第四章:ツェキータ観光へ
次の日、リーベルクーン王宮に向かったのは、ヒノト、キベイ、オタジ、そして、ユノアとミヨの五人だった。このメンバーは皆、昨夜エミレイが帰っていった後、ユノアに関する全ての情報を聞かされていた。
王宮が近づくに連れ、ユノアの顔は緊張で強張っていく。すると、ユノアの手をミヨが握った。昨夜、ミヨは全てを知っても、ユノアを恐れたり、厭わしく思うことなく、支える決意をしてくれたのだ。それがどれほど、ユノアにとって救いになっていることだろう。
ミヨの手を握り返しながら、ユノアは染み入るように感じていた。
(私には、こんなに心強い仲間がいる…)
自分は決して一人ではないのだと思うと、不安も和らいでいくようだった。
ヒノト達が王宮の門をくぐると、すぐに、庭で談笑しているリックイ、イダオ、そしてエミレイの姿が目に入った。
ヒノト達を認めると、リックイはすぐに話を止め、近づいてきた。リックイは頭に、黄金の蛇の彫刻のついた被り物を被っている。外に出かけるときは、いつもこれを被る習慣があるのだろう。
「よくいらした。ヒノト王。急な誘いにも気前よく応じてくれて、嬉しく思っている」
リックイの顔には笑顔が浮かんでいる。機嫌は上々らしい。
ヒノトは深く礼をした。
「リックイ王からお誘いを受けるなど、この上もない名誉でございます。一同喜び勇んで、参らせていただきました」
ヒノトは顔をあげ、心配そうな顔を作った。
「それにしても…。よろしかったのですか?リックイ王…。政務でお忙しいでしょうに、私達にお付き合いくださるとは…」
「何をいう。これも立派な政務の一つだ。遠い国から遥々やってきてくれたヒノト王の一行に対して、ツェキータ国王として、これくらいの礼を尽くすのは当たり前だ」
「…ありがたいお言葉です」
「では、ツェキータ王国の観光に出発しようか」
リックイとヒノトが並んで歩き始めた。その後に、家臣達も続いていく。イダオはリックイとヒノトの輪に交じり、キベイとオタジはエミレイと組を作って、それぞれが和やかに談笑しながら歩いていく。その後に、ユノアとミヨも続いた。
それは、とても穏やかな光景だった。リックイは特にユノアに声を掛けることもなく、何が起きるのだろうと身構えていたユノアは、拍子抜けしていた。
ミヨもほっとした表情で、そっと囁いた。
「…リックイ王は、すぐにユノアの傍にくると思っていたのに…。今日ユノアが誘われたのは、本当についでで、リックイ王は、ヒノト様とお話がしたかったのかしら?」
ユノアは困ったように首を傾げた。
「分からないわ…。そうだといいけど…。でも、昨日のドゥゼクの話からすると、そうだとは思えない。リックイ王はきっと、私の力を確かめるために、何かをしてくると思うわ」
「うん、そうだね…。気を緩めないようにしなくちゃね」
ミヨは表情を引き締めて、再びユノアの手を強く握った。
一同は王宮の門の外に出た。そこでヒノト達を待ちかまえていたのは、たくさんのラクダだった。
リックイはヒノトに言った。
「今から、リーベルクーンの街の外に出て、砂漠に向かう。馬よりもラクダの方が砂漠には強いのだ。ヒノト王は、ラクダに乗ったことは?」
「いえ…。見るのも初めてです」
ヒノトは物珍しそうに、ひょうきんにも見えるラクダの顔や背中のこぶを、まじまじと見つめている。
「しかし…。砂漠に何があるのです?リックイ王…」
ヒノトの問いに、リックイは誇らしげに胸を張った。
「我がツェキータ王国の、英知と努力の集大成がある。外国から来たものがそれを見ると、そのあまりの迫力に、皆腰を抜かすのだ。…ヒノト王が、これまでの人生で決して見たことのないものだ。期待されよ」
こうまで自信を持つからには、よほど見事な何かが砂漠にあるのだろう。リックイの言い方からすると、自然のものではなく、ツェキータ王国の人の手によって造られたもののようだ。
ユノアとミヨは、目の前にいる、ひょうきんな顔をした動物をまじまじと見つめた。おっかなびっくりの二人とは違い、ラクダは余裕の表情で、堂々と横たわっている。
リックイが出発の掛け声を出した。すると、周りの兵士によって、ユノアとミヨも無理やりにラクダの背に乗せられた。
ラクダの背中のこぶに上手く身体を落ちつけることが出来ず、二人があたふたしている間に、ラクダは立ちあがった。視界が一気に広がる。それは、馬よりももっと高い場所からの景色だった。
ゆっくり、ゆらゆらとした歩調で、ラクダは前に進み始めた。馬に乗っているときとは違う感覚に、ユノアの顔にも笑顔が広がっていく。
チュチはもう慣れてしまったらしく、大胆にもラクダの頭の上に止まって、一番良い景色を眺めることにしたらしい。
エミレイを先頭に、ラクダに乗った一行は進み始めた。その後には、百人の兵士が従っていく。やはり、リックイが王宮の外に出るとなると、それ相応の警備が必要のようだ。
これだけの人数が進んでいくと、さすがに街を行く人々もリックイの存在に気付いたようだ。あちこちでどよめきが起こっている。だがリックイは、街の人々の歓声に応えようとはせず、盛んにヒノトに話しかけている。今日はヒノトの接待に徹するつもりのようだ。