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地球よ、永遠に  作者: ヒルナギ


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狂神に捧げる戦い 06-17

 ワルターは、再びユーリのほうへ向き直った。


「航海士、ミリタリーモジュールの収容は、完了したのか?」


 ユーリは、頷く。


「損傷を受けた機体を含め、全ミリタリーモジュール及びパイロットの収容が完了しています」

「よし」


 ワルターは、瞳に強い光を宿らせる。


「本艦の進路を、木星のアクセスポイントへ向けろ。到着次第、本艦はエンシエントロードにアクセスし、外宇宙を目指す」


 ユーリは頷き、瞳を細める。


「進路を、木星軌道のアクセスポイントに向けます。ヨーソロー」


 そしてユーリのこころは、パルシファルとのシンクロの中へと沈んでいった。

 デーモンではなく、船とのシンクロについてもユーリは既になれつつある。

 デーモンはいつもユーリのこころの中に、古く老いた竜のイメージを結ぶ。

 パルシファルもあるイメージをユーリのこころに浮かび上がらせるが、それは老いた竜ではなく神話に登場するルシフェルのような姿をしていた。

 デーモンとパルシフェルには、明確な違いがある。

 ユーリは、そう思う。

 デーモンは希薄な存在であったが、パルシファルはもっと強固に存在し自分に向かって語りかけてくるような気配を感じる。

 だがおそらくそれは今ではなく、いつかその時がくればという感覚。

 パルシファルはそのような気配を、常に漂わせている。

 時が満ちるのを、じっと待っているような。

 ユーリはコンソールに浮かんだアラートに気がつき、声をあげる。


「アクセスポイントまで、後300秒で到達します」


 ワルターは、頷く。


「本艦は300秒後にアクセスポイントから、エンシエントロードへのアクセスを行う。目標は五十パーセク先のサラエボ星系。総員、身体をシートに固定せよ」


 ユーリにとって、アクセスポイントを通じて量子跳躍を行うのは初めててのことである。

 ただ、不思議と不安はなかった。

 とても奇妙な、パルシファルとの一体感がある。

 ユーリの口元には、微かな笑みさえ浮かべられていた。

 その様子を少し怪訝な顔でダーナが見ていることに、ユーリは気がつく。

 ユーリは表情を引き締めダーナに会釈すると、自分のコンソールに向き合う。

 ダーナは不思議そうにその様を見ていたが、やがてあきらめたように前を向く。

 ユーリのコンソールにはいくつものアラート表示がでており、赤い警告表示は飛び散る火花となってユーリの周りを彩る。

 しかしそれらは全て警告域内にとどまっており、無視してもよい範疇であった。

 全天周スクリーンの天頂に、楽園の花が咲き誇ったときに放つ極彩色の輝きが姿を現す。

 やがてそれは、光の輪となりパルシファルを飲み込んでゆく。

 十次元波動が発生し、光を分解しているのだ。

 パルシファルは十次元波動の中心へと向かって、上昇してゆく。

 ユーリは、声をあげた。


「アクセスポイントとの同期まであと十秒、カウントダウンを開始します」


 ワルターが、答える。


「本艦は、これよりエンシエントロードに入る」

「5,4,3,2,1」


 ユーリはカウントダウンの声を、あげる。自分でも驚くほど、落ち着いていた。こころの中で、ルシフェルが自分に向かって語りかけているような気がする。


「エンシエントロードに、同期完了」


 ユーリの言葉と共に、全天周スクリーンが闇に覆われる。


「全てのフライホイールを、切断します。対消滅リアクターエンジンを、アイドリング状態へ移行」


 トーマスが、声をあげた。

 エンシエントロード内では高次元振動が自然に発生しており、微弱なAEE弾を常に受け続けているような状態となる。高度なシステムを稼働させようとすれば、ノイズが発生し誤作動が引き起こされるであろう状態だ。

 よってほとんどのシステムは休止状態となり、艦はマニュアルベースの運用へ変わっていく。

 様々なアラートメッセージを表示していたコンソールは全て沈黙し、ブリッジは霊廟の静寂に包まれていた。

 ワルターは、厳かに宣言する。


「本艦は、本時刻をもって戦闘態勢を解除する。エンシエントロードからのログアウト予定時刻は、三十二時間後。当直以外はブリッジを離れ、通常オペレーションに戻れ。それと、ユーリ・ノヴァーリス」


 ユーリは、驚いた顔をして振り向く。


「よくやった。はじめてにしては、スムーズな操艦だ。もうすぐ交代の当直要員が、第一ブッリジへはいる。ゆっくり、休め」


 凶悪な人相で発せられてはいるが、優しい艦長の言葉にユーリは頬を薔薇色に染めた。


「ありがとうございます!」


 ユーリは、立ち上がると深々と礼をする。ワルターは軽く手を振り、席をたつ。


「30分後にデブリーフィングを、行う。各班長及び作戦参謀は、コマンドルームへ集合だ」


 ワルターはそういいおいて、ブリッジを離れる。

 そんなワルターを、ユーリは敬礼で見送り再び席につくと操艦レバーを握った。

 ダーナはユーリを少し訝しむようにみると、離席していく。

 パルシファルは静寂と闇の中を、航行していった。



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