻れてしまうのだ。


やはり男というのは幾つになっても、少年の心を忘れられないのだろうか。なーんてね?


「くらえ!」


「甘ェぜ!」


渾身の神エイムを洗面器シールドで防がれ、喉に一撃もらってしまった俺。一撃死制ではなくポイント制で競っているため倒れることはないが、かなりリードを広げられてしまった。というかクレソンのくせに、なんでこんなに水鉄砲の扱いが上手いんだよ! 君の得意分野は徒手空拳じゃなかったのかい!?


「お前達、いつまで入っているつもりだ」


「あ! ご、ごめんオリーヴ!」


「がっはっはっは! 大当たりだなァご主人よォ!」


あまりにも俺らが長湯をしているものだから、心配になって様子を見に来てくれたのだろうか。俺が3点バーストしたお湯鉄砲を軽い足取りでヒョイヒョイ避けたクレソンの背後のガラス戸が開き、顔を覗かせたオリーヴの顔面にそれらが全弾直撃して、彼のお顔やパジャマの胸元がびしょ濡れになってしまう。


「このまま正座でお説教と、さっさと風呂からあがるのと、どっちがいい?」


「すぐに出ます、はい!」


「なんでェ、つまんねェぞォ!」


「40すぎて、2時間も風呂で遊んでいる奴があるか! 坊ちゃんがのぼせてしまったらどうするつもりだ!」


その言葉、俺にもグサっと突き刺さるんすよ……。いい歳こいて幼稚でごめんなさいなんだぜ……。


「怒られちまったなァご主人!」


「叱られちゃったねえクレソン」


「風呂場で遊ぶなとは言わんが、限度というものを考えるべきだなお前達は」


「はーい、反省してまーす」


「してまァす! ってか! だはははは!」


オリーヴが濡れたパジャマを着替え始めた脱衣所で体を拭き、冬でも最大風速でブン回している扇風機魔道具の前で涼みながら、俺があげたドライヤー魔道具で毛皮を乾かすクレソン。短毛種のオリーヴやカガチヒコ先生と違って、比較的毛足が長いネコ科のクレソンの毛皮は乾くのに少し時間がかかるため、今年の降誕祭プレゼントはコレがいいんじゃないかと思ったのだ。


ゴーゴーと乾いた熱風を浴びながら、美味しそうに冷たいイチゴ牛乳を飲んでいるクレソン。有効活用してくれているみたいで、よかったよかった。



     ◆◇◆◇◆



「ヘヘ! メリー降誕祭ですぜ坊ちゃん!」


「フッフッフ! お主も悪よのうバージル!」


「いえいえ若旦那様程では!」


皆が寝静まった深夜。こっそりチョコレートたっぷりの焼き菓子だの、ビーフジャーキーだのイカの燻製だのを持ち込んでの楽しい楽しいお夜食タイム。体に悪いのは百も承知なんだけどねえ、どうしてもねえ、やめられんのよ。


「お! こいつァなかなか、滅多にお目にかかれねえ特級酒じゃねえですかい! ほんとにこんな高価なもん、頂いちまってよろしいんで?」


「いーのいーの。ささ、グイっと! グイーっと!」


「おっとっと! ヘヘ! こりゃあすいやせん!」


「どう?」


「っかー! こいつは効きやすぜえ坊ちゃん! 美味えー!」


「そっかそっか! 喜んでもらえてよかったよー!」


「プハァ! こーんな美味えタダ酒飲ましてもらえるたあ、あっしは護衛冥利に尽きやすぜ! 坊ちゃんに拾われてよかったー!」


俺からのプレゼントである非常に高価なお酒をグイーっと……はいかず、美味しそうにチビチビチビチビ舐めるように飲みながら、安くて味が濃くて体に悪いけどそこがまた美味しいおつまみをご満悦で齧るバージル。降誕祭パーティで美味しいもんしこたま満喫した後だってのに、真夜中にこんな体に悪そうなもんバカスカ飲み食いしちゃって、ローリエやオリーヴあたりにバレたら後が怖そうだけど、バレなきゃいいのさ、バレなきゃね!



