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63話 補助艦艇の拡充

あきつ型揚陸艦


第1次海軍整備計画において、艦隊が敵艦を撃沈し、制海権を握るだけでは、戦争は完結しないという事実を、明賢自身は最初の段階から明確に理解していた。


戦争とは、単に敵を排除する行為ではない。

奪い、そしてその地を保持することで、初めて意味を持つ。


その思想を、具体的な艦という形で具現化した存在が、あきつ型揚陸艦である。


この艦は、砲火の中心に立つことを目的としていない。

だが、戦争を「終わらせる」ためには、決して欠かすことのできない役割を担っていた。


全長150メートル、全幅20メートル。

排水量9,000トンの船体は、数値だけを見れば巡洋艦に匹敵する規模を持つ。


しかし、その大きさが意味するものは、火力や速度ではない。

内部容積、安定性、そして輸送能力であった。


同じ大きさでありながら、巡洋艦とは明確に異なる目的を与えられた艦。

それが、あきつ型揚陸艦である。


機関と性能


動力には燃焼缶4基とタービン2基を採用。

出力は10,000kwと、戦闘艦と比較すれば意図的に抑えられた数値となっている。


最大速力は時速38km/h。

高速艦隊行動に参加するには明らかに不足しており、この艦が主力戦闘群と並走することを想定していないことは明白である。


だが、あきつ型に求められた性能は、速度ではなかった。


重要なのは、部隊を確実に運び、そして確実に岸へ送り届けること。

それ以外の要素は、すべて優先度を下げられていた。


荒天時においても安定した航行を可能とする船体設計。

浅海域への接近を前提とした喫水の調整。


これらは、敵艦と撃ち合うための「純然たる戦闘艦」とは、まったく異なる設計思想を示している。


あきつ型は、戦場へ向かう艦ではない。

戦場そのものを成立させるための艦であった。


武装構成


あきつ型の武装は、明確に最低限に留められている。


搭載された兵装は、以下の通りである。

・120mm単装砲 2基

・20mm機関砲 2基


これらの装備は、艦隊決戦に参加するための火力ではない。

敵主力艦と撃ち合うことは、そもそも想定されていない。


目的は、上陸作戦時における自衛。

そして、海岸に対する限定的かつ補助的な火力支援である。


あきつ型は、自らが戦場の主役になる艦ではない。敵を圧倒する象徴でもない。


だが、主役となる部隊を、確実に岸へ送り出すための艦である。


撃ち、奪い、保持する。


その最後の段階を成立させるために、あきつ型揚陸艦は、第1次海軍整備計画の中に静かに、しかし確実に組み込まれていた。


 揚陸機能と運用


あきつ型の最大の特徴は、他の艦種には見られない独自の揚陸機能にある。


それは、艦内に上陸用舟艇を搭載している、という一点に集約される。


単に兵員や物資を運ぶのではなく、「どのように上陸させるか」までをあらかじめ艦の機能として組み込んだ点に、あきつ型の本質があった。


この機構により、艦が直接海岸に接岸する必要はなくなった。舟艇を用いることで、沖合からでも海兵隊を分散して上陸させることが可能となる。


これは、大型艦が座礁や砲撃の危険を冒すことなく、安全な距離を保ったまま作戦を遂行できることを意味していた。


上陸作戦時、あきつ型は前線に突入することはない。

艦は沖合に留まり、安定した位置を保ったまま、次々と上陸用舟艇を発進させていく。


舟艇は波間を縫い、分散しながら海岸へ向かう。

その間、あきつ型および随伴艦からの火力支援を受けつつ、海兵隊は上陸を敢行する。


海岸へ展開した部隊は、即座に行動を開始し、橋頭堡の確保を目指す。

上陸は終点ではなく、戦闘の始点として位置づけられていた。


この一連の運用思想は、それまで一般的であった「船で兵を運ぶ」という発想を根本から改めるものである。


輸送の延長として上陸を考えるのではなく、上陸そのものを一つの戦闘工程として明確に切り出し、艦の設計段階から組み込んだ。


極めて先進的で、かつ体系化された考え方であった。


海軍と海兵隊


あきつ型揚陸艦は、主に海兵隊によって使用される艦である。

しかし、その運用、整備、そして指揮権は、一貫して海軍に属していた。


これは偶然ではない。

また、権限争いの結果でもない。


海兵隊を独立した戦闘組織として運用しつつも、補給、輸送、海上支援といった根幹部分を完全に海軍と一体化させるための措置であった。


艦の管理を海軍に置くことで、海上作戦との連携は途切れることなく維持される。

同時に、海兵隊は上陸後の戦闘に専念することができた。


海軍は海を制する存在であり、海兵隊は陸を奪う存在である。


そして、その両者の境界線、すなわち海から陸へと戦場が移行する地点に立つ存在こそが、この揚陸艦であった。


あきつ型揚陸艦の就役によって、日本海軍は、それまで持ち得なかった能力を初めて手にすることになる。


それは、「敵地へ能動的に上陸戦力を投射する能力」である。


単に兵を運ぶだけの輸送能力ではない。

戦闘、上陸、そして占領という一連の流れを、途切れることなく成立させる力であった。


第1次海軍整備計画は、あきつ型揚陸艦の存在によって、単なる艦隊整備の段階を超える。


