第四章:ドゥゼクの証言
王宮の中に戻ったリックイは、目の前に立ち塞がった人物のため、足を止めた。
「イダオ…。どうした?…ああ、お前もここから、ユノアのことを見ていたのか」
リックイの問いかけに、イダオは頷いた。
「はい。見ておりました。…私だけでなく、この者も一緒に」
イダオは後ろを振り向いた。それは、男の神官だった。神官の顔は青ざめ、身体は小刻みに震えている。
「ドゥゼク…」
ドゥゼクは、ユノアとミヨが神殿から飛び出していったときにすれ違ったあの、まだ少年の神官だった。
神官の名を呼び、楽しげに笑みを浮かべて、リックイは歩み寄った。
「どうした。何をそんなに怯えている?」
顔を覗き込もうとするリックイから、ドゥゼクは逃げようとする仕草をみせた。するとすぐに、エミレイが喝をとばす。
「ドゥゼク!何だ、その態度は!リックイ王がお尋ねになっていることに、早く答えよ!」
エミレイのどなり声に激しく身体を震わせたが、ドゥゼクはやはり何も言おうとはしない。
イダオが口を開いた。
「リックイ王…。私は、ドゥゼクにこう尋ねたのです。ユノアは、『ルシリア』ではないのか、と…」
リックイは目を見開き、思わず叫んでいた。
「『ルシリア』だと!?」
リックイの顔から、笑みは消えていた。リックイは荒々しくドゥゼクの服を掴み、睨みつけた。
「…ドゥゼク。答えろ。ユノアは、『ルシリア』なのか?」
やはりドゥゼクは答えない。いや、激しい震えで、歯ががちがちと音を立てており、言葉を喋れる状態ではない、というのが本当かもしれない。
口に出さずとも、答えは明白だった。ドゥゼクの態度は、ユノアが『ルシリア』なのだと物語っている。
用済みだと言わんばかりに、リックイはドゥゼクを突き飛ばした。ドゥゼクは大きな音を立てて、床に倒れ込んだ。
リックイは、身体をのけぞらせ、大きな声を上げて笑い始めた。
「そうか。『ルシリア』か!…それで全て納得できる。ユノアの驚異的な行動も、あの美しい銀色の髪も。よくぞ気付いたな、イダオ!」
イダオも満足そうな笑みを浮かべて、頭を下げた。
「お褒めの言葉をいただき、この上もない喜びです」
リックイは興奮で顔を上気させ、何度も頷いている。
「そうか…。『ルシリア』が、私の手の内に来たか!…これは、運命の出会いだ。そうは思わないか?イダオ!」
イダオも頷いた。
「その通りでございます。『ルシリア』を手に入れた幸運を、一欠けらも無駄にしてはなりません。ツェキータ王国のために、利用しきらなければなりません」
リックイは再び高らかに笑った。
「ああ、楽しみだ!…こんなに愉快な気持ちになったのは、私がこの世に生まれて以来、初めてのことかもしれないな」
興奮して、全身で喜びを表しているリックイは、二十一歳という年齢相応に見える。世界の王としてではなく、一人の人間としてのリックイが、本当に喜んでいるのだ。
無邪気ささえ感じられるリックイの笑顔を見つめていたエミレイの顔にも、嬉しそうな笑みが浮かぶ。
すっかりその存在が忘れ去られたドゥゼクは、満面の笑みを浮かべて語り合うリックイ達三人を、血の気の引いた顔で見上げていた。