表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星姫の詩  作者: tomoko!
154/226

第三章:的中した不安

 ヒノトが軍を率いて出陣してから、早一週間が経とうとしていた。

 ゴザで静養していたユノアは、軽い武術の練習程度なら出来るほどに回復していた。

 だが、それを見守るミヨの顔は、怒っていた。

「もう、ユノアったら!まだ休んでなきゃ駄目って言ってるのに!」

 ミヨのヒステリックな声を聞いて、ユノアは苦笑いしている。

「多めに見てよ、ミヨ…。だっていつ、戦場に行くことになるかもしれないじゃない」

「…兵士っていう人達は、そんなにも自分の身体を大切にしないの?そんな無茶してたら、おばあちゃんになってから、動けなくなっちゃうわよ」

「おばあちゃんって…」

 ユノアは噴き出してしまった。ミヨの話があまりに未来へと飛んだからだ。

 それだけミヨが心配してくれるのは有難い。でもユノアは訓練を止めるつもりはなかった。

 訓練を続けるユノアを、ミヨは説得することは諦め、呆れながらも、ずっと見守っていた。


 ふと、ミヨがあることに気付いた。

「ね、ねえ。ユノア。あれ、ガイリ将軍じゃない?何か、あったのかな?」

 ユノアも、ミヨの視線の先に目をやった。そこには、軍の幹部を引きつれて、ゴザの市庁舎に入っていくガイリの姿があった。市庁舎には、ゴザに駐屯するジュセノス軍の司令部が設置されている。

 その表情が緊迫していることに、ユノアは気付いた。

「ミヨ。私ちょっと、行ってくる!」

「あ、ユノア!」

 ミヨも後を追おうとしたが、数倍の速さで走っていくユノアに、とても追い付くことは出来なかった。




 ユノアが到着したとき、司令部のあるゴザ市長室の前には、既にたくさんの兵士達が集まっていた。

 ユノアは、その中の一人の兵士に尋ねた。

「どうしたの?何か、あったの?」

「ああ、いや…。詳細はよく分からないが、グアヌイ王国に進撃している、王の率いる軍が、危機に陥っていると…」

 思いもしない言葉に、ユノアは唖然とした。

「ヒ、ヒノト王が…。ほ、本当なの?ヒノト王は、ご無事なの!?」

 ユノアのあまりに切羽つまった表情に、尋ねられた兵士は目を白黒させている。

「だ、だから、詳しいことは分からないんだ!今ガイリ将軍が、グアヌイ王国から戻ってきた兵から話を聞いているところだ!」

 ユノアは、身体中から力が抜けて行くのを感じた。

「そんな…。そんな…!」

 もう、勝利は決まっている戦争の筈だった。だからユノアは、ヒノトについていくことを渋々断念したのだ。

 やはり、リャンが何か卑怯な手を使ったのだろうか。

(這いずってでも、ヒノト様についていけば良かった…!)

 自分の判断が情けなくて、悔しくて、唇を噛みしめるユノアの目に、涙が浮かんでいた。


 ようやくガイリが、市長室から出てきた。

 集まっていた兵士達が、一斉に声を上げる。

「将軍!王は、王はご無事なんですか?」

「王軍が敗退したというのは、本当ですか?」

 誰もが言いたいことを言うので、一体何と言っているのかさっぱり分からない。

 ガイリは大声で叫んだ!

「静かにしないか!!」

 一瞬で、その場は静まりかえった。

「詳しく説明している時間はない。今から、精鋭千名を選抜する。今ゴザにいる馬の数と同じ人数だ。その千人で騎馬隊を結成し、全速力で王の元へ駆けつける!」

 ガイリの言葉に、その場にいる全員が、ヒノト王の置かれている危機的状況を察することが出来た。

 絶望的な表情をしている兵士達に、ガイリは明るく声をかけた。

「お前達、なんて顔をしているんだ!王はまだ生きておられるのだぞ。すぐに王を助けにいかなければ…。今から名を呼ばれたものは、今から三十分後に出発できるよう、用意をするように!」

 ガイリと他の幹部達が、兵士の名を呼びあげていく。呼ばれた兵士は、緊張に顔を引き締めて、準備のためにその場から走り去っていった。

 だが最後まで待ったが、ユノアの名は呼ばれなかった。


 ユノアはガイリに詰め寄った。

「将軍!私も行かせてください!」

 ガイリは驚いた様子だ。

「ユ、ユノア…、お前…。来ていたのか。もう、休んでいなくていいのか?」

「はい。もう大丈夫です。今日は、訓練も始めていました。…お願いです。行かせてください!」

「だが…。病み上がりのお前に、大切な馬を与えるわけには…。今必要なのは、王を助けるために確実に役に立つ兵力だ」

 ユノアはきっとガイリを睨んだ。

「…馬をくださらなくても結構です。私は走ってでも、絶対に着いていきます!」

 ガイリは考えこんだ。病み上がりでなければ、ユノアの戦闘能力は、ぜひとも欲しいところだが…。

「…お前の言葉を信用していいのか。ヒノト王を救うために、足手まといにならぬと断言できるか!?」

 ユノアははっきりと頷いた。

「はい…!」

「分かった。すぐに支度しろ!出発は、十分後だぞ!」

 そう言い残して、ガイリも自分の準備のために去っていった。

「あ、ありがとうございます!」

 ユノアはガイリに向かって礼をすると、自分の寝所に向かって走り出した。




 ガイリの言葉通り、十分後には千人の精鋭兵は馬に乗り、出発の準備を整えていた。

 馬のスピードをあげるため、食糧は持たない。剣や弓といった武器だけだ。


 馬に乗ったユノアに、ミヨが駆け寄ってくる。

「ユノア!本当に行く気!?」

 ユノアは一瞬ミヨを見た。

「ヒノト様が危機に陥っているの。私は、ここでじっと待ってなんていられない。ヒノト様が死んでしまったら、私の生きている意味はないわ!」

 それを聞いたミヨは、言葉を返すことが出来なかった。


 ガイリを先頭に、騎馬隊は一斉にゴザを飛び出していった。

 その速さは凄まじく、ゲイドへと続く平原の彼方へ、あっという間にその姿は見えなくなってしまった。


 残されたミヨは、天に向かって祈った。

「ユノア。ヒノト王!どうか、どうか、みんな、ご無事で!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