第四章:豪華絢爛な王宮
宮殿内に足を踏み入れると、途端にオタジの鼻息が荒くなった。
「うぉっ!見てみろよ!いい女がいっぱいいるぜ」
確かに、王宮内には美しい侍女がたくさんいた。蒸せるような熱さがほぼ一年中続くこの国の習慣なのか、皆、胸元のはだけた、薄い生地の服を一枚着ているだけだ。日光の当たる場所に出れば、服が透けて、その下の身体のラインをはっきり見ることが出来る。
オタジはすっかり、王宮の女の妖艶な魅力の虜になったようで、すれ違うたびに口笛を吹いたり、声をかけたりと、すっかりご機嫌のようだ。
ヒノトはといえば、オタジの下品な素行など全く気にしていない様子で、見事な王宮の造りについて、キベイと語り合っていた。
「すごいな…。あの彫刻を見てみろ。細部はとても細かいのに、全体で見ると迫力がある」
「置かれている絵画や壺も、素晴らしいですね…。金さえあれば集められるようなものではない。ツェキータ王国に献上するために、諸国の王が、国の威信をかけて、名工達に造らせた傑作を、持ち寄ってきたのでしょうな…」
見惚れる対象が女か、美術品かの違いはあるものの、ヒノト達は、煌びやかな王宮の魅力に、すっかり魅せられてしまったようだ。
華やかな造りの宮殿が終わり、ヒノト達の前に、あの塔が現れた。それまでの華やかさとはうって変って、頑丈な石膏で造られた簡素な設計だ。
それまで黙ってヒノト達の前を歩いていた侍従が振り向いた。
「この塔の上にある王の間に、リックイ王はおられます。ここからは階段となりますので、足元にお気をつけください」
螺旋状の階段をぐるぐると回りながら、ヒノト達は塔を登っていった。これだけ急な傾斜の階段を上り続けていると、さすがに息が切れる。
これも、世界に君臨する王に会うための、訪問者に与えられる試練なのだろうか。礼儀を尽くして迎えるべき訪問者に対しての傲慢な仕打ちに、ツェキータ王国のプライドの高さが分かるようで、ヒノトは失笑を隠せなかった。
ようやく、王の間へ通じると思われる扉の前に到着した。ヒノトは、乱れた息を何とか整えようと、深呼吸をしなければならなかった。
リックイ王に会う前には、きっと緊張するだろうと思っていたが、こう慌ただしいと、緊張するどころではない。
重々しい音を立てながら、扉が開かれた。開いた扉の間から抜けてきた風が、ヒノトの顔に吹き付けた。
髪の毛を揺らしながら、ヒノトは王の間の中へと踏み込んだ。