第三章:首都シーダス
ユノア達一行は、無事にゲイドの門をくぐり、ゲイドから、グアヌイ王国の更に深部へと進んでいった。
そして遂に、首都シーダスへと到着した。
無事にシーダスに着いたというのに、ガイリは呆れ顔だ。
「こんなにも簡単に、侵入者である我々が、首都であるシーダスに来れていいのか?いくら今は休戦しているとはいえ、この国は戦争中なんだぞ?」
そんな呟きに、ジュゼが答える。
「それだけ、グアヌイ王国の秩序はもう、崩れているということです。国を守ろうという愛国心よりも、この国の人間達は今、金と食料が欲しいのですよ。だから、私との取引に応じる者も多い」
「もはやリュガに、王としての求心力はないに等しいというわけか…。リュガがそれに気付いて、身を引いてくれればいいんだがな」
「…自分が必要のない存在だと悟り、身を引ける人間など、果たしてこの世にいるのでしょうか?」
ガイリは答えれずに、唸った。
ユノアもまた、沈黙したまま歩いていた。
シーダスの街は、とても一国の首都とは思えぬ、みすぼらしさだった。
歴史を感じさせる、石造りの大きな建物が立ち並んでいる。以前は壮大な建造物だったのだろうが、手入れの行き届かぬ今は威厳などなく、荒廃し、蜘蛛の巣がかかり、壁はひび割れている。
特に目を引くのは、家を持たず、道端で暮らす人々の存在だ。服はやぶれ、肌が露出している。その目に輝きはなく、昼間だというのに仕事もせずに寝転がっている。
街には悪臭が漂っていた。ゴミやし尿が、そこら中に垂れ流しになっている。これでは、感染症といった病気が蔓延しているのだろう。
そんな貧しい人々が溢れる街中を、豪華な造りの馬車が駆け抜けていく。人が寝転んでいるというのに、構わずそのすぐ横を馬車は走り抜けていった。
ユノアは思わず叫んでいた。
「あ!危ない!なんて酷い運転をするの!」
幸いにもその人はひかれなかったが、まるでひいても構わないというような馬車の走り方だ。それを見て驚いているのはユノア達だけで、街の人々は何事もなかったかのように、素知らぬ様子だ。
ジュゼはユノアに耳打ちした。
「静かに…!あのような光景を見ても、動揺してはいけません。よそ者だと分かってしまう」
それでもユノアの怒りは収まらない。
「だけど…!何なんですか、あの馬車は!ここが自分だけの道のように、威張り散らして!」
「…あれが、グアヌイ王国の貴族です。シーダスでは、貧富の差が酷く、貧しい人々が食べるものもなく死んでいくそのすぐ側で、金に糸目をつけず贅沢に飾りつけられた貴族の馬車が通りすぎていく。それに抗議の声をあげる力さえ、貧しい人々には残されていないのです」
「こんな状態で、リュガ王は戦争をしていたというのですか?人々が食べるものさえなく、苦しんでいるというのに!」
「…これが、グアヌイ王国の現状です」
「許せない…。こんなこと…!国をこんな状況にしてしまったリュガ王は、最低の王です!」
ガイリが口を挟んだ。
「その通りだ、ユノア。グアヌイ王国は、もはや存続する価値のない王国だ。哀れな民の血をこれ以上流すことなくグアヌイ王国を滅ぼすことができるかどうかは、お前にかかっているんだ」
ユノアは力強く頷くと、馬車の走り去っていった方向を睨み付けた。その先には、そこだけ異世界のような煌びやかさでそびえたつ、シーダス王宮が見えていた。
今までは、本当にこの作戦は成功するのかと、気弱な気持ちもあった。だが今は、成功させなければという強い決意が、ユノアの心に芽生えていた。