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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第六章 覇権国のさらなる発展

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421話 EVA開始

巨大な宇宙ステーションが正式運用を開始してから、およそ1か月。


35名体制による運用は順調に進み、科学実験、天体観測、地球観測、船外活動のすべてが順調に進行していた。


巨大構造物を宇宙空間で長期間運用するのは、人類史上初めての挑戦である。


どれだけ慎重に設計し、何重にも安全対策を施していたとしても、宇宙には地上とは比較にならない危険が無数に存在していた。


太陽から降り注ぐ粒子。


昼夜で数百度にも及ぶ温度差。


そして、目にも見えない速度で飛び交う無数の宇宙塵や微小隕石。


「設計図の上では完璧でも、実際の宇宙では必ず想定外が起こる。」


明賢が開発初期から繰り返し語っていた言葉は、現実となろうとしていた。


その兆候は、誰も気にも留めないほど小さな違和感から始まった。


その日、夜間勤務を担当していたC班は、いつものように天文観測と衛星通信の監視を行っていた。


メインコントロールルームでは、大型モニターにステーション全体の状態がリアルタイムで映し出されている。


電力供給率。


蓄電池残量。


姿勢角。


太陽電池パネルの発電効率。


数百項目にも及ぶデータが秒単位で更新されていた。


その中で、一人の管制担当が小さく首をかしげる。


「……ん?」


発電量の表示が、ほんのわずかに低い。


通常なら約100%近い効率を維持している主電源系統が、98%前後まで落ち込んでいた。


その差は、わずか2%。


生活や実験に支障が出る数字ではない。


だが、宇宙軍では「2%」という数字を軽視しなかった。


担当者は直ちに過去数日のログを呼び出す。


昨日より少し低い。


一昨日よりさらに少し低い。


一週間前と比べると、緩やかではあるが確実に発電量が減少していた。


「センサー異常か……?」


まず疑われたのは計測装置の故障だった。


しかし予備センサーの数値も同じ。


第三系統の監視装置も一致している。


どうやら本当に発電能力そのものが低下しているらしい。


外部カメラによる確認


「念のため、パネル外観を確認しよう。」


C班はステーション外壁に設置された高倍率観測カメラを起動した。


カメラはゆっくりと回転し、巨大な太陽電池アレイを映し出す。


青黒く輝く数百枚もの発電パネル。


その一枚一枚を拡大していく。


最初は異常は見当たらなかった。


しかし倍率をさらに上げると


「……止めろ。」


オペレーターが画面を停止させる。


一枚のパネル中央付近。


そこに細く銀色に光る一本の線が走っていた。


さらに解析コンピューターが自動で傷を検出する。


解析結果


「表面損傷確認」


「セル破断の可能性 98.7%」


その瞬間、管制室の空気が一変した。


微小隕石。


直径数ミリにも満たない極小の宇宙物体が、高速で衝突した痕跡だった。


宇宙では時速数万kmもの速度で飛来するため、小石ほどの大きさでもライフル弾以上の破壊力を持つ。


幸い貫通には至っていない。


しかし太陽電池セルの一部が破損し、そこから発電効率が徐々に落ち始めていた。


緊急会議


発見からわずか十五分後。


A班・B班・C班、それぞれの責任者が中央会議モジュールへ集められた。


大型モニターには損傷箇所の映像が映し出される。


電力主任が説明した。


「現在の発電能力は約98%。生活維持には問題ありません。」


「しかし、この傷が熱膨張を繰り返せば亀裂はさらに広がります。」


「最悪の場合、これだけでは済まない。」


科学班も頷いた。


「隣接セルへ影響すれば、出力低下は連鎖する可能性があります。」


