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侯爵令息の憂い  作者: ini
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侯爵令息のお支度

そして王城でのアダム殿下のパーティーの日になった。

このパーティーはアダム殿下と年の近い貴族の子息令嬢は全て参加するようにとのことだった。

僕は記憶が戻ってから初めて屋敷の外に出られる嬉しさと、お城でのパーティーが楽しみなのとで朝からそわそわとしてしまっている。侯爵家の人間であるという自覚はまだあんまりないけれど、前世もふまえるとそれなりの年齢になるし少しはしたないかもしれない。でも、自制しようとすればするほど僕の世話をしてくれている侍女のアマンダにクスクスと優しく笑われた。わぁ…恥ずかしい…。


「テオドア様はよっぽどパーティーを楽しみにされていたんですね」

「あ、えと…うん…」


えへへ、と笑って誤魔化す。アマンダはそんな僕に笑顔で返すと座るように促し、髪の毛のセットを始めてくれた。整えてくれるアマンダもにこにこととても嬉しそうだ。少しそばかすが散っているアマンダの笑顔はどこにも邪気がなくて、とてもチャーミングだなと思う。彼女は素敵な女性で僕の自慢の侍女だ。


「でもテオドア様が会場に入られたらきっと大変ですね」

「え?どうして?」


僕の返事にふふん!とばかりに笑うアマンダ。


「だってテオドア様はこんなに愛らしい方ですもの。きっと、いえ間違いなく視線を一人占めに違いないですわ!」

誇らしげにそう言うアマンダに僕はなんて返事をしたらいいのかわからなくて、曖昧な返事をする。

僕は男だから、そんなことないよ。

楽しげなアマンダに心の中でそう、呟く。物語だったら、きっと素敵な恋が始まるんだろうな。お城での素敵なパーティーで出会う男女。お互いに手を取り合って見つめあってーー。僕が、女の子だったら。

でも僕は女の子になりたいわけじゃない。ただ、普通に恋がしてみたい。

誰かの一番になりたいのに男だからきっと誰にも選ばれない、それだけ。


さっきまであんなにウキウキしていて落ち着かなくてはとすら思っていたのに、気持ちが沈んでしまった。…僕はいつの間にこんなに贅沢になっちゃったのかな。

優しい家族に自由に動く体。家だって侯爵家で裕福なのに。

これ以上を望んだら、きっとバチが当たってしまう。でも、それでも恋に憧れて…。


「さぁテオドア様!お支度ができましたわ」


アマンダの言葉にハッとして顔を上げる。用意してくれた姿見の前に案内されて、僕はあまり自分の格好に興味はなかったけれど椅子から立ち上がる。僕は男だから、女の子みたいに誰かの目に止まることなんてきっとない。でもアマンダがあんまりにも自信たっぷりに僕を見ているから、がっかりさせたくなかった。

さくさくと音を立てる柔らかな絨毯を歩いて姿見の前に立って、恐る恐る視線をあげる。目にした瞬間、僕は顔が熱くなるのを我慢出来なかった。


これが…ぼく?!本当に?!


貴族らしく伸ばした髪は可愛らしく後ろで編まれて、普段は下ろしている前髪もキレイに分けられて流れている。紺色をベースにした貴族服には白いレースやアクセントに赤が散っていて華やかなのに決して下品ではなくて。

可愛らしさを存分に引き出すような、そんな自分の姿に本当に、本当に、驚いてしまった。

パチパチと瞬きを繰り返す僕にアマンダは鼻息荒く僕を誉めてくれている。


「テオドア様、本当にお可愛らしいですわ…!物語に出てくる王子様のよう!」

「あ…ぅ」

「どんなご令嬢もテオドア様には敵いませんわね!本当にお可愛らしい…」

「…あ、アマンダ…もうそれくらいに…」

「まぁテオドア様、もっと私に誉めさせてくださいまし!」


顔が真っ赤になっていると思う。恥ずかしい。こんなに誉めてもらえることなんてなかった。前世を含めて。

アマンダは決して無理をして誉めてくれているわけではないのがわかってしまうから、余計に恥ずかしい。けれど嫌な気持ちには全くなることはない。アマンダは、とても素直で優しい人だと知っているんだ。


僕が美しくても意味なんてないと思っていた。けれど、アマンダが本当に嬉しそうにキラキラした笑顔になってくれるなら、それだけでいいような気持ちになった。


「…アマンダ」

「はい、テオドア様」

「支度、してくれて、…ありがとう」


きっと僕は締まりのない笑顔だろう。そんな僕にアマンダは感極まったように手で口元を押さえてふるふるとしている。だ、大丈夫かなアマンダ…。


「とんっでもございませんわテオドア様…!」


なんだか今までで一番アマンダのテンションが高い…。え、泣いてる?


「アマンダ、大丈夫?!泣かないで…」

「テ"オ"ド"ア"様"が本"当"に"か"わ"い"い"~」


なに今の声?!アマンダ本当に大丈夫かな…。女性が泣いている姿を初めて見た衝撃に僕はおろおろとしてしまう。侍女を宥めながら屋敷の玄関へ向かうというなんだかよくわからない事態に戸惑ってしまっていて、僕はいつの間にか沈んでいた気持ちが浮き上がっているのにとうとう気付かなかった。








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