聖愚者の旅立ち 04-10
「ロスヴァイゼ、沈みます」
ルーイは、悲痛な声で報告する。
スクリーンに、爆炎に包まれ崩壊してゆく宇宙戦艦が映し出されていた。
宇宙での艦隊戦でビーム砲を受け船が沈むことは、滅多にない。
ビーム砲はバリアにより無効化されるので、大抵決着はミリタリーモジュールによってつけられる。
だからこそ目の前で爆発炎上し沈んでいく船は、とても無惨なものにルーイは思えた。
ルーイは振り返り、ホフマンをみた。
ホフマンは何も言わず、ロスヴァイゼに向かって敬礼をしている。
その目には珍しく沈痛な光が、宿っていた。
敬礼を終えたホフマンは、ルーイに眼差しを向ける。
「ヴァーハナクラスの状況は、どうだ」
ルーイは、コンソールを操作しドローンから送られている情報を解析した。
「二隻とも、行動を停止しているようです。加速は行われず、慣性航行に移行しています」
ホフマンは唇を歪め、笑みを浮かべる。
「悪くは、ないな」
ルーイは、目を見開きホフマンに問い返す。
「悪くは、ないですか?」
ホフマンは、機嫌よさげに頷く。
「ワルキューレクラス一隻と、ヴァーハナクラス二隻の交換。艦隊戦としてみればおれたちの負けだが、連邦はこの後月面基地の制圧をしなければならない」
ホフマンは、燃える狼のように笑う。
「連邦はもう、おれたちに向けてヴァーハナクラスを動かすことはできない」
ルーイは、アラート表示に気がつき情報をウインドウに出す。
ルーイは、眉間に皺をよせ報告する。
「ヴァーハナクラスのうち一隻が、加速を再開しました。艦隊との遭遇時間は二百秒後」
ホフマンは艦長席に深く沈むと、物思いにふける顔になった。
「ロスヴァイゼの砲撃を、後に受けたほうか?」
ルーイは、ホフマンの問いに頷く。
「そのとおりです」
ホフマンは、少しうなる。
「やはり、動きを止めるにはビームの出力が足りなかったか」
ホフマンの瞳に、一瞬だけ迷いの色が浮かぶ。
ホフマンは、一度目を閉じる。ほんの僅かの間に沈黙が通り過ぎてゆき、そしてホフマンは目を開く。そこにはもう、迷いの色が無かった。
ホフマンは立ち上がり、ブリッジを見渡す。
そこにいる全員が、ホフマンに注目している。
ホフマンは狼の笑みを浮かべ、口を開く。
「本艦はこれより艦隊より離脱、ヴァーハナクラスへ進路をとる」
ルーイは驚きで表情を強ばらせホフマンを見つめたが、すぐに振り返ると操舵レバーを握った。
「グリムゲルデのランダム運動との同期をキャンセルし、本艦は転進します。目標、進撃中のヴァーハナクラス」
ルーイの隣に座る砲手のおとこが、低い笑い声をあげた。
「ホフマン艦長、あんたのやんちゃにつきあうのはひさしぶりですな」
ホフマンは、炎に彩られた笑みを返す。
「クラウス、残念ながらこれが最後になりそうだがな」
クラウスは、愉快そうな笑い声を出す。
「せいぜい、楽しませてもらいますよ」
クラウスはそういい終えると、自席に沈む。
ルーイは、報告の声をあげた。
「グリムゲルデから、入電しました」
ホフマンは、あからさまに顔をしかめる。
ウインドウには額の薔薇を紅く輝かす、クリスの姿が映る。
「ホフマン艦長、まさかあなたもシュレーゲル君の命令を無視するつもりじゃあないでしょうね!」
ホフマンは、やれやれといった顔になる。
「無視はしない、やりやすくするだけだ」
クリスは、高らかに舌打ちをする。
「その台詞は、聞き飽きたわ」
ホフマンは、苦笑を浮かべる。
「いいかい、ローゼンクロイツ艦隊司令。ここでヴァーハナクラスを叩かないと、ロスヴァイゼは無駄死になる。おれたちは、ここで退いちゃあいけないんだ」
クリスは、鼻で笑う。額の赤い薔薇が燃えるように輝いて見えた。
「まったくあんたらおとこどもは、そろいもそろってクソ野郎ばかりだわ」
ホフマンは、にやりと太々しい笑みを浮かべた。
「まあ、おれたちの勝利を祈っておいてくれ」
クリスは、指をホフマンに突きつけた。
「絶対あんたは後悔させてやるわ、ホフマン君」
唐突に回線が切れ、ウインドウが消えた。
クラウスが、呆れ声を出す。
「ローゼンクロイツ艦隊司令、随分お怒りですがいいんですかい?」
ホフマンは、陽気に笑う。
「おんなの恨みを買うのは、いつものことだ。いちいち気にしていられんよ」
ルーイは思わず、くすりと笑う。
そして報告の声を、あげた。
「本艦、ヴァーハナクラスの近接戦可能域に入るまであと百秒」
ホフマンは獲物を追う狼の顔に戻ると、笑みを浮かべる。
「進路そのまま、ヨーソローだ。ルーイ」