室内は静まり返った。


宇宙では、小さな故障を放置することが最も危険なのである。


補給管理担当が在庫を確認する。


「交換用パネルは補給便で二枚搬入済み。」


「専用固定ボルトもあります。」


「交換作業は可能です。」


全員の視線が船長へ向く。


船長は少し考えたあと、短く答えた。


「これ以上悪化させる理由はない。」


その決定は即座に地上の宇宙軍管制センターへ送信された。


地上との協議


羽合島宇宙軍管制センター。


巨大スクリーンには損傷箇所が映し出されている。


材料工学教授。


宇宙軍技術本部。


宇宙軍電子班。


全員が映像を解析した。


最終結論は一致していた。


「船外活動(EVA)による交換作業を実施。」


「補修ではなく交換。」


「作業はできるだけ早い方がよい。」


地上局から正式命令が送られる。


「きぼうステーション。修理計画を承認する。EVAによるパネル交換を実施せよ。」


EVA準備


今回は通常点検とは違う。


発電設備そのものを交換する作業であり、失敗は許されない。


担当に選ばれたのは、最も船外活動経験が豊富なB班のベテラン三名だった。


宇宙服整備室では入念な点検が始まる。


一つでも異常があれば作業は延期される。


整備主任が最後に宇宙服を叩いた。


「生命維持装置、正常。」


「通信正常。」


「推進装置正常。」


「工具固定確認。」


三人は気圧調整室へ入る。


内側のハッチが閉まり、ゆっくりと減圧が始まる。


圧力計の針が少しずつ下がっていく。


数分後。


「減圧完了。」


電子音とともに外部ハッチのロックが解除された。


船長が通信で告げる。


「船外活動開始を許可する。」


ゆっくりとハッチが開く。


その向こうには音の存在しない漆黒の宇宙。


そして眼下には、太陽の光を受けて青く輝く地球が広がっていた。


三人は安全ハーネスを命綱へ確実に固定し、一歩ずつ船体外部へと移動していく。


無重力のため「歩く」というより、手すりを伝いながら静かに身体を滑らせるような動きだった。


目的地は巨大な太陽電池アレイ。


そこまではロボットアームで運ばれる。


操作を担当するのはステーション内部に残るC班。


制御卓では三人のオペレーターが慎重にジョイスティックを握っていた。


「ロボットアーム起動。」


巨大な多関節アームが静かに動き始める。


「把持確認。」


「作業員固定。」


「移動開始。」


通信回線から落ち着いた声が聞こえる。


「アーム、毎秒15センチで前進。」


「了解。」


「ゆっくり頼む。」


数十メートル先の太陽電池パネルへ向けて、巨大なロボットアームは宇宙飛行士たちを慎重に運び始めた。


破損パネルの確認


ロボットアームはゆっくりと速度を落とし、損傷した太陽光パネルのすぐ脇で停止した。


作業員たちは命綱の固定状態を再確認すると、手すりを伝って慎重にパネルへ近づいていく。


宇宙空間は音が存在しない。


聞こえるのは宇宙服内部で循環する空気の音と、自分自身の呼吸だけだった。


眼下にはゆっくりと流れていく青い地球。


その壮大な景色とは対照的に、三人の視線は目の前に集中していた。


「損傷箇所を確認する。」


隊長がライトを照らす。


近づいて見ると、遠隔カメラでは分からなかった傷の全貌が明らかになった。


微小隕石が貫通した穴は、およそ直径5センチ。


その周囲には蜘蛛の巣のような細かな亀裂が放射状に広がり、数枚の太陽電池セルが完全に破断していた。


さらにパネル表面には、高速衝突によって生じた細かな傷が無数に刻まれている。


「思った以上だ。」


「あと数週間放置していたら、他の発電セルへ広がっていたかもしれない。」


地上へ高解像度映像が送られる。


ブーゲンビル島宇宙軍管制センターでも技術者たちが画像を解析し、同じ結論に達した。


「補修では長期運用は難しい。」


「新品へ交換を継続せよ。」


パネル取り外し作業


交換作業は慎重に進められた。


