第四章:リックイとイェナサの語らい
形のいい唇を動かして、イェナサの口から言葉が送りだされる。
「リックイ…。今日、不思議な少女を捕えたと聞きました。銀色の髪をしていたと…。本当ですか?」
イェナサの問いに、リックイは頷いた。
「ああ、間違いない。ユノアという少女だ。だがもう、ユノアはこの王宮にはいない。ジュセノス国王、ヒノト王の供の者だと証明されたので、ヒノト王と共に帰した」
ジュセノス王国と聞いても、イェナサはよく分からないようで、眉をひそめている。
「ジュセノス王国?聞きなれない名前ですね…」
「ここからは遠く離れた、人口五百万人ほどの中規模国家だ。自然豊かで、農作物の収穫量も多い、安定した国家のようだ。以前ジュセノス王がこの国にきたのは、一五年以上前のことだそうだ。我がツェキータ王国と、親交の厚い国ではない」
「そうなのですね…」
イェナサは納得したように頷くと、改めて姿勢を正した。
「リックイ…。今日、神殿から、ドゥゼクを連れて行きましたね。何故ですか?一体ドゥゼクに、何の用があったのです」
黙ったままのリックイに、更にイェナサは問いかける。
「…今日、私の神殿にも、気に掛かる少女がきました。大きな帽子を被っていたので、髪の毛の色は分かりませんでしたが…。私には、その少女の周りに、オーラが立ち上っているのが見えました。あれは、間違いなく神気でした!私にはあの少女が、ただの人間とは思えないのです。もしあの少女が、あなたが捉えた、銀色の髪を持つユノアだとしたら…」
イェナサは一度言葉を切り、じっとリックイの様子を窺った。
「…ドゥゼクに、ユノアを見せたのでしょう?ドゥゼクは、何と言ったのです」
それまで黙っていたリックイが、ようやく動きをみせた。リックイはにやりと、イェナサに笑ってみせた。
「『ルシリア』だと…。そう言っていた」
イェナサは、驚きに目を見開いた。だがその答えはある程度予想済みだったのか、すぐに冷静さを取り戻した。
「『ルシリア』…。あの伝説の存在が、本当にこの地上に現れたというのですか?」
「ドゥゼクがそう言うのだ。…一族を弾圧されても、決して考えを曲げなかったあの男が、『ルシリア』だと言ったのだ。間違いはないだろう。…それに、ユノアが、『ルシリア』だということに、イェナサ自身が一番納得しているのではないか?」
図星を言われたようで、イェナサは眉をしかめ、軽くリックイを睨んだ。だがすぐに、リックイに寄り添い、その胸に顔を預けてきた。
リックイとイェナサが寄り添って、光り輝くリーベルクーンの街並みを見つめている。それはまるで一つの絵画のように美しい。
リックイの心臓の鼓動を聞きながら、イェナサが呟いた。
「…大丈夫です。『ルシリア』が現れようと、他のどんな深刻な事態が起ころうと、我がツェキータ王国の繁栄が揺るぐことはありません。私と、リックイ、あなたがいる限り。決して…」
リックイは何も答えず、傍に置いておいたワインのグラスを手に取り、ワインを口に含んだ。