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星姫の詩  作者: tomoko!
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第四章:神の力

 リックイを取り巻く空気が変わった。その場にいる誰もが感じられる程に、濃くなった。その空気が、だんだんと周囲に広がってくる。

 初めてその空気を感じたジュセノス王国の者達は、これまでの人生で遭遇したことのない未知なるものの存在を目の当たりにして、怖れさえ感じていた。

 リックイが両手を前に掲げた。リックイの動きに従って、周りの空気も動く。

 リックイが目を開いた。周囲の空気が更に濃さを増す。粘り気を持って、周囲で見守る者達の身体にまとわりつく。

 前に差し出されたリックイの両腕は、黄金に向けられていた。ゆっくりと、腕が上げられる。その動きに合わせて、黄金が宙に浮かびあがった。

 ジュセノス王国の一同からすれば、とても現実のものとは思えぬ光景だった。重たいはずの黄金が、いとも簡単に持ちあげられ、どんどん高く上がっていく。宙に浮かぶ黄金を支えるものは何もないのだ。あえて言うとすれば、濃い空気が黄金を下から持ちあげているようだ。


 だが更に、一同を驚愕させる事態が起こった。黄金と一緒に、リックイの身体も浮かび上がったのだ。ヒノトも、ユノアも、唖然としてリックイの動きを見守るしかなかった。夢でも見ているのだろか。これが夢ならば、早く目覚めたかった。

 混乱する二人の気持ちなど無視して、更に驚異的なリックイの行動は続く。リックイの身体は、どんどん上昇していく。

 動揺するジュセノス王国の者達とは対照的に、イェナサやイダオといったツェキータ王国の住民達は、驚く様子もなく、浮かび上がっていくリックイを、誇らしそうに見上げている。

 ようやくヒノトは、リックイの言った言葉の意味を理解した。どうやって黄金をピラミッドの頂上に持っていくのかと尋ねたヒノトに、リックイは、自分なら出来ると答えた。その言葉の通り、リックイは自分自身で黄金を運んでいるのだ。


 だがこんな方法など、どうしたら予想できただろう。人間の世界に生きるものならば、予想できた者などいないだろう。

(神だ。神が、ここにいる)

 ヒノトの心を占めているのは、人間を超越した力の持ち主に対する怖れの気持ちだけだった。

 この時点でヒノトの心は完全に、リックイに敗北していたのだった。




 リックイは、ピラミッドの頂点と同じ高さに到達した。足元にいるヒノト達が、まるで蟻のように小さい。

 目の前の宙に浮かぶ正四角錐の黄金を巧みに操り、ピラミッドの頂上へと置いた。これで完全に、ピラミッド全体が、本当の正四角錐となったのだ。一寸の歪みもない、完璧な芸術品の完成だ。

 リックイが黄金を置くのとほぼ同時に、ピラミッドの後方から太陽が昇ってきた。太陽の光を反射して、黄金が強烈な光を発した。

 下からリックイを見上げていたヒノト達には、リックイ自身が光輝いているように見えたのだった。




 リックイは音もなく地面に降り立った。そして何事もなかったかのように、ヒノトに近づいていく。

「さてこれで、黄金の設置は無事に終了した。我々の用事に付き合わせてすまなかったな、ヒノト王」

 いまだリックイから発せられるパワーに圧倒され、ヒノトはぼんやりとしている。リックイは楽しそうな顔で、ヒノトの顔を覗き込んできた。

「ヒノト王?何をぼんやりとしている」

 ヒノトはようやく我に返った。

「あ…。いえ、あの…。申し訳ありません。あまりに驚いて…」

「驚いた?何にそんなにも驚いたというのだ」

「そ、その…。リックイ王が、宙に浮かんだので…」

 リックイはわざとらしく驚いてみせた。

「ああ、そうか!ヒノト王が私の超能力を見るのは初めてだったか。私にとっては、こんなことは日常茶飯事のことだからな。他の国の者から見れば、異様に見えるかもしれないが、我が国では至って当たり前のことなのだ。恐れることなく、早く慣れることだな」

「は、はっ…。わかりました…」

 必死に冷静さを取り戻そうとするヒノトの横で、リックイはやはり楽しげだ。

「そんなことよりも…。どうだ。ピラミッドは満喫できたか?」

 何とか平常心を取り戻して、ヒノトはリックイに相槌を打った。

「は、はい…。本当に美しく、素晴らしい建築物ですね」

「そうだろう。ヒノト王にそう言ってもらって、父王もさぞ喜んでいるだろう」


 リックイは満足そうに頷くと、影のように控えていたエミレイに命じた。

「さあ、リーベルクーンに帰るぞ。支度をしろ」

「はっ。リックイ王」

 エミレイはてきぱきと兵士達に指示を出し始めた。すぐにラクダの隊列が組まれ、一行はリーベルクーンへと戻っていく。


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