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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草
第六章 覇権国のさらなる発展

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320話 衛星稼動開始

宇宙空間へ到達し、フェアリングが開き、爆破ボルトにより人工衛星「暁星」が分離された。


切り離された機体は、真空の静寂の中へと静かに放り出される。


音はない。


風もない。


ただ、漆黒の空間がどこまでも広がっていた。


その中で、暁星はゆっくりと姿勢を整えていく。


わずかな回転を保ちながら、銀色の外装が太陽の光を受けて淡く輝いた。


やがて、機体側面の収納部が開く。


太陽光パネルがゆっくりと展開された。


慎重に、左右へ静かに広がっていく。


完全に展開すると、薄い板状のパネルが太陽光を受け、鈍い反射光を放った。


同時に、衛星内部では各装置が次々と起動していく。


「暁星、電源系統起動。」


管制室へ報告が飛ぶ。


「ソーラーパネル出力、規定値内安定!」


「内部電圧、正常。」


「通信装置、起動確認。」


技術者たちは息を呑みながら、次々と表示される数値を見守った。


誰もまだ喜ばない。


衛星は宇宙へ到達した。


だが、本当に生きているかどうかは、まだ分からない。


全員の視線が、通信担当官の前にある計器へ集中していた。


その瞬間だった。


琉球・羽合・フロリダの通信基地に設置された巨大パラボラアンテナへ、


ピ……


ピ、ピ……


ピ、ピ、ピ……


という電子音が、立て続けに届き始めた。


静まり返っていた通信室で、担当官が目を見開く。


再び音が鳴る。


ピ、ピ、ピ……


間違いない。


人工衛星から送られてきた信号だった。


「受信。」


担当官が小さく呟く。


そして次の瞬間、声を張り上げた。


「暁星からの信号、確認!」


管制室の空気が一変した。


今まで息を詰めていた技術者たちが、一斉に表示板へ顔を向ける。


「通信確立!」


「電源状態、正常!」


「衛星、生存しています!」


次々と報告が飛び交う。


先ほどまで張り詰めていた空気が、一気に熱を帯び始めた。


ある技術者は拳を握り締め、ある者は思わず椅子から立ち上がった。


それでも誰も大声では騒がない。


目の前で起きていることが、あまりにも大きすぎたからだ。


人類が初めて、自ら造り上げた星からの声を聞いている。


その事実を、まだ誰も完全には実感できずにいた。


管制室の中央では、明賢が静かに巨大スクリーンを見つめていた。


画面には、軌道上を進む小さな光点。


その横に、受信されたばかりの数値が次々と表示されていく。


暁星は生きていた。


確かに今、地球の上空を回りながら、日本へ向けて自らの存在を伝えていた。


誰も言葉を発さない。


静寂の中で、電子音だけが繰り返し響く。


ピ、ピ、ピ……


その音は小さい。


しかしそこにいる全員には、まるで衛星の鼓動のように聞こえていた。


人工衛星「暁星」。


それは今、人類史上初めて宇宙へ送り出された人工の星として、確かに鼓動を打ち始めていた。


最初の画像送信 ― 青い宝石


暁星の自律システムが起動し、搭載カメラがゆっくりと地球へ向けて首を振る。


静かな動作だった。


宇宙空間には音がない。


ただ、人工衛星だけが、地球の上空を静かに周回している。


管制室では、通信担当官が受信機を見つめていた。


「画像送信を開始します。受信準備よし」


報告が響く。


全員の視線が、大型モニターへ集まった。


室内には誰一人として話す者がいない。


機械の駆動音だけが、かすかに聞こえている。


やがて、モニターの中央に、まだざらつきの残る画像が一枚、徐々に描かれ始めた。


最初は灰色に近かった。


何が映っているのか、まだ分からない。


細かな粒子のようなノイズが、画面いっぱいに散らばっている。


一本の線が現れる。


また一本。


少しずつ、少しずつ形が出来上がっていく。


色が乗り始めた。


淡い青。


薄い白。


ぼやけていた輪郭が、徐々にはっきりとしていく。


ノイズが消える。


さらに消える。


画面の解像度が、ゆっくりと上がっていく。


そして、地球が映し出された。


青く、美しく。


深い蒼の海が広がり、白い雲が綿のように渦を巻いている。


その隙間から、淡く大陸の輪郭がのぞいていた。


静まり返る管制室。


ただ、目の前の映像を見つめていた。


人類が初めて、自ら造った人工の星から見た地球。


その姿が、今まさに映し出されている。


室内の全員が息を呑んだ。


「成功だ」


誰かが、小さく呟いた。


「画像も明瞭です、鮮明に写っています!」


通信担当官の声が、静寂を破る。


その言葉と同時に、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。


何人かは、思わず椅子へ深く座り込んだ。


ある者は、震える手で机を押さえている。


ある者は、目を閉じて深く息を吐いた。


成功だ。


本当に衛星は働いている。


宇宙へ送り出した機械が、確かに地球を見て、その姿を送り返してきている。


それは、何十年にも及ぶ研究と努力が、間違っていなかったことの証明だった。


第二の画像 ― 日本本土


次の画像送信が始まった。


「2枚目、データ受信開始」


通信担当官が言う。


「解像度、正常。ノイズ除去完了」


再び、大型モニターへ画像が映し出されていく。


最初はぼやけている。


しかし、先ほどと同じように、少しずつ輪郭が鮮明になっていった。


そして、日本列島全体が、ゆっくりと姿を現した。


北は蝦夷から。


南は琉球まで。


大地の形が、くっきりと分かる。


