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星姫の詩  作者: tomoko!
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第四章:リーベルクーン郊外の邸宅にて

 リーベルクーンの中でも比較的静かな郊外に、ヒノトは邸宅を持っていた。ジュセノス国王がリーベルクーンを訪れるときは、いつもここを拠点にしている。周りにはたくさんの樹木があり、水路も整っていて、水に不自由はない。ここが砂漠の真ん中にある都市なのだということを忘れてしまいそうだ。

 風呂に入って身体についた汚れをとり、食事を取って一息ついた後で、ヒノトはキベイ達を集めて会合を開いた。

「明日は王宮に行く。手筈に抜かりはないか?」

 ヒノトの問いに、キベイが頷いた。

「はい。ぬかりはございません。リックイ王への謁見の時間も、貢物も、王宮側と確認済です」

「そうか。…俺はリックイ王と謁見するのは初めてだ。どんな王なのだろう。性格など、分かっていることがあれば教えてほしい」

 キベイは頷き、予め調べてあったらしい資料をめくりながら、ヒノトに説明を始めた。

「リックイ王は、若干二十一歳の若年王です」

「二十一歳?なんだ、俺より二歳も若いのか…。拍子抜けだな」

 気の抜けた顔をしたヒノトに、キベイがすぐに釘をさす。

「年下だからと言って、侮ってはいけません!リックイ王は若いとはいえ、既に七年もの間、ツェキータ王国を治めているのです」

「それは、大したものだな…」

 王としての経歴は自分より長いのだと、ヒノトはまたまた驚いている。

「リックイ王は、あらゆる面に精通した知識の量と、的確な判断を導く決断力で、王としての素質を外国からも認められています。ですが、年若いせいか、短気な性格でも有名な王です。側近を手打ちにするなど、日常茶飯事のことのようです」

「手打ち?自分の臣下をか?」

 これは、日頃から臣下を何よりも大切に考えているヒノトにとっては信じられないことだった。

「ええ…。そのせいか、ツェキータ王国の臣下はリックイ王を恐れ、王は二十一という若さながら、独裁体制を確立しています。今この王国内で、王に反対意見を述べることの出来る人物はいないでしょう」

「…凄いな。みんなに頼り切りの俺に比べて、随分しっかりした王だ」

 本気で感心している様子のヒノトを見て、キベイは少し苛々している。

「ヒノト王…。しっかりしていただかなければ!リックイ王に侮られてはなりませんぞ。手ごわい相手だと警戒されるくらいに、威厳を持って望んでください。そんなにほのぼのとした態度では困ります」

「そう言われても…。これが俺の性分だからなぁ…」

 困ったように渋い顔をするヒノトを見て、ユノアは、(ヒノト様らしい…)と笑いをかみ殺していた。

 威圧的で、傲慢な王など、ヒノトには似合わない。庶民的で、暖かな空気を持つヒノトだからこそ、ユノアは好きなのだ。


 リックイ王との会見内容についての打ち合わせも終わった頃、ヒノトがユノアに向かっていった。

「ああ、そうだ。ユノア。明日の会見だが、お前はついてこなくていいからな」

 ユノアは目をパチクリさせた。

「ええ?そうなんですか?」

 特別警護官などという大層な名前をつけられて大抜擢を受けたからには、四六時中ヒノトの傍についていようと覚悟していたユノアは拍子抜けだ。

「…何故、行ってはいけないのですか?」

 寂しそうな顔になったユノアを元気づけるように、ヒノトは笑った。

「今はまだ、お前とリックイ王を会わせるには、時期尚早だと思う」

 まただ、とユノアは思った。この前からヒノトは、こんな曖昧な言葉を繰り返す。ヒノトが何を言いたいのか、ユノアにはよく分からない。

「リーベルクーンの街を、自分の足で歩いてみろ。感じることがある筈だ。リーベルクーンの城壁の外に、神殿もある。そこにも行ってみるといい」

 何が目的なのかはよく分からないが、ユノアはとりあえず頷いた。ヒノトが無意味なことをさせるわけはないと思ったからだ。




 翌朝、ジュセノス国王の正装である、青生地に金色の刺繡が施された服を着たヒノトは、キベイとオタジ、そして、貢物を持った兵士達を引きつれ、馬に跨っていた。

 「じゃあ、俺達は王宮に行ってくる。どこにでも行って、リーベルクーンの街を見るのはいいが…。いいか。ユノア、これだけは守ってくれ。決して目立たぬように。その髪の毛も、帽子の下に隠しておくんだ」

 ヒノトの厳しい表情に、ユノアは驚きつつも頷いた。


 出発したヒノト達の後ろ姿を見送りながら、ユノアは隣にいたミヨに言った。

「じゃあ…。私達も街に出てみる?」

 ミヨはわくわくしている様子だ。

「うん!お小遣いももらったし!可愛い服があれば、買いたいなぁ」

 二人は、何を買おうかとはしゃいで相談しながら、リーベルクーンの街へ飛び出していった。チュチは空へと舞い上がり、上から二人を追うつもりのようだ。

 その姿は、無邪気な一五歳の少女そのものだった。


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