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最初の接触 02-03

 全周天型スクリーンの上方、木星方面に七色の光でできた輪が生じていた。

 十次元空間で歪みが振動したときに光に干渉し、虹のような輪が発生する。それを次元虹とよぶのだが、それはアクセスポイントを使いエンシェント・ロードへ宇宙船が干渉するときに生じるものであった。

 今まさに、木星軌道上に存在するアクセスポイントを通って、宇宙船が通常空間へ出現しようとしているのである。


「ユーリ、探索ドローンからの情報を解析しろ」


 ケンの指示を受け、ユーリはコンソールを操作する。

 ブリュンヒルドは、木星方面に向けて無人の探索機を放っていた。

 探索ドローンは、巨大なレーダー装置と光学探索装置を装備しているため、アクセスポイントの状況を捉えているはずだ。

 ユーリはコンソールを操作して、ケンに応える。


「アクセスポイントから出現したのは、汎用型巡洋艦一隻」


 汎用型というのは、大気圏突入能力を持ちかつ星系間の航行が可能な船のことだ。

 海賊は、めったに大気圏突入するタイプの船を持たない。

 彼らにとって重力の井戸へ落ちることは、死ぬことと同義である。

 海賊ではなさそうだが、であれば何者であるのかと思う。


「光学探索装置が、映像をとらえました。スクリーンに出します」


 ユーリがコンソールを操作すると、ポップアップウインドウがスクリーンにでる。

 そこに、金属製の鯨を思わせる宇宙船が表示された。

 艦底部がなだらかな曲線を描く、リフティングボディを持つ灰青色の船だ。

 その船の艦首に描かれた紋章を見て、ケンはうめき声をあげる。


「みろよ、不死鳥の紋章だ」

「銀河帝国中央政府の所属というわけね」


 ひとり冷静な表情を保つダーナ王女が、呟く。

 真紅の炎に包まれた鳥を描いた不死鳥の紋章は、遙か遠く銀河北部に本拠を持つ銀河帝国・直轄領の所属を示すものだ。

 ソル星系も帝国に加盟しているが、辺境の地であり帝国政府から興味をもたれることはない星系であった。

 デモンウィルスが散布された後、復興支援はしないが税の徴収もしないとの方針が帝都よりうち出されたため絶縁状態となっている。

 コンソールを操作していたユーリが、声をあげた。


「アクセスポイントで、再び次元振動を観測」


 帝国の船が出現後、一度は消えた次元虹がもう一度輝きはじめている。

 七色に輝く光の輪から、船が出現してきた。

 今度は、涙滴型をした巨大な宇宙戦艦のようだ。

 探索ドローンの光学探査装置は、ネイビーブルーの装甲板に覆われた戦艦をスクリーンのポップアップウインドウに映し出す。

 ユーリが、探索結果を報告した。


「船体に船籍を示す紋章はないけれど、船体の形態を照合した結果、銀河連邦のヴリトラクラスに一致します」


 ケンは、凶悪な笑みを浮かべる。


「帝国の船を連邦の戦艦がおいかけるったあ、穏やかじゃねえな」


 ユーリは蒼ざめて、頷く。

 ダーナ王女は暢気とも不敵ともとれそうな笑みを浮かべて、スクリーンを見ている。

 ヴリトラクラスの戦艦から、次々とミリタリーモジュールが発艦していく。

 ミリタリーモジュールは、パワードアーマーにバトルスラスタユニットを装着したアタッカーフォームをとっている。

 ミサイルキャニスタや、スペースキャノンも装備した完全な戦闘モードであった。

 連邦のミリタリーモジュールは群れなす狼がごとく、帝国の船へ襲いかかっていく。

 スペースミサイルが帝国の船に向かって発射されたが、帝国の船はスペースキヤノンで迎撃しミサイルを撃ち落としていった。

 光の花が開いていくように、宇宙空間に爆発がおきていく。

 突然、スクリーンから映像が消えた。


「探索ドローンが、撃破されました!」


 ユーリが、悲鳴のような声で報告する。


「予備のドローンを射出しろ、それと非常警報を全艦に流せ。艦長を、ブリッジに呼ぶんだ」


 ユーリがケンの指示に応え、コンソールを慌ただしく操作してゆく。

 ドローンが射出されたサインが表示された直後、ポップアップウインドウが表示される。


「帝国船より入電、識別信号は帝国中央所属、プロトコルは帝国標準!」


 ケンは、行動をはじめている。リニアーシートからコンソールデッキへ行くと、そこの中央にある昇降口へ移動してゆく。


「メッセージの音声を、流せ」


 昇降口に向かいながらケンが発した言葉に、ユーリが頷く。

 起動されたウィンドウに、ひとりのおんなの顔が映しだされた。

 太陽の輝きを宿したような美しい金色の髪をもつ、怜悧な美貌のおんなである。

 おんなは、切迫した口調でメッセージを語った。


「わたしは、銀河帝国中央情報局所属シルビア・ガーンズバック。所属不明の戦艦より、攻撃を受けている。貴艦はテラ所属の船と、認識している。帝国協定に従った、救援をこう」


 ケンは、にやりと笑うとダーナ王女に敬礼する。


「王女、この後はあんたにまかした。おれは、出撃するぜ」


 そのまま、ケンはブリッジから姿を消す。ダーナ王女は、口をへの字に曲げるとリニアーシートに座った。


「帝国船へ、返信する。回線ひらいて」


 ダーナ王女のいささか不機嫌な声に、ユーリはおっかなびっくりコンソールを操作した。


「こちらソル星系テラ所属、ブリュンヒルド。本艦は練習艦で、指揮官は今不在だ。回答は、少し待ってほしい」


 ダーナ王女の返信に、帝国船から応答が返る。


「わっかたわ、でもはやくして欲しい。本艦は、長くもたない」

「兎に角、待ってくれ」


 ダーナ王女は憮然として言い放つと、強引に回線を切った。そして、不機嫌な声でユーリに指示を出す。


「帆を、たたんで。そして、メイン・ブラストを停止。慣性航行へ、移行して」

「は、はい」


 ダーナ王女の不機嫌な様子に緊張しきったユーリは、あたふたとコンソールを操作した。




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