第四章:キサクの診療所
グアヌイ王国との戦いに勝利し、ジュセノス王国は長年の戦いの歴史に終止符を打つことが出来ました。この戦いで活躍したユノアに、ヒノトは深い信頼と、まるで家族に対するような強い愛着を持つようになります。
グアヌイ王国との戦いが終わり、とりあえず一番の問題が片付いたヒノトは、ユノアのことを真剣に考え始めます。ユノアは一体何者なのか。ヒノトは実際に見たことはありませんが、ユノアは神と呼ばれるほどの力を持つ超能力者のはずなのです。
ユノアの中に眠る力の謎を解き明かすため、ヒノトはある国へ、ユノアを連れていくことにします。
(ユノアの中に眠る力が、いよいよ目覚めていきます。これからは神々の力が関係する展開にするつもりなので、私の苦手な具体的な描写がしにくくなり、分かりにくい描写が増えるかもしれません…。話の展開が理解できないぞ、とか、前に書いていたことと違う、とか、いろいろつっこみ所があるかもしれません…。あまりに酷いときは、教えていただけると嬉しいです。これからもどうぞ、よろしくお願いします)
ジュセノス王国の首都、マティピの街の外れに、小さな診療所がある。そこでは、キサクという一人の町医者が、無料に近い低料金で、貧しい人々の診療を行っていた。
ジュセノス王国は、治安が安定しており、農作物の収穫量も豊富で、比較的貧富の差が少ない国だとされている。
だが、キサクの診療所には、多くの貧しい人々が押し寄せていた。おかげで、キサクは毎日、早朝から深夜まで、寝る間も惜しんで働き詰めとなっていた。
キサクが貧しい人々のために診療所を開設してから、もう十年以上になる。だがこんなにも忙しいことはなかった。忙しくなったのは、ここ半年のことだ。
マティピに貧しい人々が増えたことには、明白な理由があった。半年前、ジュセノス王国が、隣国、グアヌイ王国を滅ぼしたことだ。
史上最悪とまで言われたグアヌイ王、リュガ王の統治下で、貴族達は煌びやかな生活を贈る一方、グアヌイの一般庶民は、どん底の貧乏暮らしを味わっていた。毎日食べる物もほとんどなく、病気になっても医者にも掛かれない。
そんな人達が、ジュセノス王国がグアヌイ王国の領土を統合した途端、豊かな暮らしを求めてマティピに流れ込んできたのだ。
ジュセノス国王、ヒノトも、何も対策を打たなかったわけではない。元グアヌイ国民に食糧と金品を配布し、テントを張る土地を与えた。
もちろんそれは、元グアヌイ国民が豊かに生活するために、充分な支援とはいえなかった。だがヒノトには、それ以上の支援は出来なかった。
その理由は、元々ジュセノス王国の民だった人々から、不満が噴出したからだった。ジュセノス国民からすれば、敵だった国の国民に、何故自分達が働いて得た食べ物や金を与えなければならないのかという考えなのだ。中には、奴隷にすればよいなどという、過激な発言をする者までいた。
これ以上の支援は、反対派の国民を刺激するだけだと、ヒノトは抑えぎみの支援をするだけに留めたのだった。
同じジュセノス国民となった筈の、元グアヌイ国民の人々は、貧しい暮らしから抜け出せないというのに、抗議をすることも出来ず、不公平な世の中を嘆きながら、耐えるしかないのだ。
そんな中、人々の救いの場所となったのが、キサクの診療所だった。キサクは、どんなに貧しい病人であろうと、拒むことなく受け入れた。
表向きはただの町医者だが、実はキサクはかつて、国王であるヒノトの命を救ったこともある名医だった。その知識と経験は、ジュセノス王国でも一、二を争うほどかもしれない。まさに、国を代表する名医だった。
キサクの適切な処置で、訪れた患者達もまた、命を救われていた。
だが、患者から充分な報酬を取ることもなく、何故キサクは診療所を続けていくことができるのか。医療を行うには、器具も、薬も必要だ。どこから資金を調達しているのだろうかと、首を傾げる者もたくさんいた。
キサクを援助していたのは、実はヒノトだった。公にはこれ以上、元グアヌイ国民に援助が出来ないので、ヒノトはその人達の健康管理を、キサクに託したのだった。
ヒノトとキサクの間に、強い信頼関係があるからこそ、出来ることだった。
だがおかげで、キサクは毎日、食事もままならないほどの忙しさに追われていた。
そのキサクを手伝うために、王宮での仕事がないときだけではあるが、ミヨとユノアが診療所に来ていた。
ユノアは以前からずっと、キサクに医術を学びたいと思っていたのだ。
自分に医術の心得があったらどんなに良かったか、と思う機会が、ユノアには何度もあった。例えば、友人だったラピが死んだときだ。もちろん、医学の心得があったとしても、あの時ラピが助かったとは思えない。だが、今にも死んでしまいそうなラピを目の前にして、ただ泣いているしかなかった自分が、ユノアはたまらなく悔しかったのだ。
ユノアは、ジュセノス軍の兵士だ。兵士とは、敵兵を殺すことが仕事だ。そのユノアが、人の命を救う医術を学びたいというのは、矛盾しているようにも思える。それでもユノアは学びたかった。目の前で大切な人が苦しんでいるとき、何も出来ないのは、もう嫌なのだ。
キサクの診療所で働き始めたとき、ユノアはほとんど何も手伝うことが出来なかった。医術の基礎を何もしらないので、どう動けばいいのか分からなかったのだ。
それとは対照的に、きびきびと働いていたのはミヨだった。ミヨは侍女として、何度も戦場に、負傷した兵士の看病のために行っていたからだ。
ユノアはミヨに付いて、医術の基礎を学んだ。ユノアはどんなことでも嫌がらずにするし、努力も惜しまなかったので、すぐに立派な医療者として、診療所を手伝えるようになっていった。