聖愚者の旅立ち 04-24
「ビーム砲、全て直撃ですが、目標に変化はありません」
ブリッジの艦長席で、クレルボーはうんざりしたような顔でオペレータの報告を聞いた。突然戦闘宙域に出現したその小惑星は、ビーム砲の攻撃になんの反応も示さない。
なんらかの擬装なのだとしたら、相当によくできている。
クレルボーはそれでも、毅然とした声で命令をだす。
「各艦に、再度メインビームシステムを小惑星に目標を定めて起動するよう、指示をだせ」
クレルボーも辛うじて困惑していることを部下にみせないだけの、分別を保っている。
オペレータが、呆れ声で具申した。
「一応、ご報告しますが、一撃めの反応からするとあれは間違いなくただの岩です」
クレルボーは、少しだけ息を吸い込んだがため息はつかずに真面目な声をだす。
「もちろん、承知の上だ」
クレルボーは、あたかも自分には考えがあるという表情で自信たっぷりにいう。
オペレータは、あきらめたように頷くと声をあげる。
「全艦に告ぐ、メインビームシステムを起動、目標、正体不明の小惑星」
クレルボーは部下に向けた自信たっぷりの顔の裏で、考えを巡らせる。
おそらく正解はあの小惑星は無視して、テラ艦隊に砲撃を行うことなのだろう。
しかし結構な大きさを持つその小惑星は、ビーム砲の射線上に位置している。
ビーム砲を撃つには、小惑星を回避する必要があった。
敵艦隊の前で回避運動をとるのは、的にしてくれといっているようなものだ。
テラ艦隊はまともに戦う気がなさそうなので、攻撃してこない可能性もある。
だが、もしまともに攻撃をされたなら、インドラクラスが損害をおうリスクがあった。
別に大したリスクでは、ないのかもしれない。
それはしかし目の前にある小惑星が、本当にただの小惑星であったとすればの話だ。
あれが罠であれば、回避行動をとって攻撃にでるのは大きくあいた虎の口に飛び込むのと同じになる。
クレルボーは、うんざりしながら砲撃を続けるべきという結論に達した。
少なくともその選択肢の先には、罠にはまるリスクがなさそうである。
クレルボーの思い巡らせているその考えは、突然あげられたオペレータの声により中断された。
「正体不明の小惑星に、変化があります」
クレルボーは驚き、ブリッジの全天周スクリーンの天頂を見上げる。
突然出現した奇妙な小惑星は、無愛想な姿を星の海にさらしていた。
肉眼でみる限り、変化はわからない。
クレルボーの表情を読んでか、オペレータが報告する。
「形に変化が、あります。まるでこれは、汐潮力が作用しているような」
クレルボーは、流石に困惑の表情を隠せない。
「テラは近いが、そんな引力が作用する距離ではないはずだが」
クレルボーの言葉に、オペレータは呆れたように首を振る。
「なんらかの方法で空間を歪め、小惑星にテラの引力を作用させているとしか」
クレルボーは、呻き声をあげる。
「無茶苦茶だ」
オペレータが、叫ぶように言った。
「小惑星が、砕けます」
クレルボーは、驚きのあまり目をみひらく。
全天周スクリーンの天頂あたりで、それはゆっくりとはじまる。
岩でできた卵に亀裂が走るように、小惑星の表面が砕けていく。
小惑星は無数の隕石となって、星の海へと散っていった。
「あれは、……戦艦、ですかね」
岩の卵が砕けそこから孵化するように、鋼鉄の竜がごとき洋上艦が姿を現した。
その洋上艦は海洋を航行する姿を、星の海に浮かべている。
クレルボーは、なにが起きているにせよ自分の理解できるものではないと思う。
それでもかろうじて残った軍人としての矜持によって、オペレータへの指示をだす。
「あれを、解析しろ」
クレルボーは、実に壮大な悪ふざけによって馬鹿にされているのではないかという可能性を捨てきれない。
オペレータは、報告の声をあげる。
「高エネルギー反応が、あります。見た目は特異でデーターベースにある、あらゆる宇宙戦艦の型式と一致しません。けれど、戦艦である可能性が高いです」
クレルボーは、あきらめたようにうなり声をあげる。正体不明の小惑星は、正体不明の戦艦となった。まあ、どちらかといえば戦艦のほうがましといえる。
オペレータは、正体不明の戦艦を全天周スクリーンに拡大して表示した。
とても奇妙な、そして巨大な船である。本体は、おんなのように優美なラインを持つ洋上艦であった。その姿は美しいが、とてつもなく大きい。クレルボーの記憶にあるいかなる洋上艦をも上回るサイズのようだ。その洋上艦には四つの巨大なスラスタと四つの巨大なビーム砲らしきものが、装備されている。スラスタもビーム砲も、巡洋艦なみのサイズにみえた。
そして、天から墜ちた輝ける天使のように十二枚の鋼鉄で造られた翼が、艦体を覆っている。
その鋼鉄の翼が、放熱板兼用の移動式装甲板らしい。
とても常識はずれの姿ではあるが、流麗な曲線を持ち全体的に調和のとれた姿をした船であるといえる。
壮麗かつ優美、そしてこころをうつ勇壮さを持った船であることを、クレルボーは認めざるおえなかった。
クレルボーは、意を決したように指示を出す。
「全艦に、メインビームシステムを起動するように伝えろ。目標、正体不明の戦艦」
オペレータは、戸惑ったような声をあげる。
「一応ご報告しておきますけれど、小惑星の砕けた隕石群がじゃまで有効な攻撃にならない可能性があります」
クレルボーはそれでも自信に満ちた声で、応える。
「もちろん」
クレルボーは、多分今の自分は滑稽にみえるのだろうなと思った。
「承知の上だ」




