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星姫の詩  作者: tomoko!
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第四章:ユノアの本当の気持ち

 考えにふけるリックイを、ユノアはじっと見つめていた。その表情には、不安が濃く漂い、目には涙が浮かんでいる。

 遂に耐えきれなくなったように、ユノアは強く声を上げた。

「ヒノト様…!私はもう、マティピに帰りたいです!」

 ヒノトは驚いたように顔をあげた。うとうとしていたチュチも驚いて背筋を正し、何事かとユノアを覗き込んでいる。

「ユ、ユノア…?」

 今にもこぼれ落ちそうな涙をいっぱいに溜めた目で、ユノアはヒノトを見つめた。

「私は、自分が神だなんて、思いたくありません。私の中に、人間のものではない力が眠っているならば、そんな力、永遠に目覚めなくていい!私は…!私の、願いは。戦争が終わって、これからヒノト様の元で平和を築き上げていくジュセノス王国で、ヒノト様のお傍に仕えて、ミヨや、キサクさん、ティサさん、その他にも、大切な人達がたくさんいるマティピで、この命が終わるまで、穏やかな生活を送ることです」

「ユノア…」

 ヒノトは驚いていた。まさかユノアが、こんなことを考えていたとは思わなかった。自分が、ユノアが本当に神なのかどうか知りたいと思っていたとき、ユノアは、普通の人間として、平凡でも穏やかな生活を送りたいという、全く逆の考えを持っていたのだ。


 ユノアの目から、遂に涙がこぼれ落ちた。

「ヒノト様…!私、怖いんです。この国に来てから、おかしなことがたくさん起きるんです。神殿に行って、私の中の熱い塊がどんどん大きくなるのを感じて、怖くなった私は、急いで神殿の外に出ようとしたんです。そのとき、一人の神官に出会いました。その神官は、私を見るなり、酷く驚いた顔をして、私のことをこう呼んだのです。『ルシリア』と…」

「ルシリア…?それは一体、どういう意味だ?」

 ユノアは何度も首を横に振った。

「分かりません…!でもその、『ルシリア』という言葉にも、私の中の熱い塊は強く反応しました。それ以上塊が大きくなるのが怖くて、私は神官には何も聞かず、逃げ出したんです」

 ヒノトは、『ルシリア』という言葉を今までに聞いたことがないか、頭の中をフル回転させて記憶を探った。だが、この言葉を聞いた記憶はないようだった。

(こんなとき、レダがいてくれれば…。きっといい知恵を授けてくれるだろうに…)

 自分一人の力ではどうしようもない事態に陥っていることを、ヒノトは感じ始めていた。




 だがユノアの激白はまだ終わらなかった。

「ヒノト様…!神殿から逃げ出した後、私はリーベルクーンの街で、ミモリに会ったんです!」

「ミモリ!?ミモリだと!?ユノアが星と共に地上へ降りてきた星姫だと、お前の両親に告げた、仙人のことか?」

「そうです!…もう長い間、私はミモリに出会うことはありませんでした。お父さんとお母さんが殺されたときでさえ、ミモリは姿を見せてくれなかったんです!…そのミモリが、リーベルクーンの建物の屋根にいました。その姿を見た私は、ついかっとなって、気付いたときには、ミモリのいる屋根の上まで、飛び上がっていたんです」

 ヒノトはようやく、今日ユノアが人前で何故、屋根の上に飛び上がるという超人的な行動を取ったのか。その理由を知って頷いた。

「そうだったのか…。もしかしたらミモリはずっと、ユノアを見守っていたのかもしれないな。そのことにユノアは気付いていなかったが、今日、神殿で力が目覚め、ミモリの姿が見えるようになったんじゃないのか?」

「はい…。ミモリも、私がミモリの姿を見れることに驚いていたようでした…。私は、ミモリを責めました。どうして、お父さんとお母さんを助けてくれなかったのか、と。でもミモリは、そのことを全く悪いと思っていないようでした。それが、二人の運命だったのだろうと。だから、諦めろと…。それよりも、過去を振り返って嘆いている暇があれば、これから続いていく辛い道のりを、しっかり歩めと…。ヒノト様。ミモリは最後にこう言ったのです。星姫は、私一人ではない。この世にもう一人いるのだと…。星姫が同じ時に二人存在するなど、かつてないことだと、ミモリは言っていました」

「星姫が、二人、だと…?」

 あまりにも衝撃的な、新たな事実が次々に飛び出してくるので、ヒノトも混乱し始めていた。

「その…。もう一人の星姫というのは、どこにいるんだ?」

 ユノアは首を振った。

「分かりません…!それからすぐに、ミモリの姿は、私には見えなくなってしまったんです…」

 更に霊力を強めて、ユノアには見えないようにしたのか、とヒノトは思った。やはりミモリは、相当に強い霊力の持ち主なのだろう。かつて、レダに教えられた、ミモリという存在についての知識をヒノトは思いだしていた。ミモリは、この地上が生まれたときから、この世界に存在し、世界の歴史を見守り続けてきたのだと…。

(ミモリもやはり、神と呼ぶべき存在なんだ…。きっと俺などには、一生見ることは出来ないんだろうな…)

 ミモリやリックイは、自分とは全く違う次元の力を持っている。そしてユノアもまた、あちら側の存在なのだろうと思うと、ふとヒノトの心に寂しさがよぎった。


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