表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星姫の詩  作者: tomoko!
109/226

第三章:別働隊壊滅

 一万の兵を率いて、林の中に身を潜めていたガイリもまた、見守っていた平原での戦いに違和感を覚えた。

 側にいた副将に耳打ちする。

「おかしいぞ…。グアヌイ軍の兵力が少なすぎる」

「え…っ。…確かに、事前に報告されていた数よりも少ないようですね。どういうことでしょう、ガイリ将軍」

 ガイリは顔を強張らせた。心臓が急速に動く速度を増す。不吉な予感に、冷や汗が滲み出てくる。

「…辺りの偵察に行ってくる。私に二人程ついてこい」

 ガイリがそう言った、その直後だった。

 突然、ガイリ達別働隊の背後から、怒号があがった。

 ガイリの感じた不吉な予感は、現実となってしまった。それに気付くのが、一歩遅かったのだ。

(しまった…!)

 ガイリはその精神を、一気に戦闘態勢へと変えた。


 三鬼将軍。その名に相応しい形相で剣を抜いたガイリは、頭上に降り注いできた矢の雨を、間一髪切り裂いて逃れることが出来た。

 だが、別働隊の兵士の多くは、矢から逃れることが出来ず、戦うことも出来ぬ間に絶命していく。

 ガイリは必死に叫んだ。

「みんな!身体を伏せろ!」

 別働隊は、身を伏せ、矢の雨が終わるのをひたすらに待った。


 矢が尽きたのか、ようやく矢の雨は終わった。

 だが、間髪入れずに、怒号が上がる。

 顔をあげたガイリの目に映ったのは、剣を振りかざして襲い掛かってくる敵の群れだった。その数、一万はいそうだ。

(敵も別働隊を作っていたんだ。どうしてもっと早く気付かなかった?)

 ガイリは唇を噛み締めたが、後悔してももう遅い。今考えるべきことは、この最悪の事態からどう逃れるかだ。

 ガイリは部下達の様子を見た。すでに死んでいる者、負傷している者が圧倒的に多く、まともに戦える者は、半数もいないように見える。

 死を覚悟しての決戦という選択肢もあったが、これでは無駄死にするだけだとガイリは判断した。

「みんな!逃げるんだ。ゴザへ戻れ!」

 ガイリの命令に従って、兵士達は敵に背を向けて逃げ始めた。

 だが、負傷している者は思うように逃げることが出来ない。そうこうしているうちに追いついて来た敵に、次々と切り伏せられていく。

 ガイリは雄叫びを上げると、部下に向かって剣を振り上げている敵に切りかかっていく。

 あっという間に十人近くの敵兵を倒したガイリだったが、その派手な戦いぶりは、敵兵の視線を一気に集めてしまった。

「ガイリがいたぞ!殺せ、殺せ!」

 将軍であるガイリを殺せば、莫大な恩賞が手に入る。今、自分達が有利だと知っているので、今ならガイリを倒すことも可能だと悟った兵士達は、目の色を変えてガイリに迫ってきた。

 さすがに命の危険を感じたガイリは、自分自身も撤退することを決めた。


 走り出したガイリの後方から、敵兵の怒号と、踏み潰される部下達の絶叫が聞こえる。

 ガイリが噛み締めた唇から、血が流れた。その目からは、泥まみれの涙が零れ落ちる。

 だがガイリは立ち止まらなかった。ただ、一人でも多くの部下が無事にゴザに帰ることを願うしかなかった。


 何とか敵の追跡から逃れたガイリだったが、ゴザには向かわなかった。

(別働隊の壊滅を、早くヒノト王に伝えなければ!)

 ガイリは、激戦の続く、砂埃のまう平原へと、まっしぐらに走っていった。




 草むらに潜んでいたユノア達の耳にも、林の中に響き渡った異様な怒号や悲鳴が聞こえていた。

 ユノアは不安に揺れる瞳でラピを見た。

「な、何が起きたの?」

 ラピも険しい顔で、じっと耳を済ませた。

「…平原での戦の声が、こんなにはっきり聞こえる筈がない。別働隊が戦っているのか?」

 ラピは、ユノアや他の若年兵の顔を見渡した。

「俺が様子を見てくる。みんなはこのまま、ここにいてくれ」

 ユノア達が頷こうとした、その時だった。

 すぐ側の草むらがガサリと動き、グアヌイ軍の甲冑に身を包んだ十五人の敵兵が現れたのだ。


 ユノア達よりも遥かに年配の兵士達は、ユノア達の姿を認めると、にやりと笑った。

「おやぁ。こんなところに、可愛らしい兵士さん達がいるぞ」

 ラピはとっさに、敵兵から仲間を守るように立ち塞がった。

 だが、ラピが睨みつけても、敵兵は笑い顔のままだ。

「おお、おお。勇ましいぜ。俺達と戦おうっていうのか?」

 大笑いしている敵兵に注意を向けたまま、ラピはそっと、別働隊のいる筈の方向へと視線を向けた。

 ラピの視線に気付いた敵兵が、下衆な笑い声をあげた。

「お仲間が助けにきてくれると思っているのか。無駄だぜ。こそこそ隠れていやがったあいつらなら、たった今、俺達が皆殺しにしてやったところだ」

 それを聞いて、ラピの顔に恐怖が浮かんだ。その表情を見た敵兵は、ますます機嫌のいい笑みになった。

「…さあて。お前達をどうしてやろうか」

 じりじりと歩み寄ってくる敵兵に、ラピ達もじりじりと後退した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