カフェインのお話
2026年5月15日、活動報告に載せた小噺です。加筆修正はありません。
カラン、と茶器の中でぶつかりあった氷が音を立てた。
「やっぱり暑いときはアイスですねぇ」
「ふむ。これもまた美味だな」
気温が上がりすっかり熱くなった昨今。ルキウスは濃いめに入れたコーヒーに氷をたっぷり入れるという、なんとも贅沢な飲み方を生み出した。
熱いコーヒーとはまた違ったコクの美味さが冷たさとともに喉を通り過ぎてゆく感覚を、王太子もじっくりと味わう。
「ルキウス、訊きたいことがある。カフェインの取りすぎは良くないのだったな?」
「そうですね。でも一日に何十杯も飲む生活を一ヶ月くらい続けたりしないなら多分大丈夫ですよ?」
「私は今日これでコーヒーを六杯目だ。最近眠りが浅く、昼の眠気がひどくてな」
「それ………カフェインが効きすぎて夜眠れなくなって日中眠気がひどくなって、たくさん飲んじゃう悪循環が発生してるのでは? とりあえず午後三時以降には飲まないほうがいいかと思います」
「わかった」
「あとコーヒーはトイレに行きやすくなる作用もあるのでそればかり飲むのはそういう意味でも駄目だって話を今思い出しました」
「…どうりで最近……正直それはもっと早く思い出してほしかったぞ」
「無茶言わないでください」
「そういえば殿下。外聞よろしく無い噂が流れているのはご存知ですか」
「“ルキウス・マーヴェル子爵は王太子のお手つきになった”、というアレか?」
「ご存知でしたか。殿下が俺を“私室に呼んで告白し合った”という、あながち間違いとは言い切れない事実が漏れて流れ始めたみたいです。……俺には今更と言える噂ですが、殿下に不名誉が」
「そのままにしておけ」
「殿下?」
「国で二番目の男である私の“お手つき”になった者に、下賎な誘いをかけられる者はそうはいまい」
「………」
「私の地位も名誉も、そんな噂一つでどうこうなるような貧弱なものではない。遠慮なく盾に使え」
「………感謝、いたします」
顔を伏せたルキウスから流れ落ちた水滴を王太子は見ないふりをした。
「……紅茶も、同じようにたっぷりの氷で冷やしても美味しくいただけますよ。濃いめに入れるのがコツです」
「そうか。明日は紅茶にしてみよう」
「紅茶も結構カフェインが入ってるはずなので、午後からはあまり飲まないほうがよろしいかと」
「では最近君が新たに開発したリョークチャを」
「緑茶もカフェイン結構入ってたと思います」
「………」
「カミツレなどの香草茶が入っていないはずです。ご用意しますね」
「……それは飲み過ぎは」
「香草は大丈夫です、……多分」
「多分か……」
「俺も遠い昔の知識なので……」
この一年後ルキウスは“麦茶”を開発した。これならほんとにいくら飲んでも大丈夫です! とルキウスに心からの保証をされた王太子は、麦茶が一番のお気に入りになったという。
✱終✱




