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星姫の詩  作者: tomoko!
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第三章:絶対絶命

 グアヌイ軍の駐屯地は、その周囲を高い塀に囲まれていた。まるで、ゲイド市民にも決して見られぬようにしているようだ。

(これでは、ゴザから見える筈がないわ…)

 塀を見上げながら、ユノアはそう思っていた。

 四人は、そっと辺りを窺いながら、素早く一目のない路地裏へと身を隠した。

「さあ、人目のないうちに、お早く…!」

 ジュゼに促され、ガイリは早速、塀に手をかけた。

 僅かな塀の凹凸に指をひっかけて、ガイリはあっという間に、二十メートルはあろうかという塀をよじ登ってしまった。

 次に続くラピ、そしてユノアも、まるで地面を這っているかのように、軽々と塀を登っていってしまった。

 三人の人間離れした運動能力に、ジュゼはあきれるばかりだった。




 塀の上にいるとはいえ、油断は出来ない。注意深く身をかがめながら、ガイリ達は塀の中を覗き込んだ。

 塀の中にいた兵士の数の多さに、ガイリ達は息を呑んだ。

 五万、は、いるだろうか。グアヌイ軍の総数は十万に満たないほどの筈なので、その大半が、ここに集められていることになる。

 今、ゴザにいる兵士の数が一万ほどなのを考えると、桁違いの多さだ。

 グアヌイ軍の兵士達は、まるで明日にでも戦争が始まるかのように、激しい訓練をしている。

 ラピが舌を打った。

「何て奴らだ…!友好条約を結んでおきながら、国境にこれ程の数の兵士をおいているなんて…!この数の兵でゴザに攻め込まれたら、ひとたまりもありませんよ」

 ユノアも不安そうにガイリを見た。

「…確かに、私達はやはり、リュガという王を甘く見過ぎていた。リュガは、我が国と戦争をする気満々なのだ。やはり、ここまで偵察に来て良かった。リュガの本心が分かった以上、ゴザの軍備を今のままにしておくわけにはいかない。すぐにマティピに伝令を送り、兵を送ってもらわなければ」

 ガイリは、ユノアとラピに目で合図した。

「さあ、すぐにゴザへ帰ろう」




 塀の下に降りるために、見張りをしているジュゼと連絡を取っていたときだった。

 ふとラピが、塀の中に目を戻すと、そこにいた男の一人が、じっとこちらを見ていることに気付いた。遠くて良く分からなかったが、男と目が合ったように思ったのだ。

 ラピは慌ててガイリに知らせた。

「しょ、将軍!まずいですよ。気付かれたかもしれません」

 ガイリがラピの指差す方へ目を向けると、男の周りに、何人かの兵士が呼び集められているところだった。

 その男の顔を見て、ガイリは呻いた。

「リャンだ!」

 ラピは眉をしかめた。

「リャ、リャンって?誰です?」

「リャンは、グアヌイ王国の将軍だ。リュガ王と同じくらい、厄介な奴だ。すぐ逃げるぞ!今、リャンと会いたくはない!」

 ガイリは人目も気にせず、壁から飛び降りた。ラピとユノアもその後に続く。下にいたジュゼは突然の三人の行動に驚いた。だが、説明を受ける間もなく、走りだした三人の後を追わざるを得なかった。

 ゲイドの街の人々の驚きの視線を浴びながら、ガイリ達は街中を疾走していく。




 ゲイドの外へと通じる門が見えてきた。

「何事だ。止まれ!」

 門を守る兵士が槍をかまえて静止したが、ガイリ達は構わず、そのまま突っ切ろうとした。

 そのとき、雷鳴のような大きな声が、辺りに響き渡った。

「そこの四人、止まれ!」

 ガイリは、十人の兵を連れて猛然とこちらに向かってくるリャンを見た。

 ガイリはユノア達を振り向いて叫んだ。

「急げ。何とかゲイドの外へ出るんだ」

 ガイリは遂に剣を抜いた。ラピとユノアもそれに続く。回りにいた市民達は、悲鳴をあげてガイリ達から遠ざかった。

 門を守っていた兵士達も、剣を振り上げてガイリ達に迫ってきた。

 ガイリの振り下ろした剣で、兵士の一人が血飛沫をあげながら倒れた。

 それからのガイリの動きは、まさに鬼人だった。ひゅんひゅんと唸りを上げながら躍動する剣の側にいた兵士が、次々と倒れていく。地獄のような光景に、兵士達の足も思わず止まってしまった。


