最初の接触 02-19
ブリュンヒルドは既にテラへ向かって1Gの加速を開始していたため、作戦室も1Gの疑似的な重力が発生している。
ブリーフィングルームとしても使用される作戦室は、とても殺風景な部屋であった。
シンプルな椅子に腰を降ろしているワルターの前にあるのは、無愛想なワークデスクだけである。
その部屋に、最初に入ってきたのはダーナ・ロキ王女とケン・ブラックソードであった。
ワルターは立ち上がり、ふたりを迎え入れる。
ワルターはまず、ダーナ・ロキのほうを向く。
「姫さま、我らの艦にひとりの負傷者もださずに勝利できたのは、あなたのおかげだ。礼をいう」
ダーナは、にっと微笑むと親指をたてる。
いささか慇懃な態度の謝辞ではあったが、フギンの説教と帰艦後サーシャに怒られたあとであったせいかダーナは思わず涙ぐむ。
ワルターは、次にケン・ブラックソードをみた。
ふたりはしばらく何も言わないまま、睨みあう。
先に言葉を発したのは、ワルターだった。
「まず、報告してはどうか。戦闘隊長」
ケンは、無表情で敬礼をする。
「敵機八機撃墜、一機中破。当方の被害なし」
素人の部隊がなした戦果としては破格であり、奇跡ともいえる。
しかし、ワルターは失笑しただけだ。
「戦闘隊長、なぜおれの指示をまたずに、出撃した」
ケンは、失笑を返す。
「おいおい、おれたちは軍ではなく、もっと自律的に自己組織化された集団じゃあなかったのかよ」
「そういう話を、しているのではない」
ワルターは、憮然とした表情で語る。
「今はひとつの行動の結果が、血なまぐさい殺戮を生み出すこともある。その責を負うべきはおれたち老人で、おまえたち子供ではない。違うか?」
ケンは、声をあげて笑う。
そして、ぐいっとワルターを睨んだ。
「ふざけんな。あんたら大人が何考えてるかは知らんが、少なくとも火に飛び込まなくては火の海から逃げ出せはしねぇんだよ」
ワルターは、ケンの眼差しを真っ直ぐ受け止める。
「艦長、あんたの考えなんざ知ったことじゃあないがな、おおかた適当に戦ってうまいこと降伏してその場をしのごうとしたんだろ。それじゃあ、だめだ。本質的な危機状況を、打開できねぇ。これはチャンスだ。違うか?」
ワルターは、口を歪めて笑う。
「戦闘隊長、おまえの言うことが正しいとすればだ。おまえは、なんとしてでも敵機の攻撃をかわし、敵戦艦を撃沈しなければならなかった。しかし」
ワルターは、ダーナの方へ眼差しを投げる。
「敵艦を沈めたのは、そこの姫さまだ。どう思ってる、そこのところ」
ケンは、むうと言葉につまる。
つい、夢中になって遊んでしまったことは否定できない。
ダーナは、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「おまえのやった行動は、結果的にブリュンヒルドを危機に陥れ、姫さまの命も危険にさらした。違うか?」
「ケン、あんたお詫びとして、わたしのケツを舐めてきれいにしなといけないねぇ」
とんでもないことを言うダーナを、ケンとワルターは驚いた顔でみる。
ダーナは、にこにこと無邪気に笑っていた。
ケンは、額を押さえる。
「わかった。悪かったよ、おれが。確かに、心得違いをしていたのはおれだ」
ケンは、ぐっと顔をワルターのほうに差し出す。
「ワルター艦長、おれを一発殴ってくれ。おれの根性を、叩き直してくれよ」
ワルターは、一瞬あきれ顔になったがすぐ真顔にもどる。
「いいだろう、歯を食いしばれ」
ワルターはファイティングポーズをとると、鋭いパンチをケンに向かって放つ。
しかし、がつんとした衝撃を顎にくらい、膝をついたのはワルターのほうであった。
ケンが、ワルターのパンチに合わせて拳を出したため、クロスカウンターになってしまっている。
ワルターの顔色が、赤くなった。
「ケン・ブラックソード、いったいおまえ、何考えている!」
ワルターの怒声に、ケンは両手をあわせて頭をさげる。
「いや、反射的に手がでてしまった。本当に、申し訳ない。もう一回やり直そう」
ワルターのジャブが、ケンを襲う。
ケンがスウェイでかわし、ワルターの繰り出すコンビネーションを、上体をウェービングさせて紙一重でかわしてゆく。
「ケン、貴様」
「いや、ごめん。本能的な動作で、身体が勝手に」
「いったい、あなたがたは、何をやっているのですか?」




