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第二日 果実系はリンゴに限る。

 目を覚ます。体を起こし近くに置いていた目覚まし時計を確認すると5:59 AMと針が示していた。そして直後に針は6:00を示し電子音のアラームが鳴り響いた。


「また……目覚ましより先に起きちまった……」


 酷く疲れていたので朝寝坊をしない為に態々掛けた目覚ましよりも早く起きてしまった。習慣という物は疲れではそう簡単に揺るがないようだ。


「……なんかこの目覚ましを止めるのが納得行かねえな……。かといってこのまま小うるさい音を聞いてるのも嫌だしな……」


 純也は少し損をしたような気分になりながらもアラームを止める。一瞬二度寝も視野に入れたが直ぐにそんな事など吹き飛んでしまった。

 ベットの隣に置いてあるサイドテーブルに置かれている名刺が眠気を吹き飛ばして意識を現実に押しとどめた。


『木島建設会社社長 木島 庄右』


「………夢であって欲しかったな」


 異様な雰囲気を発し続けている一枚の名刺。それを見た瞬間に機能の記憶を思い出す。自分はとある少女を助けた、その少女は世界的に有名な建設会社、木島建設のご令嬢だった。そして自分はその社長に気に入られ、令嬢である木島 唯の婚約者にされてしまった。

 全く持って創作物で起きるべき事柄だ、赤信号を渡ろうとしたのを止めただけでこのような事になると誰が想像する。否想像出来る訳がない自分だって想像出来ない。


「飯、作ろう………」


 気落ちする自分を励ます為にも、空腹を紛らわす為にも朝食を作る事にする純也。ここまで気分が落ち込んでいるのもきっと空腹のそうだと思い昨日買ってきた野菜を使い野菜炒めを作り始まる。


 適当にカットした野菜に塩胡椒とごま油を垂らして強火で炒める。何度も何度も繰り返してきた作業だが今日は腕の動きが妙に鈍い。野菜を炒める度に昨日の少女の、木島 唯の顔がチラついてしょうがなかった。


『お待たせしました、申し訳ありませんでした助けていただきまた満足にお礼も出来ていなかったのにここまでお待たせしてしまって』

『純也様、私は木島 庄右の一人娘。木島 唯と申します』

『私の伴侶に決めました、あなたを!!』


「………頂きます」


 ちょっぴり焦げてしまった野菜炒めを更に盛り付け冷凍してあった白米を温め茶碗に盛り付け食べ始める。妙に塩辛かったが気にならなかった。


「……伴侶……家族になるって事だよな………?」


 ガツガツと白米を口一杯に頬張りながら昨日言われた言葉がリピート再生されるように脳内に響き渡っている。結局その場で返答する事は出来ず考えさせてくださいと言って帰ってきてしまった。


「そんな簡単に決めて良いもんじゃないよな……家族になる事なのに」


 姫夜 純也は一人暮らしである。小さなアパートに一人で暮らしている。無論彼にも両親はいたが家には帰らず仕事一筋だった父と母との思い出など殆ど無かった。そして自分が15の時に二人は仕事先で病死したという。死んだという知らせが来た。

 悲しさなどは無く寧ろ、ざまあみろという思いの方が強かった。年に1回か2回しか帰ってこず帰って来たとしても直ぐに家を出ていく両親の事などなんとも思っていなかった。そして自分に残ったのは両親に掛かっていた多額の保険金。

 金欲しさに自分を引き取ろうという親戚もいたが信用出来る祖父の伝手で今はこのアパートで独り暮らしをしている。そんな自分で家族という物がどれほど大事な事なのかは解る。


「……ご馳走様」


 父や母からの愛情など無に等しかったが祖父や祖母から受けた愛情は理解しているし感謝もしている。だから家族という物の重要性もわかる。だがあんな簡単に家族になろうという言葉が出て来たのが理解出来なかった。


「兎に角、あの子とは話をつける必要がある」


 帰して貰う際、明日また会って話がしたいと庄右は言っていた。自分はそれを了承していた、早く帰りたいからと受けた事だが今思えば上々な事をした。

 昨日の自分に感謝しつつ寝間着を脱ぎ捨てて就活用に祖父がプレゼントしてくれた藍色のスーツへと袖を通した。


「気をしっかり持て……俺は、姫夜 純也だ」


 純粋に自分の気持ちを持ち続けてほしいと付けられた自分の名前。父と母からの唯一の贈り物。その意味を体現すべき気持ちを持ちネクタイを締める。鏡の前でちょっと気取ったポーズをしてみる、ちょっとイケているような気がした。


「……やっぱりスーツって良いよな」


 大人という雰囲気が漂うからという意味でスーツを着るというのは好きだった。そんな気持ちを締めつつ名刺を懐に忍ばせ財布と携帯を持って玄関を開けると………。


「「お待ちしてました純也様!!」」

「待っとったで。姫ちゃぁああん!!!」

「き、木島社長……」


 なんと待っていたのは昨日会った唯の父親の庄右と部下である黒服二人が出待ちしていた。瞬間覚悟が緩みそうになるが気を保ち深呼吸をする。


「何時からここで……?」

「ほんの30秒ぐらい前や、後ちょっとでインターホン押そうと思ってたんやけど、流石俺の勘やな」

「「全くです親父!!」」


 庄右のぶっ飛んだ行動は昨日である程度分かっていたがまさか自分自ら迎えに来るとは思いもしなかった。


「ほな行こうか姫ちゃん」

「は、はい……!」

「せや飯食うたか?これからなんか奢ったろか?」

「いえ既に済ませてますので」

「ほな行こうか…唯が楽しみに待っとるで~!!!」


 アパートを後にすると直ぐにリムジンに乗せられ昨日庄右と会談した屋敷へと車は走る。仄かに高鳴る緊張を抑えつつ言いたいことを整理しつつ


「姫ちゃんは何がええんや?コーラか、サイダーか?ああっオレンジジュースもあるで!?」

「……えっとじゃあリンゴジュースあります……?」

「おうあるで!!」


酒片手に絡んでくる庄右の相手をするのであった。

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