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星姫の詩  作者: tomoko!
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第四章:不審な訪問者

 涙をぽろぽろと零しながら、ユノアはヒノトに訴えた。

「ヒノト様…。これから、一体何が起こるというのですか?私は、何かをしなければならないのですか?もう一人の星姫と、会った方がいいのでしょうか。…分かりません。私は、どうしたらいいんですか?」

「ユノア…!」

 思わずヒノトは、ユノアを抱きよせていた。その身体がぶるぶると震えていることに気付いて、ヒノトの心は強く痛んだ。

「すまない…!俺は、何も分かっていなかったんだ。この世の真実など何も知らないまま、自分の好奇心だけでユノアをこの街に連れてきて、その結果、ユノアを苦しめることになるなんて…。俺はあまりに無知だった。そのことにさえ、気付いていなかった。今はまだユノアをツェキータ王国に連れてくるべきじゃなかった!」

 今の自分では、ユノアを守ってやれないのだと、ヒノトは理解し始めていた。一体何から守らなければならないのか。それさえも、ヒノトにはよく分かっていないのだ。

「マティピに帰ろう、ユノア。もう用事は終えたのだし、俺達がリーベルクーンに留まらなければならない理由はない。だがもし、リックイ王が何か理由をつけてユノアに会おうとすれば、俺にはそれを拒むことは出来ない。ユノアを守ってやれないんだ。…そんなことになる前に、帰ろう」

 ヒノトの言葉に、ユノアは何度も頷いている。ヒノトの胸にしがみついて、ユノアは嗚咽をあげて泣きじゃくった。

 怖い。怖い!そんな悲鳴が聞こえてきそうだ。




 ヒノトは、これからのことを考えていた。

 明日、朝になればすぐに、リーベルクーンを立とう。ジュセノス王国の国政がまだ落ちついていないのは、ツェキータ国側も分かっている筈だ。ジュセノス王国で問題が起きたので、王である自分がすぐに帰らなければならなくなったとでも言っておけば、わざわざ王宮に挨拶にいかなくても、無礼にはならないだろう。自分の供であるユノアを一緒に連れ帰っても、リックイ達も何も文句は言えない筈だ。

 マティピに帰ってから、まずはレダに相談しよう。レダならば、何かいい知恵を授けてくれるかもしれない。

 だがもしかしたら、レダでさえ、打開案は浮かばないのかもしれない。それ程までに、ユノアに関する事態は、ヒノト達の手に負えなくなっている。いや、人間の手には負えない、といったほうが正しいのかもしれない。もはや、それは神の領域なのだ。

 マティピに帰ったところで、何の解決にもならないかもしれない。でもユノアも、マティピに帰りたいと言っているのだ。今はそうするより他に道はないと、ヒノトは決断した。


 ヒノトの胸の中で泣きじゃくっていたユノアが、ようやく落ち着いてきた。

「ユノア…。そろそろ、外に出ようか。ミヨが心配しているぞ。マティピに帰ることになったことだけでも、説明しておこう」

 ユノアがのろのろとした動きで、ようやくヒノトの胸から離れた。その目は、涙に濡れ、真っ赤になっている。


 ヒノトに促され、ユノアが部屋から出ようと、ドアに近づいたときだった。

 目の前で、ドアが激しく打ち鳴らされた。

「ヒノト王!よろしいでしょうか!」

 キベイの声だった。緊迫したキベイの声に、ヒノトの顔も強張る。ユノアは不安に揺れる目でヒノトを見上げた。

 ヒノトはすぐにドアを開けた。開けられたドアの先には、声と同じく緊迫した表情をしたキベイの姿があった。

「キベイ?どうしたんだ!」

「ヒノト様…。ヒノト様と、ユノアを尋ねて、訪問者が来ております」

「訪問者、だと?…こんな夜更けにか?」

「はい。神殿に勤める神官だそうで、ドゥゼクと名乗っております」

 神官と聞いて、ユノアは身体を強張らせた。

「その神官ですが…。どうも様子がおかしいのです。誰かに追われているようで、落ちつきがなく、不安そうにしています。とにかく早く、ヒノト様とユノアに会わせろと、そればかりで…。どういたしましょう。まさか神官が、ヒノト様に危害を及ぼすとは思いませんが…。追い返しましょうか」

「いや…。会おう。キベイは、俺の傍に。オタジは屋敷の周囲の見張りにつかせてくれ」


 ヒノトはユノアを振り返った。

「ユノアは、ここで待っているか?」

 ヒノトもまた、訪問してきた神官というのが、昼間ユノアが神官ですれ違った、ユノアのことを『ルシリア』と呼んだ神官ではないかと勘付いているのだ。

 ユノアは一瞬躊躇した。神官に会いたくないと、強く思ったからだ。会えば、きっとまた新たな事実が分かる。ユノアはもう、何も知りたくはなかった。

 だが、自分の気持ちとは反対に、ユノアはこう言ったのだ。

「いえ…。私も、神官に会います」

 ユノアの言葉に、ヒノトは驚いた。これだけ怯えているユノアが、まさか会うと言い出すとは思わなかったからだ。

「い、いいのか…?俺が話を聞き、後で教えてやってもいいんだぞ?」

「いえ…。いいんです。会わなければならない、そんな気がするんです」

 確かに、不安な心はある。だが、『ルシリア』という言葉の意味を、自分は知っておかなければならないと思った。それに…。何故だろう。漠然とだが、あの神官は、敵ではない気がする。そんな予感がするのだ。

 もう一つ、ユノアを積極的にした理由がある。それは、ヒノトだ。ヒノトが傍にいてくれる。全てを知って、自分と悩みを共有してくれる。そのことがどれだけ、ユノアを勇気づけているのだろう。


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