395話 世界最大の都市
1650年代半ば。
二十年以上に及んだ国家大改造計画は、ついに最大の節目を迎えた。
江戸城を中心として進められてきた同心円状の巨大都市計画が、主要部分の完成を迎えたのである。
工事開始当初、多くの人々は半信半疑だった。
「これほど巨大な都市が本当に完成するのか。」
「ここまで作り変える必要があるのか。」
そんな声も少なくなかった。
しかし、年を追うごとに放射状道路は一本、また一本と完成し、高架鉄道は都市の中心から外周へ向かって伸びていく。
計画的に建て替えられ、その跡地には近代的な住宅や公共施設が次々と姿を現した。
そして1650年代半ば。
日本史上最大の都市建設事業は、ついに実用段階へ移行する。
江戸城を中心とした巨大都市は、本格的な運用を開始したのである。
都市中心部には皇居と政府中枢が置かれ、その周囲には官公庁街が整備された。
行政機関、裁判所、中央銀行、各省庁。
日本を動かす中枢機能が一か所へ集約されている。
その外側には幾重もの環状道路が巡らされ、さらに放射状道路が都市全体へ広がっていく。
第一環状道路。
第二環状道路。
第三環状道路。
やがて首都圏には第六環状道路まで整備され、その内部には放射状グリッドによって区切られた住宅区画が広がっていた。
完成した住宅区画は実に8,128区画。
どの区画も同じ設計に基づいて建設されており、日本全国どころか世界中を探しても例のない計画都市となっていた。
新都市へ初めて足を踏み入れた人々は、その景観に圧倒された。
二十階建ての集合住宅が、まるで定規で線を引いたかのように並んでいる。
どの建物も高さは完全に統一されている。
建物同士の間隔も一定。
道路幅も同じ。
街路樹の位置までも統一され、どこまでも美しい街並みが続いていた。
空から見れば、巨大な幾何学模様が地上へ描かれているようにも見える。
一区画に一つの街
一つの住宅区画には最大五棟の高層マンションが配置される。
一棟あたり百五十戸。
五棟合わせて七百五十戸。
一戸あたり平均七人が暮らす設計となっており、一つの区画だけで約五千二百五十人が生活できた。
さらに区画内には、
公園。
簡易診療所。
保育施設。
小規模商店。
広場。
集会所。
消防設備。
防災倉庫。
これらがすべて計画的に配置され、一つの区画だけで生活が完結できるよう設計されている。
人口密度は最大で一平方キロメートルあたり約20万8000人という類を見ない数値に達していたが、計画都市ゆえに混乱はほとんど存在しなかった。
住宅だけでは、この都市は完成しない。
都市を支えていたのは、地下と地上、そして上空に張り巡らされた巨大インフラだった。
放射道路と環状道路は何重にも都市を取り囲み、主要交差点では立体交差が採用される。
道路中央には高架鉄道が一直線に走り、都市中心部から郊外まで高速で人々を輸送する。
地下には上下水道、都市ガス、電力ケーブル、通信回線が敷設され、保守点検用の地下通路まで整備されていた。
地上。
地下。
上空。
三層すべてが交通とライフラインとして活用される都市は、この時代の世界では日本以外に存在しなかった。
教育都市
日本政府は住宅だけでなく教育にも莫大な投資を行っていた。
都市人口の急増へ対応するため、学校も住宅と同じく計画的に配置される。
都心部だけでも、
小学校4064校。
中学校2032校。
高等学校2032校。
という前例のない規模で建設された。
どの家庭からも徒歩五分から十分以内で学校へ到着できるよう配置されており、子どもたちは危険な大通りを渡ることなく安全に通学できる。
教育水準の向上は、そのまま日本全体の技術力向上へ直結し、多くの優秀な人材が次々と育っていく。




