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星姫の詩  作者: tomoko!
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第三章:喜びの涙

 ジュセノス王国の首都、マティピでは、グアヌイ王国との戦いに勝利したことを祝う祭りが、街をあげて行われていた。

 人々の表情は、この上なく明るかった。グアヌイ王国との戦いに終止符が打たれたことを、全てのジュセノス国民が心から喜んでいた。

 街には、王宮から配られた食べ物や酒が溢れ、人々はここぞとばかりに、思う存分、食べ、飲んだ。楽器が奏でられ、音楽に合わせてみんなで踊りを踊った。

 辛い戦いの後にもたらされた平和のときを、人々は心から楽しんでいた。

 その中には、ラピの家族の姿もあった。ラピを失ってから、生きることに希望を見出せなくなっていた家族も、今日この時は、心の底から笑っていた。




 マティピ王宮では、今回の戦争で活躍した兵士達の功績を称えるための表彰会が、盛大に執り行われていた。

 王宮前の広場には、一万のジュセノス兵が集められた。

 ヒノトとマカラは、石段の上に設けられた椅子に座り、微笑んで居並ぶジュセノス兵を見つめている。二人の両脇には、レダを始め、大臣達が並んだ。


 今回の戦いでの功績を認められた兵士達が、次々と名を呼ばれ、石段をあがっていく。その一人一人にヒノトは声を掛け、勲章の証であるバッチを贈った。兵士がバッチを受け取ると、大きな拍手が沸き起こり、兵士の功績をたたえた。


 そしてユノアも、キベイ達将軍や、他の兵士達と何ら変わることなく、名前を呼ばれ、ヒノトの前に立った。ユノアの肩には、連絡係として立派に活躍したチュチが止まり、誇らしそうに胸を張っている。

 今や、ユノアは誰もが認めるジュセノス兵の一人となっていた。兵士としてヒノトの前に立つユノアに、誰もが温かく拍手を送っている。


 いや、たった一人例外がいた。それは、マカラだった。

 ヒノトの隣の席に座って、マカラは険しい表情で、じっとユノアを見つめていた。

 ヒノトは、他のどの兵士よりも、長くユノアに話しかけ、何度も何度も微笑みかけているように見えた。

 ユノアをヒノトの傍から引き離したい衝動を、マカラは必死に堪えなければならなかった。


 だが、マカラにとって更に耐えがたい発表があった。

 今回の功績が認められ、ユノアの兵士としての階級が上がることになったのだ。ユノアは、ガイリ将軍を補佐する役目を与えられた。つまり、ガイリに次ぐ高い階級を与えられたのだ。

 それまで末席の兵士に過ぎなかったユノアにとっては、異例の大出世だった。

 だが、その発表を聞いても、異論を唱える者はいなかった。誰もが納得の表情で、驚くユノアに拍手を送っている。

 これでユノアは、公に、ヒノトと直接話をすることを許される身分となったのだ。

 本当に何も知らされていなかったユノアは、驚きの表情でヒノトを見つめた。ヒノトは優しく微笑んで、ユノアに頷いてみせた。

 肩にいたチュチも、嬉しそうにユノアの頬に身体をすり寄せてくる。その温もりで、ユノアはこれが夢ではない、現実に起こっていることなのだと、知ることが出来た。



 バッチを受け取り、石段を降りようと振り向いたユノアの目に、居並ぶジュセノス兵が、ユノアに向かって拍手を贈っている光景が飛び込んできた。


 ユノアは咄嗟に、胸元のラピの首飾りを握りしめていた。

(ラピ。見てる?私…、遂にやったのよ。ヒノト様のお傍に戻るという夢を、叶えたわ!)

 ユノアがラピにその夢を話してから、一年が経った。たったの一年だ。ユノアは見事に、自分の努力で、自分の望みを叶えたのだ。

(今の私なら、あなたも誇りに思ってくれるわよね?ラピ…)

 ユノアの目には、涙が光っていた。


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