聖愚者の旅立ち 04-25
「インドラクラスから、ビーム砲の砲撃がきます」
ヴェルザンディのあげた報告の声とほぼ同時に、全天周スクリーンの天頂付近が七色の光を放つ。
無数の虹が砕かれまき散らされたような光の乱舞が、パルシファルのブリッジを満たした。
ウルズが、落ち着いて報告の声をあげる。
「連邦のビーム砲は、パルシファルを覆っているカイザー・ヒューゲルの破片に阻害されて威力が50%くらいになってるよ。これじゃあ、有効打は無理だろうね」
フランツは、うなずく。
ロキは、怪訝な顔をして言った。
「それは、こちらの攻撃も無理ということなのか?」
フランツは、にっこりと笑った。
「パルシファルのメインビームシステムが放つビーム砲のパワーであれば、たかが隕石群くらいは問題になりませんよ」
ロキは驚きを顔に浮かべたが、何も言わなかった。
フランツの両手は、相変わらず忙しく動いている。
「パルシファルの対消滅リアクターエンジンのエネルギーレベルは、もう十分メインビームシステムが撃てるところまできてるよ」
ウルズの言葉に、フランツは不機嫌そうに頷く。
「判ってるよ」
フランツは、思わず口を歪める。
全くこの船は、あくまでもまともに言うことをきかないつもりなのかと、こころ中で毒づく。
「メインビームシステムの、エネルギー転送用超空間十次元リンクが不安定です。各ビーム砲へ、十分なエネルギー供給ができていません」
ヴェルザンディは、穏やかに報告の声をあげた。
フランツは、ため息をつきながら応える。
「それも判ってる。次元波動の波形を、変えてみた。これで、どうだ」
パルシファルのブリッジに立て続けにウィンドウが起動してゆき、甲高いエンジンの駆動音と振動が響く。
それは一瞬、クライマックスを迎えるように高まりをみせたが、すぐに静まってしまう。
「一度エネルギーレベルが百パーセント近くまできましたが、十パーセント台まで落ちてます。これは、まるで」
ヴェルザンディが何かを言おうとして、言いよどんだ。
フランツは、深い思考の井戸にはまりこんだものの瞳でヴェルザンディをみる。
「かまわないから、言ってみるといい。ヴェルザンディ」
フランツに促され、ヴェルザンディは声をあげる。
「まるで、この船は戸惑っているようにみえます」
フランツは珍しくその美貌を、困惑で曇らせていた。
「まあ何千年もの時をへて地中から掘り出され、無理矢理改造されてはじめて宇宙に飛び出したんだ。無理もないか」
フランツは、ため息をつく。
やはり本来は、時間をかけて慣らし運転をするべきなのだろう。
だが敵艦隊を目の前にして、そうも言ってられない状況ではある。
ふと、フランツはロキのほうをみて問いを発した。
「王陛下、何かいいましたか?」
ロキは、深い物思いから現実に戻ったように目をあげる。
「いや、何も」
ロキの珍しい反応に、フランツは一瞬何か言おうとしたがすぐに思い直し自分のコンソールに向き直った。
ロキは、目の前にいるものにこころを奪われている。
それはどうやらロキにしか見えていないらしいので、幻覚だといえた。
しかし、ロキはブリッジに降臨した天使の姿をもつそれが、ただの幻覚ではないという確信がある。
十二枚の翼を持つその天使は、パルシファルそのもだとロキは思った。
「で、君はどう思ってるんだね、ゲニウィス・ロキ」
天使の姿をしたパルシファルの化身は、こころの中に直接語りかけてくる。
「わたしは君たちに、絶大な力を与えることになる。ある意味、この銀河を破壊できるほどの力だ。君たちは、それを持つことをどう思うんだね」
ロキは、試されているのだろうかと思う。
そして、こころの中でパルシファルへ返答する。
「おれたちの為すべきことは、決まっている。そして、そこには銀河を破壊することは含まれない」
パルシファルは、光り輝く金色の髪に彩られた美貌にそっと笑みを浮かべる。
「まあ、そうなんだろうけれどね。でも、その力を誰が手に入れることになるか、君にも判るまい。ゲニウィス・ロキ」
ロキは、精悍な顔に太々しい笑みを浮かべる。
「あんたは、恐れているのか? 天より落ちし、輝けるものよ。それとも、おれたちに恐れるべきだというつもりかね」
天使は古代の彫像のようにバランスがとれ美しい姿で、そっと首を傾げる。
「どうかなあ。まあ、正直恐れているのは僕なんだろうね。あるいはこの宇宙を終わらせるかもしれぬものを、ひとの子に委ねるということに」
ロキの瞳は夜明けの太陽がごとき輝きをもち、燃えさかる焔を思わせる笑みを浮かべた。
「気にするな、パルシファル。我らはそれが宇宙を滅ぼすことであれ、為すべきことを為すだけだ。あんたが悩むことでは、ない。おれと、おれの子供たちに委ねるがいい」
天使は、そっと肩を竦める。
「まあ、結局はそうするしかないんだろうな」
天使はそう言い終えると、爆発するような光に包まれ消えていった。
ロキは一瞬瞬きをして、天使の消えたブリッジをみる。
ふと、フランツが怪訝な顔をしてこちらを見ていることにきがつく。
「何笑ってんですか、王陛下」




