第三章:ユノアの飛翔
ガイリ軍の勝利を祝い、その夜はヒノトの言葉通り、宴が開かれた。
今回、ガイリ達がグアヌイ軍を打ち破ったことで、完全にグアヌイ軍の動きを封じたといっても過言ではなかった。リャン将軍の権威は地に落ちたし、圧倒的な兵力をもってしても勝てないという事実に、兵士達の士気も上がらないに違いない。
痛手を受けているのは、ジュセノス軍も同じだ。だが、軍備を立て直すために充分な時間を得ることが出来た。
とりあえずではあるが、グアヌイ軍からの脅威から解放されて、皆の表情は明るかった。
酒を水のように身体の中に流しこみ、すっかり酔っ払った兵士達は、身分の上下も忘れ、まさにどんちゃん騒ぎだ。
ユノアも宴に参加してはいたが、酒を少し味見しただけで、その苦さに顔をしかめ、既に杯を置いていた。
酔っ払わなければ、宴の乱雑ぶりについていけるわけはない。ユノアはそっと、抜け出すことにした。
宿営地の外れで、ユノアは腰を下ろした。後ろからは、盛り上がっている宴の賑わいが聞こえてくる。
「ユノア!」
突然名前を呼ばれて、ユノアは飛び上がった。
振り返ると、そこにはミヨがいた。
「ミ、ミヨ…!驚かさないで」
「ふふ。宴に連れ戻されるかと思った?」
ミヨはユノアの隣に腰を下ろした。
「今回の戦いで一番活躍した人が宴に出ないなんて!」
ミヨの言葉に、ユノアは困ったように笑った。
「だって…。お酒飲んでも美味しくないし、男の人ばかりだし。楽しくないんだもん」
「そうだと思って。ほら!」
ミヨは、ユノアの大好物を目の前に差し出した。
「わあ!ドゼさんのミックスジュースだ!」
ユノアの顔が輝いた。それは、マティピの街で喫茶店を営んでいるドゼ特製のジュースだった。
コップを受け取ったユノアに、ミヨは自分のコップを掲げた。
「英雄、ユノアに!乾杯!」
ユノアは照れ笑いをしながら、ミヨの祝いの言葉に答えた。
「ありがとう、ミヨ」
二人はドゼのジュースを飲み、甘いその味に舌鼓を打った。
一息ついたところで、ミヨがユノアに向き直った。
「さあ、ユノア!話してもらうわよ。ゴザから姿を消していた間、一体どこに行ってたの?どれだけ心配したと思ってるの!帰って来たと思ったら、別人のような表情になってて、戦いに参加して、物凄い活躍をするし…。もう、分けわかんないわ!」
「ご、ごめんね、ミヨ。心配ばかりかけて…」
何を隠すつもりもなかった。ユノアはミヨに、全てを打ち明けた。
ファド村に行っていたこと。そこで再会した、ゾラのこと。ファド村で過去に犯した罪と、その罪から解放してくれたゾラの言葉。
ファド村での出来事を聞くことさえ、ミヨには初めてのことだった。だがミヨは黙って、ユノアの話に耳を傾けていた。
ようやく、ユノアの声が止まった。入れ違いに、ミヨが口を開いた。
「…ユノアがこんなに自分のこと話してくれるの、初めてだね」
ミヨは嬉しそうにユノアを見つめた。
「…私にも話してくれたってことは、もうすっかりユノアの中で、心の整理が出来たんだね」
ミヨの視線を、ユノアはしっかりと受け止めた。
「…これからどうするの?兵士として、戦い続けるつもり?」
「うん…!」
「…それはやっぱり、ヒノト様のため?活躍して、出世して、お側に行きたいから?」
ミヨの問いに、ユノアは一瞬言葉に詰まった。
「…ヒノト様のことは、王様として、尊敬してるし、お役に立ちたいと思う。でも、ヒノト様の側で暮らしていたあの頃の自分に戻りたいわけじゃないの。そう思って兵士になったけど、今は違うわ。ヒノト様の目指す王国を築くために、私は戦うの。それは、ラピの願いでもあったから。私は、ラピの分まで活躍して、ジュセノス軍を勝利に導いてみせるわ」
ユノアに迷いはないようだった。これほどまでに堂々とした口調で、しっかりと自分の意見を述べるユノアを見るのは初めてだった。
眠っていた鳥が、大きな翼を広げて一気に大空へ羽ばたいていく。そんな印象が、ミヨの脳裏に浮かんだ。