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星姫の詩  作者: tomoko!
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第四章:墓を守る聖獣

 リーベルクーンの墓群は、砂漠の中でも比較的地盤のしっかりした、岩盤の地形の場所に造られていた。

 墓群に向かう一行の行く先に、巨大な大理石の門と、その両脇に横たわる二体の獣の像が現れた。

 その像を見たユノアは、驚きが思わず声に出てしまった。

「スフィンクス…!」

 それは、リーベルクーンの城門に刻まれていた、聖獣と同じ姿形をしていたのだ。

 ユノアの声を目ざとく聞きつけて、声をかけてきた人物がいた。それは、宰相のイダオだった。

「ほう。スフィンクスをご存じですか」

 ユノアとミヨは驚いて隣に目を向けた。一体いつから傍にいたのだろう。イダオは悠然と微笑んでいる。

「ツェキータ王国に来る前から、スフィンクスのことを知っていたのですかな」

 ユノアは慌てて首を振った。

「いいえ。リーベルクーンの城門にあった彫刻を見て、それがスフィンクスなのだと、ヒノト様から教えてもらいました。スフィンクスという聖獣がいることを知ったのは、そのときが初めてです」

 イダオは目を細め、まるで教師が教え子を愛しむような目つきでユノアを見つめてきた。

「そうですか。それで、どうですか。スフィンクスについて興味を持たれたのですか?」

 ユノアはイダオに対して警戒心を緩めないまま、頷いた。

「では、スフィンクスとは何なのか。何故ツェキータ王国の墓地をスフィンクスが守っているのか、その理由を、お話いたしましょうか」

 イダオは、行く手にあるスフィンクスの像に目を向けた。スフィンクスまではまだ距離があり、そこに辿り着くまでにユノアに話をする時間は、充分にありそうだ。

「見ての通り、スフィンクスとは、顔は人間、身体は獣の姿をした奇獣です。こんな生き物がこの世に実在するのならば、さぞ恐ろしいでしょうな」

「それじゃあ…。スフィンクスは、実在しないものなのですか?」

 ユノアの問いに、イダオは曖昧に笑った。

「さあ…。どうなのでしょう。スフィンクスとは、神と人間との間に生まれたと言われています。そのようなことが実際に起きるのかどうかも、定かではありません。スフィンクスとは、謎に包まれた伝説の存在なのです。謎だらけのスフィンクスが、いつからリーベルクーンの墓地を守る守護獣となったのか…。これも、きちんとした記録は残っておらず、全ての謎は、歴史の深い闇の中に包まれたままなのです。ただ、はっきりしていることは、スフィンクスが、ツェキータ王国の全ての民から、信頼され、尊敬されている存在だということです。自分達の死後の住処であるこの墓地を守ってくれているスフィンクスがいるからこそ、ツェキータの民は、安心して死後の世界へと旅立つことが出来るのです」

 イダオの話を聞いていると、確かにスフィンクスとは、ツェキータ王国にとってなくてはならぬ存在のようだ。各所でスフィンクスの像が見られることも、納得できる。

 だがユノアの心の中で、何かが引っかかっていた。これではスフィンクスは、いいように利用されているようだ。神の子とされているのならば、墓守などではなく、ただ人々から崇められる存在であっても良い筈なのに。


 もやもやした気持ちでいたユノアは、突然後ろから上がったミヨの叫び声に、びくりと身体を震わせた。

 慌てて後ろを振り返り、ミヨの様子を確かめる。

「ど、どうしたの?ミヨ!」

 ミヨはユノアの背中にすがりつくようにして、ぶるぶると震えている。

「ユ、ユノア…」

 顔をあげたミヨの目には、強い恐怖が浮かんでいる。

「ユノア。今…。スフィンクスの像が、動いた」

 思いもしないミヨの言葉に、ユノアはきょとんとしてしまった。

 隣から、イダオの笑い声が聞こえてくる。

「ははは。何と可愛らしい。スフィンクスの迫力に圧倒されて、幻覚を見たようですな」

 ミヨは首を振って必死に否定した。

「幻覚なんかじゃありません!本当に見たんです。右側のスフィンクスが顔を動かして…。目をこちらに向けたんです。私と、目が合ったんです。ユノア。本当なのよ!」

 それでもイダオは全く取り合おうとしない。

「この場所で幻覚を見る者は多いのです。砂漠の暑さと、墓地独特の神秘的な雰囲気のために、混乱が生じているのでしょう。あまり深く考えず、しっかりと水分を取って、少しの間目を瞑り、気分を落ちつかせたほうがよろしいでしょう」

 実際にスフィンクスが動くのを見ていなかったユノアには、イダオの言葉に頷くしかなかった。

「ミヨ…。落ちついて。私の背中に寄りかかっていていいから、今は休んだほうがいいよ」

 ミヨは悲しそうな顔をしたが、それ以上反論しようとはせず、ユノアの後ろで静まりかえってしまった。

 ユノアはスフィンクスに目を向けた。だがそこにあるのは、さっきと何ら変わりのない、ただの像にしか見えなかった。


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