     ◆◇◆◇◆



「何か言い訳は?」


「ない! フハハハハ喜べホーク! わざわざこの俺が降誕祭の夜に直々にそなたに会いに来てやったのだぞ? そなたは全帝国民……のおよそ2割……いや3割程度の者達が泣いて羨ましがる栄誉に与る幸運を得たというのに、何故そのような顔をするのだ??」


「真夜中に! 先触れもなしにいきなり部屋に直接転移してきて! おまけに無言で枕元に立たれたら! 驚くに決まっているでしょうがっ!!」


そう、そうなのだ。ふてぶてしくもふんぞり返りやがっていらっしゃるイグニス・マーマイト皇帝陛下。どうやら俺が陛下主催の『降誕祭だよ破廉恥上等! チキチキ! お楽しみ無礼講降誕祭パーティ!』への参加を辞退したことがよっぽど不満だったのか、日付の変わる深夜0時にいきなり押しかけてきやがったのである。


23時ぐらいから始まったバージルとの深夜のこっそり宴会も終わって、1人ベッドでウトウトしかけていた俺が寝返りを打ったら枕元に暗闇に同化した陛下が、真っ赤なネコ科の瞳を輝かせながら立っていた時の気持ち想像できる? ふっつーにビビるわ! せっかくローリエがくれた枕が高さバッチリドンピシャで、敏腕メイドって凄い! って感心しながら寝つけそうなところだったのに、衝撃で一気に目が冴えてしまったなり……。


「うむ、サプライズで驚かせるべきか、或いは紳士的に耳元で囁くべきか、もしくは俺らしく情熱的に来訪を告げるべきか柄にもなく悩んでしまってな! まあ、滅多に見られぬそなたの涙目を見られたのだから、これはこれでよしとしよう!」


「よかないわい!」


真夜中であるにも関わらず、平然と大声で喋り大笑いするイグニス様のせいで、無駄に防音魔法を部屋に張る羽目になってしまったではないか。酔い潰れたバージルをきちんと部屋まで送り届けておいて正解だった。これで2人して雑魚寝とかしてたら、絶対めんどくさいことになってたもんこの状況。


「さあホーク! 誰もが羨む俺という極上の降誕祭プレゼントを与えられし世界一、否! 宇宙一幸運な男よ! なんでも望みを言うがよかろう! このイグニスサンタがそなたに最高の夜を贈呈してやろうではないか! フゥハハハハハハハ!」


「安眠」


「うん?」


「安眠が! 欲しいでーす!」


「なんと! この俺を放置して寝たいとでも言うのか!? そんなバカな!」


「バカはテメエだオラァ! いいですか陛下! 明日の朝になったら遊んであげますから! 今日はもうおとなしく寝ましょうよ!」


「うーむ……だいぶ俺の完璧な降誕性 DE ドキドキ計画と違う結果になってしまったようだが、そなたが寝たいと申すのであれば致し方なし。よかろう、今宵は引き下がってやろうではないか! 俺が他人の都合に合わせて己のしたいことを諦めるなぞ、滅多にない貴重な経験だぞホーク!」


やれやれしょうがないなあコイツは本当にどうしようもない愚か者だ、みたいな態度丸出しで、真っ赤なサンタクロース姿で深々とため息を吐くイグニス陛下。本気で叩き出してやろうかコイツ。


「言っておきますけど、朝の4時とか5時とかに叩き起こされたらしばき倒しますからね??」


「……無論、そのような無粋な真似はせぬとも! さあ眠るがよいホーク! このイグニス・マーマイトが、そなたに確かな安眠を約束しようとも!」


嘘だ! 絶対そうしようと思ってたでしょ今。本当にもう、全く陛下と来たら。


最後の最後にとんだお騒がせイベントが挟まってしまったが、まあ、これも陛下らしいと言えばらしいか。明朝どんだけハイテンションな彼が待ち構えているのかと想像するだけで、うへえー! となってしまいそうになるが、まず間違いなく降誕祭の朝を楽しく盛り上がれるであろうことは疑いようもない。ほんと、陛下マジ陛下って感じだぜ全く。

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