 それでも、兵士達の命がけの応戦は、ガイリの足止めをするのに充分な効果を示した。リャンがガイリに追いついたのだ。

 空気を切り裂く音と共に、リュンの剣がガイリの頭目掛けて振り下ろされた。寸でのところで、ガイリはその剣を受け止めた。

「お前だったのか…。ガイリ!」

 怒りの形相でガイリを睨みつけてくるリャンに、ガイリはにやりと笑ってみせた。

「久しぶりだな。リャン将軍」

 凄まじい決闘が始まった。ガイリとリャンは、お互い一歩も引くことなく、身体すれすれのところを行き交う剣を避けながら、相手の急所を狙って次々の剣を繰り出していく。


 リャンがガイリと一対一の対決をしているので、他の兵士達はガイリの脅威から解放され、その代わりにユノア達に向かってきた。

 ユノアとラピは、ジュゼを庇いながら兵士達に剣を向けた。

 兵士の一人が、憎憎しげに言った。

「ジュゼ。よくも裏切ってくれたな。俺達の信頼を逆手にとって、敵をこのゲイドに入れるなんて、とんでもない悪党だ、お前は…!もう二度と、ゴザへ帰れるなんて思うなよ…」

 じりじりと兵士がにじり寄ってくる。


 遂に、戦いが始まった。ユノアとラピにとっては、初めての実戦でもあった。だがそれは、あまりにも過酷な初陣だった。

 今や、騒ぎを聞きつけて集まってきた兵士の数は、百人近くになろうとしていた。その腕前は、ユノア達には遠く及ばないが、ジュゼを庇いながら戦わなければならないハンデもあって、ユノア達は徐々に追い詰められていった。


「ユノア!何してる…。殺せ!」

 ラピが大声で怒鳴った。

 実はユノアは、さっきから唯の一人も兵士を殺してはいなかった。巧みに攻撃を交わしながら、的確に急所に当身をして気絶させているだけなのだ。

 だがそれは、とても労力のいる作業だった。それよりも剣で切り裂く方が、遥かに簡単なのだ。

 だが、ユノアにはそれが出来なかった。

 実戦の場に立って始めて気付いた自分の心に、ユノアは動揺していた。

 今、ユノアの脳裏を過ぎっているのは、ファド村で自分に切り殺されて死んでいった村人達の姿だった。

 何故あんな惨いことをしてしまったのか。ユノアはあの時の自分のした仕打ちを、何度悔やんだかしれない。

 今目の前にいるのは、非力な村人ではない。武器を持ち、自分に対して殺意を持っている敵だ。だから倒さなければならない。頭では分かっているのだが…。

 どうしてもユノアには殺せなかった。どうしても、兵士と村人が重なってしまう。自分が死んでしまった方がいいと思えるほどの、辛く苦しい懺悔の日々。あんな思いは、もうしたくなかった。


 ラピの忠告も聞かず、ユノアはひたすら兵士達を気絶させていった。その動きは、どうしても怠慢になってしまう。

 兵士を気絶させるのに集中していたユノアは、他の兵士の攻撃に備えるのが遅れた。兵士の振り下ろした剣が、ユノアの左上腕を切り裂いた。

「ユノア!」

 ラピが駆けつけてきた。ラピは、ユノアに傷を与えた兵士の背中を深く切り裂いた。絶叫をあげながら、兵士は倒れていく。

「ユノア、しっかりしろ!」

 よろめくユノアの身体を、ラピは抱きかかえた。だがユノアはもう、戦えるような状態ではなかった。

 ラピ自身、もう二十人以上の敵を倒していて、体力は限界に近付いていた。その上、負傷したユノアと、戦闘能力は皆無と言っていいジュジを庇いながら戦い続けるのは不可能だった。

 その間にも、敵の兵士はどんどんと数を増して行く。

 絶体絶命の状況だった。


突破口を開いたのはガイリだった。

 ガイリとリャンの対決に、遂に決着がついたのだ。リャンは腹部に傷を受け、大量の出血をして倒れこんだ。

「リャン将軍!」

 兵士達は慌ててリャンに駆け寄っていく。

 ガイリはラピ達に叫んだ。

「脱出するぞ。来い!」

 最後の力を振り絞って、ガイリが門の周りにいる兵士を切り伏せていく。ガイリの後に出来た道を辿って、ラピ達も必死に走った。


 門の側にいた馬を奪い、ガイリ達は猛然と門に向かって馬を走らせた。

 何とかガイリ達の脱出を阻止しようと、鈍い音を立てながら、巨大な門が閉じられようとしていた。

 だが門が完全に閉じる前に、ガイリ達の乗った馬は、ゲイドの外へと飛び出していた。



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