表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星姫の詩  作者: tomoko!
120/226

第三章:新たなる出発

 結局ユノアを見つけ出すことが出来ず、ガイリはゴザに戻っていた。

 だがガイリには、もはやユノアを心配している余裕などなくなっていた。グアヌイ軍が、再びゲイドを出発したと知らせが飛び込んできたのだ。


 慌しく、ガイリはヒノトの元に駆けつけた。

 テントの中に入ってきたガイリの姿を認め、ヒノトは大きく頷いた。

「おお、ガイリ!来たか!」

「ヒノト王!敵の動きは、どのようですか?」

「それは私が説明しよう」

 口を開いたのはキベイだった。

「敵の数は約五千。ゲイドを出発し、まっすぐにゴザへ向かっている。軍を率いているのは、リャン将軍だ。兵士は完全に武装し、とても和平交渉のために向かっているとは思えない」

 オタジが舌打ちした。

「一旦は退却したが、こちらの兵士の受けた被害がかなり大きいことに気付いたんだろう。姑息な奴らめ!自分達が有利だと知れば、途端に勢いづきやがって!」

「…だが、確かに敵の思惑通り、ジュセノス軍に不利な状況だ。どうしたらいい?」

 ヒノトはキベイの意見を求めようとしたが、ガイリはあっという間に怒りが沸点に達していた。

「…私が、私が行って、蹴散らしてやります!私が鍛えた千人の兵士が、無傷で待機しています。その兵士を率いて、私が戦場に出ます!」

「待て、ガイリ!」

 ヒノトが止める声も聞かず、ガイリはテントから飛び出していった。




 直属の軍の宿営地に戻ったガイリは、すぐさま部下に命令した。

「グアヌイ軍がこちらに向かってくる。奴らを追い返すぞ!出撃の準備をしろ!」

 突然の展開に驚きつつも、千人の兵士達は準備に取り掛かった。鎧は常に身に付けているので、剣を持ち、馬に乗れば、すぐに出撃準備は整った。

 ガイリ自身も馬に乗り、早速ゴザの外、平原へと張りリ出そうとした。

 だが、駆けつけてきたヒノトがガイリの前に立ち塞がった。

「待つんだ、ガイリ!」

「止めないでください、王よ!この私の命に代えても、必ずグアヌイ軍を追い返してやります」

「この出撃に、どれほどの勝算があるんだ?千人もの兵士を、無駄死にさせる気か?」

 ガイリは反論できずに押し黙った。

「ガイリ…。お前の気持ちは、痛いほど分かる。だが、落ち着いてくれ。ここでお前が出撃して命を落としでもしたら、それこそ敵の思う壺だ」

「だったら、どうしたらいいのですか。王よ!ゴザが攻め落とされてもいいと?」

「…私が話し合ってみよう。どんな条件でものむから、休戦に応じてくれるように」

「そ、そんな…。駄目です。王よ!調子に乗った奴らがどんな条件を出してくるか、分かったものではありません!行かせてください。勝つことは出来ずとも、奴らを怯ませ、ゲイドに追い返してやります!」

 ヒノトは迷っていた。ガイリなら何とか出来るのではないか。そんな期待はもちろんある。だが、出撃を許すには、いまひとつ何かが欠けている気がした。

 やはり駄目だと、ヒノトが首を振ろうとした時だった。




「ガイリ将軍!」

 まだ幼い少女の声が辺りに響いた。

 声のしたほうに目を向けたガイリは、驚きのあまり硬直してしまった。

 駆け寄ってきたのはユノアだった。重苦しい雰囲気の中に、爽やかな風が吹いてきたようだった。銀色の髪の毛が、軽やかにたなびいている。

 ユノアはガイリの側に立つと、真っ直ぐにガイリの目を見て言った。

「将軍。今から、グアヌイ軍との戦いに出撃されると聞きました。私もお供させてください!」

「ユ、ユノア。お前…」

 ガイリは戸惑った。ヒノトも困惑の表情でユノアの言動を見守っている。

「今まで一体どこに行っていたんだ?いきなり帰ってきて、軍の一員に入れろというのか?」

 ユノアはガイリを見つめたまま答えた。

「罰は必ず後で受けます。ですが今は、行かせてください。必ず、お役に立ってみせますから!」

 ユノアの瞳に、今までにない強い意志をガイリは感じていた。

 ユノアは元々、兵士として充分な素質を持っていた。軍の中でも、トップクラスの実力があるのだ。ユノアがその実力を発揮できるのなら、百人力だ。

 姿を消していた間に、一体何があったのか。これほどまでにユノアの心境を変えたものとは何なのか。それは全く分からない。だが今のユノアには、いちかばちかを賭けてみたいと期待せずにいられないような輝きがあった。

「…死ぬかもしれない、厳しい戦いになるぞ。そして、私達が負ければ、ゴザは陥落の危機に立たされることになる。それを知って、それでも覚悟するというのか?」

「はい…!」


 ガイリはヒノトを振り向いた。

「ヒノト王よ。行かせてください!」

 ヒノトは静かな眼差しでユノアを見つめた。すでに馬に跨ったユノアも、ヒノトを見つめ返した。

 ユノアは困ったような表情をしていた。どうしても今出撃し、ゴザの危機を救いたいが、どうしたらヒノトに信じてもらえるのか分からないからだ。

 ヒノトは目を瞑り、少しの間思案していたが、目を開いたとき、もう迷いはなかった。

「ガイリ。出撃を命じる。見事、グアヌイ軍を追い返してこい!」

 ガイリの顔が輝いた。

「承知いたしました!」

 ガイリは軍を振り返り、高く手を挙げた。

「出撃だ!」

 兵士達は怒号をあげ、ガイリの後に続いた。

 ガイリのすぐ横にいたユノアもまた、ゴザの外へと出撃していった。


 軍を見送ったヒノトは、側にいたキベイとオタジに命じた。

「戦闘可能な兵士を集めておいてくれ。ガイリの軍が危機に陥った場合、俺達もすぐに出撃するぞ」

「はっ!承知いたしました」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