海の深い蒼。


山脈の濃い緑。


入り組んだ海岸線。


島々の連なり。


遥か上空から見下ろした、日本そのものの姿だった。


そして、都市部を示す淡い光の点々。


画面の中には、今まで誰も見たことのない日本があった。


技術者たちは、誰もが静かに見入っていた。


遥か上空。


人の手では決して届かない場所から見た祖国。


その光景が、目の前にある。


「美しい」


ぽつりと、誰かが言った。


「我々は、ここまで来たのか」


その言葉には、驚きと、安堵と、誇りが混じっていた。


長い年月。


失敗の繰り返し。


壊れた試作機。


爆発した部品。


何度も行われた試験。


それら全ての積み重ねが、今、この一枚の画像となっている。


だからこそ、誰も軽々しく声を上げることができなかった。


明賢の安堵


明賢は、モニターを長く見つめていた。


静かに画面を見つめ続けている。


そこには、青い海と、緑の山々を抱いた日本列島が映っていた。


しばらくして、明賢は小さく息を吐いた。


胸の奥に、ずっと張りついていた糸が、ゆっくりとほどけていくような感覚だった。


肩から、静かに力が抜ける。


そして、小さく呟いた。


「よかった。本当に、よくやってくれた」


その声は、独り言のように小さかった。


しかし、確かな安堵が込められていた。


明賢にとって、これは単なる衛星ではない。


技術。


情報。


外交。


戦略。


そのすべてを、次の段階へ進めるための第一歩だった。


今まで、海を越えて世界を結んできた日本。


その日本が、ついに空の上から地球を見ている。


宇宙と繋がった。


その事実だけで、十分だった。


明賢は再びモニターへ目を向ける。


そこには、遥か上空から見た日本の姿が、静かに映し出され続けていた。


会場に広がる静かな熱気


数秒の沈黙が続いた。


誰もが、まだ目の前の出来事を完全には理解できずにいた。


大型モニターには、宇宙から見た日本列島が映し出されている。


それは紛れもなく、人工衛星「暁星」が送り届けている映像だった。


そして


パチ。


静かな拍手がひとつ響いた。


続いて、パチ、パチ。


さらに、


パチ、パチ、パチ……。


控えめな拍手が、管制室のあちこちから起こり始める。


やがて、その音は少しずつ大きくなっていった。


ドッ、ドッ、ドッ。


拍手は次第に広がり、静かな歓声へと変わっていく。


張り詰めていた空気が解け、技術者たちの顔にも笑みが浮かんだ。


ある者は隣の席の同僚の肩を叩き、ある者は固く握手を交わす。


目を潤ませている者もいた。


長い年月を共に過ごしてきた仲間たちが、互いの顔を見て頷き合う。


「やった。」


「本当に成功したんだ。」


小さな呟きが、あちこちから聞こえてくる。


そして通信担当官が、興奮を抑えながら報告した。


「暁星ミッション、正常稼働!」


別の担当官も、思わず声を張り上げる。


「人工衛星第一号、運用開始!」


その瞬間、管制室にはさらに大きな拍手が巻き起こった。


誰もが喜びを噛みしめていた。


何十年もの研究。


数え切れない失敗。


破壊された試作品。


夜を徹して続いた試験。


それらすべてが、今この瞬間へ繋がっている。


日本が、そして人類が、初めて自ら造った星を宇宙で動かしている。


その事実を、全員が胸へ深く刻み込んでいた。


明賢は、歓声に包まれる管制室の中で、静かにモニターを見つめ一言。


「これでようやく、次へ行けるな。」


その言葉は、誰に向けたものでもなかった。


暁星1号、気候観測開始


軌道投入から数時間後。


人工衛星「暁星1号」は、予定されていた姿勢制御を完了し、地球観測モードへ移行した。


衛星内部では、各装置が順番に起動していく。


衛星下部へ取り付けられた雲量観測カメラ。


赤外線センサー。


海面温度を測る放射計。


それぞれが、静かに動作を開始した。


通信担当官が報告する。


「暁星1号、気候観測装置起動。」


続けて別の声が上がる。


「通信安定。受信開始します。」


管制室の大型モニターへ、新しいデータが送られ始めた。


世界のどの国も、まだ想像すらしていないもの。


簡易気象衛星が、今まさに機能を発揮し始めていた。


最初に届いたのは、広域の雲分布図だった。


画面の上に、白い帯のような雲が広がっている。


海上には、大きく渦を巻く雲の集まり。


大陸の上空には、複雑な模様を描く雲の群れ。


これまで地上からでは、断片的にしか知ることのできなかった空の様子が、一枚の画面へ収められていた。


続いて、別の観測データが表示される。


巻雲の渦。


海上で生まれつつある大きな雲の集積。


そして、大陸の地表から立ち上る熱の分布。


それらすべてが、鮮明な形で示されていた。


研究者たちは、食い入るように画面を見つめる。


「雲の対流パターン、解析可能なレベルです!」


興奮した声が響く。


さらに別の研究者が言う。


「これなら台風の進路予測も可能になります!」


空軍と気象庁の研究者たちの間から、歓声が上がった。


今まで、空を見上げ、風を測り、雲の動きを地上から追うしかなかった時代。


その時代が、今まさに終わろうとしていた。


空全体を、上から見ることができる。


地球規模の気象を、一度に観測できる。


人類は初めて、空を丸ごと見る目を手に入れたのだった。


明賢は、表示され続ける観測データを見ながら、低く呟いた。


「これで国民の生活は、さらに守れる。」


その声は小さかった。


しかし、その言葉には確かな安堵があった。


空を知ること。


天候を知ること。


それは、人々の暮らしを守ることへ繋がっていく。


暁星1号は今、遥か上空から静かに地球を見つめながら、新しい時代の最初の観測を続けていた。

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