戦場乙女の帰還 03-04
ユーリ・ノヴァーリスは、自室でひとりであった。
同室であるケン・ブラックソードは、士官食堂にいったきり帰ってこない。
ベッドに横になったユーリは、次の当直まで少し眠ろうと思っていたが、興奮した神経は中々おさまりそうにない。
目を閉じると、連邦との戦闘が脳裏に浮かび上がってくる。
こころはまだ、戦闘の中にいるかのようだ。
ユーリは睡眠をあきらめると、ベッドに身を起こし携帯端末を取り出す。
携帯端末を操作して、ムービーレターの映像を呼び出した。
差出人は、ユーリの兄であるルーイ・ノヴァーリスである。
月面基地から、送られてきたものであった。
虚空に、金髪碧眼を持つ青年の姿が映し出される。
部屋に備えつけられた照明の明度を絞っているため、その画像は夕暮れの空に掛かる月のような輝きをみせた。
薄闇に浮かびあがる画像は、ひとりの青年である。
内向的で物憂げな黒い瞳を持つユーリと違い、明るく怜悧な印象を備えた蒼い瞳を持つ青年だ。
ユーリとは、あまり似ていない。
兄弟とはいえ、二人に血の繋がりは無かった。
ユーリはムービーレターの再生を開始し、画像のルーイが話しはじめる。
その表情は自信に溢れ、穏やかな語り口はひとを安心させる力があるようにユーリは思う。
「やあ、ユーリ。おそらくブリュンヒルドは八十時間後にテラ軌道まで戻ってこれるのだろうけれど、そのころには僕が月面にいないはずなんだ。だから、ムービーレターを送ることにした」
ユーリは、無意識のうちにルーイに向かって頷く。
「ユーリ、君が初陣で見事な活躍をみせたという話は、聞いたよ。おめでとう、君の初勝利を、祝福しよう。僕は、君のことをとても誇らしく思っているよ。君は実戦で勝利を飾り、僕を戦歴では追い抜いてしまったね」
ユーリはその言葉に、頬を紅く染めた。
常に彼の目標であり、また師ですらあるルーイを追い越したなどとんでもないと思う。
「それと、ユーリ。君に、伝えておかなければいけないことがある。僕も、戦場に赴くことになった。君たちはもう聞いているだろうけれど、君たちの乗るブリュンヒルドを追尾して連邦軍の艦隊が迫っている。連邦軍の艦隊が君たちに追いつく前に、僕らのテラ艦隊が迎え撃つことになっている。だからユーリ、君と再会するのはその戦いを終えたあと、月面基地に帰着してからになるね」
ユーリは、そっとため息をつく。
ルーイは、現役のパイロットとして巡洋艦エインヘリアルクラスに乗っている。
今の状況では、実戦にかりだされるのは当然のことといえた。
「僕も初実戦で君に恥じないだけの働きを、みせるつもりだ。何よりも、君たちの船を守るための戦いだ。全力を、尽くす。君も、僕らの武運を祈ってくれ」
そういうと、画像のルーイは敬礼してみせる。
そして、ふっと微笑む。
「月面基地で、君と共に過ごした日々が懐かしい。また君と共に航海に出られる日がくることを、心待ちにしているよ。君の航海に、幸あらんことを」
ルーイがそう言い終えると、ムービーレターは終了し消え去った。
部屋は、再び静けさを湛えた薄闇に満たされる。
ユーリは、眉間を曇らせ物思いにふけった。
多分、テラ艦隊が連邦軍の艦隊を打ち負かすのは容易ならざることだ。
ルーイが生き延びられるのは、五分五分といったところだろうか。
だから、ルーイは最後の別れを告げるためにこのムービーレターを送ってきたのだと思う。
けれどユーリは、信じたい。
必ずルーイと、再び会えるのだと。