まず、安全固定具を増設し、万が一作業員が姿勢を崩しても身体が離れないよう二重三重に命綱を確認する。


その後、電力担当から連絡が入った。


「交換区画への送電停止。」


「対象パネル、完全に電気系統から切り離しました。」


隊長が頷く。


「作業開始。」


専用の電動工具が取り出され、固定ボルトを一本ずつ緩めていく。


無重力では工具一つでも飛んでいけば回収が困難になるため、すべてワイヤーで宇宙服に固定されていた。


「ボルト1番、解除。」


「2番、解除。」


「3番、正常。」


一本外すたびに内部班がチェックリストへ記録していく。


十数本ある固定ボルトをすべて取り外すと、今度は電力ケーブルと通信ラインを慎重に分離した。


「ケーブル切り離し。」


「コネクタ損傷なし。」


最後のロックを解除すると、破損した巨大パネルはゆっくりと船体から離れていく。


もちろん、そのまま宇宙へ流すことはしない。


専用の回収バッグが広げられ、数人が協力してパネル全体を収納していく。


「収納完了。」


「固定確認。」


「回収物の移動開始。」


このパネルは地球へ持ち帰られ、帝国大学と宇宙軍技術研究所で詳細な損傷解析に使用される予定だった。


新パネルの装着


次はいよいよ新品の太陽光パネルである。


ステーション外壁の保守ラックに固定されていた交換用パネルが、ロボットアームによってゆっくり運ばれてきた。


銀色の保護カバーに包まれた新品は、一切の傷もなく太陽光を美しく反射している。


「新品到着。」


「受け取ります。」


作業員たちは慎重に受け取り、固定位置まで滑らせていく。


パネルは打ち上げ時には折り畳まれていたため、宇宙空間でロックを解除しながらゆっくり展開した。


「展開角、正常。」


「フレーム変形なし。」


位置合わせはミリ単位。


ロボットアーム担当と外部作業員が何度も微調整を繰り返した。


「あと2センチ。」


「右へ1センチ。」


「そこで固定。」


ようやく位置が一致し、固定ボルトを一本ずつ締め始める。


「ボルト1本目、締結。」


「2本目。」


「3本目。」


「締結完了。」


最後に姿勢固定ロックを作動。


巨大なパネルは完全に船体と一体化した。


通電試験


「これより通電試験。」


電力管理班が慎重に送電を再開する。


モニターにはリアルタイムで数値が表示されていく。


電圧。


電流。


発電効率。


蓄電池への充電量。


「発電開始。」


「出力上昇。」


「95……97……99……100%。」


さらに数値は安定し、交換前の設計値まで完全に回復した。


「発電量、正常値へ回復。」


「異常なし。」


「送電系統すべて正常。」


その報告が流れた瞬間、ステーション各所から自然と歓声が上がった。


羽合管制センターでも安堵の空気が広がった。


「成功だ。」


「きぼう、完全復旧。」


帰還


任務を終えた三人はロボットアームによってゆっくりと船体へ戻る。


作業終了後も慌てることなく、工具の回収、命綱の確認、回収バッグの固定まで丁寧に行った。


「船外活動終了。」


「帰還します。」


ハッチが閉まり、再加圧が始まる。


徐々に気圧が戻り、内側の扉が開いた。


仲間たちが拍手で迎える。


ヘルメットを外した三人の額には汗が浮かんでいたが、その表情には大きな達成感があった。


「お疲れ。」


「見事だった。」


「発電も完全復旧したぞ。」


整備主任は笑いながら新品パネルの映像を見つめる。


技術者も頷いた。


「いや……安心するのはまだ早い。」


「今回の件で分かったことがある。」


「今後は外装点検の頻度を増やそう。」


「パネルだけでなく、アンテナや冷却配管も定期的に検査する必要がある。」


今回の事故は小さな損傷だった。


しかし、その小さな損傷が日本の宇宙開発にとって極めて重要な教訓となった。

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