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星姫の詩  作者: tomoko!
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第四章:想定外の事態

 和やかな談笑のまま、ヒノトとリックイの会談は終わるのだろうと、誰もが思っていた。

 その時、エミレイが扉の外から呼ばれ、部屋を出て行った。

 そして、すぐに戻ってくると、そのままリックイに近づいていったのだ。エミレイはリックイに何事か耳打ちしている。

 報告を受けたリックイは、興味深そうに「ほぅ…」と呟いた。

 イダオも怪訝そうにしている。

「リックイ王。何か、問題でも?」

「面白いことが起きたようだぞ、イダオ。リーベルクーンの街中に、銀色の髪を持つ少女が現れたそうだ。しかもその少女、人々の目の前で、ひとっ飛びで、何十メートルもある屋根の上に飛び上がったらしい」

 銀色の髪。リックイの言葉を聞いて、ヒノトは目を見張った。思わずキベイを振り返る。キベイも深刻な表情で、ヒノトを見つめ返した。銀色の髪を持つ少女など、ユノア以外には考えられないのだから。

 リックイはうきうきした表情で立ちあがった。

「エミレイ。その少女は、兵士が捉えて連れてきたのだな?」

「はい。宮殿内に拘束しているそうです」

 イダオは心配そうに言った。

「王よ…。まさか、見に行かれるおつもりですか?」

「ああ、そうだが。何か問題があるか?」

「…銀色の髪の毛など、今までに聞いたことも見たこともありません。得体の知れない者ならば、害のないことをまず証明するべきでは…」

 リックイはにやりと笑った。

「…心配するな。この私が、危険な目に合うと思うのか?」

 リックイの表情を見て、イダオは沈黙せざるを得なかった。リックイは完全に浮足立っている。今から体験することが、楽しみで仕方ない様子だ。こんなリックイは、誰が何と忠告しようと、決して耳を貸すことはないのだ。

 リックイは颯爽と歩きだした。

「エミレイ!行くぞ」

 エミレイは従順に頭を下げた。

「はっ!リックイ王」


 エミレイを引きつれて部屋を出ようとしたリックイがヒノトの傍を通り抜けようとしたとき、ヒノトがリックイを呼びとめた。

「お待ちください、リックイ王!」

 足を止めたリックイは、不思議そうにヒノトを見つめた。傍で見ると、リックイの類稀なる美貌がもたらす迫力が、更に増すようだ。

「どうした。ヒノト王」

「今、銀色の髪の少女と、おっしゃいましたか?」

「ああ、そうだが…」

「…もしかしたらその少女、私がこの国へ連れてきた供の一人かもしれません」

 思いもしなかったヒノトの発言に、リックイは身体の向きを変え、ヒノトに向かい合った。

「何と。それはまことか?」

「はい。名を、ユノアと言います。よろしければ、ご一緒して、その少女が本当にユノアかどうか、確かめさせていただいてもよろしいでしょうか。もし本当にユノアならば、街を騒がせた責任を、私も負わなければなりません」

 リックイはすぐに返事をしなかった。ヒノトをじっと見つめ、その心の内を探ろうとしているようだ。ヒノトは澄んだ目で、リックイを見つめ返した。自分はただ、少女が自分の供なのかどうか確認したいだけなのだと、開き直った気分だった。リックイに対して隠し事をしている。そんなやましい気持ちは、心の奥底にしまい込んだ。

 ヒノトが隠しこんだ秘密に、果たしてリックイは気付いたのだろうか。リックイは、にやりと笑ってみせた。

「…いいだろう。ついてくるがいい」

 リックイが今、ヒノトに対して何を思っているのか。その真意は、ヒノトには読み取ることが出来なかった。

 それでも、ヒノトはリックイの後に続いていった。今大切なことは、囚われの身となったユノアを救い出すことだと思ったからだ。


 キベイとオタジも、ヒノトの後に続いた。だが二人の表情には、不安の色が濃く漂っている。

 銀色の髪を持つユノアに、強い関心を見せるリックイ。そのリックイに、ユノアが実はグアヌイ王国との戦いで活躍した女スパイだということを隠したヒノトは、ユノアとリックイを会わせることには否定的だった筈だ。

 何が不安なのか、ヒノトにも、キベイにもオタジにも、はっきりとは分からない。そこにあるのは、漠然とした不安だけだった。




 リックイが、エミレイ、そしてヒノト達を連れて出て行った後、残されたイダオは一人考え続けていた。

 リックイが、銀色の髪を持つという不可思議な少女と出会おうとしている。この出会いが持つ意味は何なのか。出会ったその瞬間から、一体何が始まるというのだろうか。

「…銀色の髪、だと?そんな髪を持つものが、人間にいるのか?」

 人間でなければ、何だというのか。

 ある閃きが、イダオの頭に浮かんだ。

 イダオは、傍に控えていた侍従に命じた。

「ドゥゼクをここに呼んでこい」

 すぐに侍従は部屋から出て行った。

 イダオは窓際に歩み寄ると、そこから見えるリーベルクーンの街並みを、いつまでも見つめ続けていた。


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