第30話 戦力増強
「ユズっちー、席変わってー。あーし、助手席がいい」
「いーや。大体アンタ、ナビ出来ないでしょ」
「ぶーぶー……カイちんー、籍に入ってよー」
「こーら、カノン。オジサンは今運転中だから話しかけちゃダメよ」
「根津先輩――免許がないのに、昼間から運転しても大丈夫なんでしょうか?」
「この時間帯なら、巡回ルートと被らないから大丈夫ですよ」
俺達は今、会社の車で現場に向かってる。
ワンボックスカーを運転する俺、助手席に華宮社長、セカンドシートに潮さんと鬼灯組長の4人。
鬼灯組長の帯同は、俺が社長に直談判したことで実現。
社長は、親友を連れて行くことに、なかなか首を縦に振らなかったけど、最後は渋々折れてくれた。
理由は、現在攻略中のダンジョンは敵のレベルとマップの広さが常軌を逸してるため万が一に備えての戦力増強――という事にしたけど、俺の懸念点はその先にある。
今回のダンジョンは、どうしても10年前の、仮想空間捜査班が解散する切っ掛けとなったダンジョンを想起させる難易度に感じたから。
取り越し苦労ならそれでいい。
でも万が一の事を考えたら、頼りになる仲間は居た方がいいし、強い武器があるに越したことは無い。
――などと今の案件を気にかけてる内に、現場に到着した。
クライアント兼工場――ここ最近、かかりっきりの案件で未だに攻略の見通しが立たない。
俺達の会社も、毎週水曜日の定休日以外は、この案件に注力してる。
福利厚生の休暇制度は、この案件が終わり次第まとめて取らせる、と華宮社長から話があったので、俺と潮さんはそれを受け入れた。
元公安である俺は元々、連日の探索には慣れてるし、潮さんも似たようなもの。
ただ他所の会社はそうもいかないようで――。
いつもの会議室――という名の待機室に入り、部屋の中をざっと見回す。
新しい顔、見慣れた顔、見なくなった顔……この案件はとにかく人の入れ替わりが激しい。
そんな中、いつものパーティメンバーの姿を見て、安堵する。
「どうも鏡さん」
「こんにちは、根津――ッ!?」
顔を合わせた時に一言二言、社交辞令を交わす間柄になったはず鏡さんの顔が異様なまでに引きつる。
そういや、今日は鬼灯組長を連れてるんだった。
「貴様ァァアアアアア! 何で我が愛しき妹カノンがここにいるんだああああああああ!」
「弊社の戦力増きょ――」
「婿の願いを聞くのは、妻の役目だからねー」
「ウガアアアアアアアアアアアアアア! お兄ちゃんは認めないもんね! そんな奴が義弟なんて! オジサンなのに義弟とかマジで意味わかんないし!」
「おにいは今、鏡家でしょ。鬼灯家の事情に口挟まないでくれる? ねー、カイちん」
それなら根津家を巻き込まないでほしいなぁ。
「ンギィィィイイイイ! 大体、何よ『カイちん』って! ボクには、名前で呼んでくれないのにィィイイイ!」
「カイちんは、カイちんだけど。ねー?」
鬼灯組長は椅子と一緒に、俺に左腕にくっ付いてきた。
悲しいかな俺も男だ。
いくらヤクザ者でも、こんなに可愛らしい子にゼロ距離まで詰められたら悪い気はしない。
――ただ、凄まじく強烈な視線を感じるんだが、気のせいだよな?
「こーら、カノン。今、業務なんだから、うちの従業員にくっ付かないでくれる?」
「そ、そうです! 根津先輩は、片手が塞がったら、その――戦力が大幅ダウンするんですよ! 業務に支障がでちゃうんです!」
「いいじゃん別に―。まだダンジョンに潜ってないんだしー」
「つうかさ、前々から気になってたんだけど、何でオジサンのこと、下の名前で呼んでるのよ」
「どうせ同じ苗字になるんだしー、早い内から名前で呼び合った方がいいじゃん。籍入れた後もスムーズっしょ」
「ウワァァァアアアアアアアン――お兄ちゃんは! お兄ちゃんは許めないもんね! そんな奴が由緒ある鬼灯を名乗るなんて――」
「これは鬼灯家の決定事項なの。鏡家に、とやかく言われる筋合いはないもん。ねー、カイちん」
根津家の事も心配してほしいな。
俺一人しかいないけど。
――ん? 何か、先ほどから感じる、異様なまでに熱くておぞましい視線がより一層強まった。
何なんだよ、さっきから一体……。
「カイちん、どうしたの? さっきから、よそ見して。あーし、というものがありながら――ん? あそこいるの、ミオぴじゃん。おーい、ミオぴー」
「ミオぴ――元良さん?」
以前会った時とは違い、すっげえ顔してる。
表情といい、オーラといい、とても日本在住の18歳の女の子とは思えない、凄まじい圧を感じる。
これがSランク探索者の貫禄という奴か。
「オジサン……元良ミオが鬼のような顔して、こっちを睨みつけてるんだけど、もしかして何かやらかしたの?」
「何もしてませんよ。そもそもリアルで顔を合わせるの今日で2回目ですし――」
「根津先輩! 他所の会社の子に手を出すのは、その……色々と問題があるのでダメですよ! もみ消しとか泣き寝入りが通じないんですから!」
「俺はケダモノか何かですか!? それに直接会うのは今日で2回目って言ってますよね?」
そもそも彼女は、相当な実力者だ。
お互いに薬無しでも、腕づくでどうこう出来る相手じゃないのは、アーカイブを見ても明らかだ。
「オジサンがそういうなら、別にいいけど」
信じてくれるなら、その冷ややかな目で見るの止めてほしいな。
潮さんもだけど。
「ご覧の通り、今日は弊社所属のSランク、ウィザードの元良ミオが同行することになりました――えっ!? あの!? 元良くん!? ちょっと――」
元良さんは鏡さんを素通りして、鬼灯組長の側にきた。
「ミオぴと一緒するの初めてだねー」
「――コホン……うん、そうだね。カノンちゃん」
元良さんは妙な間を置いてから、年相応の笑顔を振りまいた。
この子は、キャラを作ってるタイプなのかな?
配信を主軸にしてる探索者は、配信中と配信外でキャラを変えるのは珍しくない。
だからといって、先ほどまでの鬼のような形相が、ただのオフの顔とは思えないけど。
「元良ミオ、18歳です。今日は、新進気鋭のサムライ、根津カイトさんと同じパーティになれて光栄です。よろしくお願いしますね」
元良さんは、魔法少女の格好で恥ずかしげもなく、アイドルのような芝居がかった仕草をする。
「根津カイトと申します。こちらこそSランクのウィザードと、ご一緒できて光栄です。今日は、よろしくお願いします」
先ほどの凄まじい圧が嘘のように、挨拶は何事もなく終わった。