上陸作戦は受動的な選択肢ではなくなり、一歩前へ踏み出した現実的な作戦手段となった。


こうして日本海軍は、艦隊の集合体から、国家戦略を担う存在へと、確実に進化していったのである。


 しれとこ型補給艦


第1次海軍整備計画において、数多くの艦艇が構想され、さまざまな役割が与えられる中で、最も目立たず、しかし最も欠かすことのできない艦

それが、しれとこ型補給艦であった。


砲戦で名を残すこともなく、艦隊の先頭に立つこともない。

だが、この艦が存在しなければ、いかなる艦隊も成立しない。


その現実を、日本海軍は第1次海軍整備計画の時点ですでに理解していた。


艦隊は、弾薬を撃ち尽くせば戦うことができず、燃料を失えば航行そのものが不可能となり、食糧を欠けば士気も統制も崩壊する。


これは理論でも理想でもなく、極めて単純で、否定しようのない現実である。


日本海軍は、この現実から目を逸らすことなく、最初から正面から受け止めていた。


戦える艦隊とは、撃てる艦隊であり、動ける艦隊であり、そして生き続けられる艦隊である。

その根幹を支える存在として、しれとこ型補給艦は計画された。


船体と性能


全長100メートル、全幅10メートル。

排水量1,800トンの船体は、どの艦艇と比べても明らかに小型であり、戦闘艦のような存在感はない。


その姿は控えめで、決して華やかなものではない。艦影を見て士気が高揚することもなく、敵に恐怖を与えることもない。


だが、その小さな船体の内部には、艦隊を動かし続けるために必要なものが効率的に収められていた。


動力は燃焼缶2基、タービン1基。出力は7,000kwと控えめで、最大速力は時速40キロメートルに留まる。


この速度は、護衛艦や駆逐艦には及ばない。

しかし、輸送船団全体の行動速度として見れば十分であり、無理のない巡航を前提とした設定であった。


沿岸航行から戦域後方まで、危険度の異なる海域を継続的に行き来するため、安定性と信頼性を重視した設計が採られている。


速さよりも、確実に到達し、確実に補給すること。

それこそが、しれとこ型に求められた性能であった。


武装構成


しれとこ型の武装は、最初から最低限に抑えられている。


・120mm単装砲 1基

・20mm機関砲 1基


これらの装備は、敵艦と積極的に戦うためのものではない。

ましてや、艦隊決戦に参加する火力ではない。


目的はあくまで自衛するためである。


しれとこ型補給艦は、自ら戦う艦ではない。


だが、戦闘の只中へ向かうことを、最初から拒む艦でもなかった。


必要とあらば、砲火の届く海域へも進み、艦隊を支える。


その覚悟こそが、この補給艦に与えられた唯一にして最大の武装であった。


 兵站補給の中核


しれとこ型の本質は、その外見や武装ではなく、あくまで「機能」そのものにあった。


本艦は、燃料、弾薬、食糧、医療物資、予備部品など、海軍艦艇が作戦行動を継続するために必要とするあらゆる物資を搭載し、

艦隊の後方を支えるために運用された。


これらは単なる積み荷ではない。

一つでも欠ければ、艦隊の一部、あるいは全体が行動不能に陥る要素である。


しれとこ型は、それらをまとめて運び、必要な場所へ、必要な量を、確実に届けるための艦であった。


港湾施設が整っていない地域においても、仮設埠頭や小型舟艇を活用することで補給を実施できるよう設計されており、日本海軍は特定の拠点に縛られない柔軟な行動を可能とした。


港がないから進めない、設備がないから戦えない、そうした制約を、しれとこ型は一つずつ取り払っていった。


補給は一度きりでは終わらない。

戦線が続く限り、物資は消費され続ける。


しれとこ型は何度も海を往復し、前線と後方を結び続ける。

目立たず、記録にも残りにくい航海を、黙々と繰り返す。


この絶え間ない循環こそが、艦隊を生かし続ける血流であり、戦争そのものを動かす基盤であった。


指揮と運用


しれとこ型もまた、他の初期艦艇と同様に、基本は機械式・物理制御によって運用される。


高度な射撃統制や、複雑な戦闘機能を持たない代わりに、整備性と信頼性が最優先事項として据えられていた。


多少の損傷を受けても航行可能であること。

前線や寄港地において大規模な設備を必要とせず修理できること。

そして、長期間の任務に耐えられるよう乗員の負担を可能な限り減らすこと。


それら一つ一つの要件は、すべて「補給艦は必ず帰ってこなければならない」という思想に基づいている。


帰ってこなければ、次の補給は存在しない。

次がなければ、艦隊は止まる。


しれとこ型の設計思想は、その単純で、しかし絶対的な前提から一切ぶれることはなかった。


しれとこ型補給艦の就役により、日本海軍は初めて、継続的な作戦行動を前提とした艦隊となった。


巡洋艦が戦線を押し上げ、駆逐艦がその周囲を守り、揚陸艦が陸を奪う。


そして、そのすべての背後に位置し、沈黙のまま支え続けるのが、この補給艦である。


第1次海軍整備計画は、この艦の存在によって、初めて全体として完成した。


撃つためだけの艦隊ではない。一度の勝利で終わる艦隊でもない。


戦争を遂行し続けるための艦隊。


その最後の一ピースが、

しれとこ型補給艦であった。

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