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星姫の詩  作者: tomoko!
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第四章:ツェキータ国王の夜のひと時

 夜になり、リックイは自分の寝室へ戻ってくつろいでいた。寝室とはいえ、家具や寝具には惜しみなく黄金が使われ、細工も細やかで実に見事な品ばかりだ。普通の人間なら、こんな部屋では緊張し、落ち付いて眠れないのだろうが、生まれたときからこんな生活が当たり前のリックイにとっては、この絢爛豪華な部屋こそが、落ちつける場所だった。

普段はあまり飲まないワインを手に、夜になっても眩しいほどの灯りに包まれたリーベルクーンの街並みを眺めていた。リックイが一人のときにワインを飲むのは、よほど気分がいいときだけだった。

 リックイは、本来なら世界が闇に包まれ、静まりかえっている筈の夜にも関わらず、灯りをともし、活気に溢れるリーベルクーンの街を見るのが好きだった。この街が、自然の道理に打ち勝った街なのだと、そう思えるからだ。

 この街に今、『ルシリア』がいるのだと思うと、その輝きが更に増すようだった。


 今日、ユノアを目にしてからというもの、リックイの頭から、その面影が消え去ることはなかった。ユノアと別れてから、新たな国の使節団とも会った。国政に関しての会議にも出席しなければならなかった。多忙極まりない日程をこなしたのだが、その間ずっと、リックイは頭の片隅で、ユノアのことを考え続けていた。

 美しい少女だと思う。『ルシリア』に相応しい容姿の持ち主だ。ユノアがどんな少女なのか。どんな性格なのか。それはリックイにはまだ分からない。何しろ、まだ面と向かって話したことはないのだ。だがきっと、風に揺られてたなびいていた、あの銀色の髪の毛のように、澄みきった心の持ち主なのだと思う。この世の醜い部分など一切知らず、生まれたばかりの赤ん坊のように、純真な心のままなのだろう。そうでなければ、あんなにも清らかな美しさが保てるわけがない。




 物思いにふけっていたリックイは、部屋に一人の人物が入ってきたことに気付かなかった。

「リックイ…」

 柔らかな女性の声が、リックイの名を呼ぶ。ようやくリックイはその存在に気付いて、振り返った。

 そこには、神殿で皆から崇められていた、あのイェナサがいた。イェナサは夜の寝巻に着替えている。寝巻と言っても、まるで何も着ていないような、薄い生地だ。ろうそくの淡い光でも、イェナサの美しい身体のラインがはっきりと見える。

 そんな魅惑的な格好で現れたイェナサにも、リックイはまるで動じない。どうやらこの王宮では、女性がこのような格好をすることは、ごく当たり前のことらしい。

 国王の許可も得ず、勝手に部屋に入ってきたイェナサだったが、リックイがそれを咎める様子はない。イェナサには、それだけの権利が与えられているのだ。

 イェナサはリックイのすぐ傍に腰を下ろした。イェナサの身体からは、芳しい香料の香りが漂ってくる。

 イェナサは、今は化粧を落としていた。目の周りに引かれていた緑色のラインも落として、昼間よりは幼くなった印象だ。しかし、化粧をしていない分、イェナサ本来の気品高い美しさがよく分かる。

 もしイェナサが、リーベルクーンの街中に現れたら、その美しさのため、すぐに人々の注目を一身に集めるだろう。だがそれほどのイェナサの美貌も、リックイと一緒にいると、薄らいでしまう。リックイもまた、イェナサに劣らぬ美貌の持ち主だからだ。

 よく見ると、二人の顔はよく似ているようだ。よく似た顔立ちをした二人の美男美女は、静かに見つめ合った。


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