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星姫の詩  作者: tomoko!
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第四章:ユノアの覚醒と、予感

 怒りを身の内に潜ませながら、ヒノトは王宮内の庭へと向かった。庭というよりは草原とでも呼ぶべき広大なその場所に、ユノアはよく連れだされていたからだ。

 案の定、ユノアはそこにいた。ユノアと向かい合うように、リックイの姿も見える。

 ユノアは疲れ切った様子で、膝をついて肩を喘がせている。いつもなら太陽の光を反射してキラキラと輝く銀色の髪の毛も、今は艶やかさを失ってボサボサに乱れている。いつもユノアの傍にぴたりと寄り添っているチュチも、離れた場所に身を縮めて、ユノアをじっと見守っている。

 またユノアに無茶をさせたのかと怒りを覚えながら、ヒノトがユノアの元に駆け寄ろうとしたときだった。

「近づくな、ヒノト王」

 凛としたリックイの声が響き渡る。と同時に、エミレイがヒノトの行く手を遮った。エミレイは静かな眼差しで、ヒノトを威圧している。

「我ら二人の気に近寄れば、ただの人間であるその身はただでは済まぬぞ。ヒノト王はその場所から見ておればよい。…見せてやろう。ユノアの力は、ここまで開花したぞ」


 リックイがユノアに向けて片手を差し出した。その掌に、ヒノトにも感じられるほどの凄まじいパワーが集まっていく。

 リックイが向けた手の先で、ユノアはまだ膝をついたまま、立つこともできない。

「さあ、ユノア。私の力を受け止めてみよ。そうしなければ、ヒノト王の目の前で、お前の身体が木っ端微塵に吹き飛ぶぞ」

 ユノアがゆっくりと顔を動かしてヒノトを見た。ユノアは本当に疲れきっていて、助けを求めるようにヒノトを見つめてきた。


 ヒノトは、エミレイの制止を振り切ってユノアに駆け寄ろうとした。その目の前で、リックイが力を使った。

 物凄い暴風を巻き起こしながら、巨大な気の塊がユノアに向かっていく。ヒノトは叫びながら手を伸ばした。

「ユノアぁ!」

 茫然としていたユノアの顔に、突如として生気が戻った。ユノアの瞳が茶色からエメラルドグリーンに変わるのを、ヒノトははっきりと見てとった。

 近づいてくる気の塊に向かって、ユノアは両手を差し出した。ユノアの手に触れる直前で、気の塊はぴたりと動きを止めた。

 動きを止められた気の塊が持つパワーが、一気に解放される。火花が散り、竜巻のような暴風が吹き荒れる。ヒノトは地面に這いつくばって、身体が吹き飛ばされないように耐えなければならなかった。


 風が収まり、ヒノトは立ちあがった。その目に、また茫然として地面に座り込んでいるユノアの姿が映った。

「ユノア!」

 ヒノトが走り寄ると、ユノアは涙を浮かべた目でヒノトを見つめ、身体を預けてきた。ヒノトの腕の中で、ぶるぶると身体を震わせながら泣き始めた。無理もない。いくら神に匹敵する力を持つとはいえ、ユノアはまだたった一五歳なのだ。

 幼い少女に暴力的な行為を続けるリックイに、ヒノトは非難の眼差しを向けた。

 だがリックイは、悪びれた様子もなく、上機嫌に笑っている。

「素晴らしい!これだけの力があれば、ユノアがこの世で恐れるべき存在は、私以外にはいないだろう。…どうだ、ヒノト王。驚いただろう?ユノアは今や自在に力を操れるようになったのだ」

 ヒノトは複雑な想いだった。たった今目の前で、エメラルドグリーンに変わったユノアの瞳が思い出される。ユノアが思うがまま、力を使えるようになったこと。そのことを、ヒノトは喜ぶことは出来なかった。




 複雑な心境のヒノトの心の内を見透かしたような、不敵な笑みを浮かべながら、リックイはヒノトに言った。

「明後日、祭りが開かれる。その時までに、ユノアの力の覚醒が間に合って良かった」

 祭りがあるなど知らなかったヒノトは、胸騒ぎを覚えながら聞き返した。ユノアを抱く手にも、力がこもる。

「祭りとは…?一体、何の…」

「…私の父王の慰霊祭だ」

 ただそれだけを言って、リックイは立ち去っていった。リックイの後を追って、エミレイも足早に去っていく。


 残されたヒノトは、わけもわからぬまま、茫然と座り込んでいた。先代王の慰霊祭など、どこの国でも行うことだ。ただ、ツェキータ王国となると、何故こんなにも胸が騒ぐのだろう。ヒノトが言った、「ユノアの力の覚醒が間に合って良かった」という言葉も、妙に頭に残った。

(これ以上、何が起きると言うんだ…)

 未来から、とてつもなく恐ろしい、強大な力を持った何かが押し寄せてくる予感がする。自分など、簡単に呑みこまれてしまうような、大きな何かが…。


 明後日など、永遠に来なければいい。本気でそう思いながら、ヒノトはユノアを強く抱きしめながら、その顔を覗き込んだ。

(お前も何か感じているのか?ユノア…)

 だが、ユノアは何も答えない。疲れ切った表情のまま、ヒノトの身体に全てを預けている。


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