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星姫の詩  作者: tomoko!
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第三章:出発前のコーヒータイム

 いよいよ、ユノア達がグアヌイ王国への潜入計画へと出発する日が来た。

 まず、ゲイドへ入り、その後、首都であるシーダスへと向かうことになる。

 ユノアは戦場でリャンに顔を見られたことがあるので、変装のために、真っ黒なかつらを被った。本当は黒く染めることが出来ればいいのだが、ユノアの見事な銀髪は、染料などでは染めれないのだ。

 髪を黒くしただけだが、ユノアは別人のような印象になった。銀髪のときとは違い、怪しい色気が漂っているようで、男達は息をのんだ。


 ユノアを始めとして、楽師役の兵士三人、ガイリ、ジュゼ。そして、連絡用として、ユノアの飼い鳥であるチュチ。計六人と一匹の隠密部隊は、王宮の者にもその存在を気付かれぬよう、ヒノトが街に出るときに使う秘密の通路を使って、王宮から出た。




 ドゼの店まで、ヒノト、レダ、キベイの三人も見送りにきた。

 店に入った途端、ドゼ特製のコーヒーの匂いが鼻をつく。

「ああ、いい匂いだ…。出掛ける前に、一杯どうだ?」

 ヒノトに言われて、ドゼがコーヒーを作り始めた。

 九人は一つのテーブルを囲んで座った。王と一緒に座るなどという予想外の展開に、楽師役の兵士達はいかにも居心地が悪そうだ。

 ドゼがコーヒーを運んできた。九人は香りを嗅ぎながら、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。

「ああ、旨いな…。ドゼのコーヒーを飲むと、心が落ち着くよ」


 ヒノトは、まだ熱いコーヒーを冷ましながら、ゆっくりと飲んでいるユノアを見た。

「驚いたな…。二年前は苦いと言って飲めなかったのに。いつのまにコーヒー好きになったんだ?」

 ユノアは驚いた。ヒノトが、ユノアとの過去の思い出話をするのは初めてのことだったからだ。他の七人も、聞かなかったふりをしたほうがいいのかどうか迷い、目をおろおろと彷徨わせている。

「あ、あの…。ドゼさんの店には、よく遊びにきていたので…。ラピと、一緒に…」

 ラピの名に、ヒノトは表情を曇らせた。他の七人は、またまた凍りついてしまった。

「そうか…。ラピはいい友人だったんだな。二年なんてほんの短い間だと思っていたが、こんなにも俺の知らないことが増えてしまうものなのか…」

 ふと、ヒノトは姿勢を正した。

「…今回はすまなかったな。いくら国のためとはいえ、十四歳のお前に、こんな重荷を負わせてしまった」

 ユノアは慌てた。

「わ、私は、自分のことを子供だと思っていません!そう思ってほしくもありません!今回の任務も、自分でできると判断したからこそ、お受けしたのです。どうか私を、信頼してください。私は、昔の泣き虫の私とは違うのです。あれからいろいろな経験をしました。あの頃より、ずっと強くなっています!」

 二人の会話に、他の七人はうろうろと二人の顔を見比べるしかない。

 ユノアの意気込みを見て、ヒノトは優しく笑った。

「…そうだな。きっとお前は、やり遂げてくれるのだろう…。だが、約束してくれ、ユノア。その身が危険になったときは、すぐに逃げてくれ。ジュセノス王国を勝利に導く方法なんて、他にいくらでもある。決してお前の身を、犠牲にしようとはしないでくれ」

 ユノアは潤んだ目でヒノトを見つめた。二年前、ヒノトと共に暮らしていた頃の自分が戻ってきそうだった。いつもヒノトに守られ、甘えていた頃の自分が…。


 ユノアは、きゅっと唇を引き締めた。

「…それは、王としてのご命令ですか?」

 ヒノトは驚いたように目を見開いた。

「ご命令ならば、従います」

 自分は兵士で、あなたは主君なのだと、ユノアははっきりヒノトに示したのだ。重大な任務に出発するこのときに、ヒノトへ甘える自分の心を許すわけにはいかなかった。

 ヒノトの顔からも、ユノアへの労わりは消えた。一国の王の顔となり、厳しい声色で言った。

「ああ、そうだ。命令だ」

「…承知いたしました。ヒノト王。ご命令どおり、身の危険を感じましたら、すぐ様撤退いたします」




 ドゼの店の中で、ユノア達一行とヒノト達は別れることになった。

 ガイリがヒノトに一礼した。

「では、行ってまいります。ヒノト王」

「ああ、頼むぞ。今ユノアに言ったように、今回の作戦は必ずしも成功せずとも良い。危険だと思えば、すぐに帰ってくるんだ」

「はい。お任せください」

 ガイリはユノアを促し、店から出て行った。ユノアはもう一度ヒノトを振り返り、頭を下げた。

 去っていく八人を、ヒノトは辛そうな表情で見送っていた。


 八人の姿が見えなくなっても、まだ動こうとしないヒノトに、レダが声をかけた。

「さあ、ヒノト様。我々はもう、どうすることもできません。連絡を待ちましょう」

「あ、ああ…」

 力なく答えたヒノトは、レダに促されながら、隠し通路へと戻っていった。だが、その足取りも、表情も、王のものとはほど遠いものだった。

 そこにいるのは、大切なものを側から手放し、不安に暮れる、一人の男だった。


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