第三章:最終戦争の始まり
グアヌイ軍動く!
その知らせが飛び込んできたのは、ヒノトがユノアを連れて帰還した次の日のことだった。
「…予想以上に、リャンの動きは速かったな」
ヒノトもまた、ジュセノス軍に出撃の命令を下した。
グアヌイ軍との戦いが再び始まるにあたって、ヒノトはゲイドを攻め落とすことを決断した。それは、これまでなるべく戦いを回避しようとしてきたヒノトらしからぬ、攻撃的な戦略だった。
グアヌイ王国を滅ぼす決断をした以上、攻める戦をしようという考えからだった。
出撃の支度が整ったジュセノス軍、六万の前に、ヒノトは立った。
六万の兵士の視線が集まる中、ヒノトは口を開いた。
「今回の戦いで、我がジュセノス王国とグアヌイ王国の、長い戦いの歴史に幕が引かれる。歴史に残る戦いだ。私は、この戦いに負けることなど考えていない。勝利した後には、グアヌイ王国の民も我が民として、幸福な暮らしが出来るように手助けしたいと思う。…シノナ河の流域で暮らしてきた人々が、今ようやく一つになるのだ。そうあるべきであったものを、あるべき姿に戻すための、これは聖なる戦いだ。諸君には、聖戦の勇者となってほしい!この戦いを勝利に導き、この地に平和をもたらしてくれ!」
ジュセノス軍六万が、王を称えて、天に向かって吠えた。その怒号は、ゲイドの中で息を潜めるグアヌイ兵にも聞こえたに違いない。
そして遂に、ジュセノス軍がゲイドに向かって攻撃を開始した。
ゲイドを守っていたグアヌイ軍は、形ばかりの反撃は試みたものの、その日の夕方には降伏した。
ゲイドの門を堂々と通過し、ヒノトを先頭としたジュセノス軍は、グアヌイ国へと踏み入った。
その頃ユノアは、ゴザへと戻る隊列の中にいた。
ガイリはヒノトに、ゴザへ戻って、万が一のときのため、守りを固めるように命令されたのだが、一緒にユノアも連れ帰るように言われたのだ。
もちろん、ユノアは抵抗した。ヒノトと一緒に戦うと声をあげた。
だが、ユノアは戦えるような体調ではなかったのだ。疲れが一気に出たらしく、高熱が出て、立つのもままならぬ状態だった。
ヒノト率いるジュセノス軍が出撃した後も、納得せずに後を追おうとするユノアを宥めたのはミヨだった。
「ユノア!いい加減にしなさい!そんな状態で戦いに参加しても、ヒノト様の足を引っ張るだけだってことが分からないの!?」
ミヨに怒られ、ユノアはしょんぼりと黙り込んだ。
すると、ミヨはいつもの穏やかな表情に戻って、優しく諭した。
「…大丈夫よ。ユノアが無理して行かなくても、ジュセノス軍の勝利は決まったようなものだわ。乱れ切ったグアヌイ軍に負ける筈がない。それはあなたが一番よく分かってるんじゃない?」
「…うん。そうね、ミヨ。きっと、そうだわ…」
だが、ユノアの胸の奥には、漠然とした不安が漂っていた。
戦争に絶対などない。卑怯な手を使うことを厭わないグアヌイ軍に、予想もしない秘策があったとしたら…?
胸騒ぎは続き、ゴザに戻ってからも、ユノアは一時も心休まる時間を持つことは出来なかった。
ジュセノス軍がゲイドを落としてからというもの、ぴたりとグアヌイ軍の動きが止まった。シーダス王宮に閉じこもり、静まりかえってしまったのだ。
リャンの考えが分からず、ヒノト達は戸惑った。王宮内が揉めているので、まずは内政をまとめようとしているのだろうかと、ゲイドに留まって様子を見てみたが、一向にグアヌイ軍が動き出す気配がない。
このままでは、グアヌイ王国を倒すということでまとまり、高まっていた兵士の士気も下がってしまう。グアヌイ軍の動向が分からぬのは不安ではあるが、ヒノト達は、グアヌイ王国の最深部、シーダスに向かって進軍を開始した。
だが、六万もの兵力を率いて進軍するには、あまりにグアヌイ王国内の道は粗末だった。政治が乱れ、手入れが行き届いていないのだろう。あちこちにぬかるみが出き、馬も足を取られて怯えるほどだった。
道の周囲には伸びきった雑草や雑林が広がり、もしここに敵兵が隠れて待ち伏せをしていたら、見つけることは困難だろうと思われた。
伏兵を警戒し、細心の注意を払いながら進み続けたジュセノス軍に、日を追うごとに疲れが見え始めた。グアヌイ軍が姿を見せたわけではない。その動向について、情報が得られたわけでもない。静まりきった敵軍を相手にするということが、こんなにも疲れることなのだと、ジュセノス軍の一人一人が思い知っていた。
ヒノトは迷っていた。あまりに得体の知れないグアヌイ軍を相手に、果たしてこのまま、敵地深く進み続けてよいのだろうか、と。しかし、この機会を逃せば、グアヌイ王国を滅ぼす機会は、またいつ訪れるか分からないのだ。
ユノアが身体を張って掴み取ったチャンスを、何とかものにしたいという想いが、最後にヒノトの背中を押した。
ヒノトは、グアヌイ軍が立てこもるシーダス王宮まで進軍を続けることを決意した。