318話 期待を乗せて発射準備
舞台は整った。
明賢は羽合に降り立ち、ロケット発射塔の前で宇宙軍司令官に言う。
「いよいよだな。世界で最初に宇宙に手を伸ばすのは、日本だ」
朝の風が静かに吹き、遠くでは波の音だけが聞こえていた。
その中央に、白く巨大なロケットが静かに立っている。
人類がこれまで一度も造ったことのない、宇宙へ向かうための機械だった。
司令官は敬礼し、静かに答えた。
「はい。すべて準備完了しております。あとは、命令をお待ちするのみ」
明賢は答えなかった。
ただ静かに、ロケットを見上げる。
機体の先端は、青く澄んだ空へ向かって伸びている。
その先には、誰も到達したことがない世界があった。
誰も見たことのない景色。
誰も歩いたことのない領域。
人類が数千年もの間、ただ見上げることしかできなかった場所。
宇宙。
明賢はしばらく、何も言わず空を見つめていた。
初打ち上げ
1641年7月12日。
人類はついに、空を越える。
羽合宇宙発射基地。
夜明け前の薄青い空に、白い蒸気が静かに立ち昇っていた。
発射台には、白く巨大なロケット「暁星一号」が静かに立っている。
機体表面には、朝焼けの淡い光が映り込んでいた。
下部では、液体推進剤の冷却によって生じた白い霧が、ゆっくりと流れている。
青白いガスが足元を這い、まるで雲の上に立っているかのようだった。
ロケットは動かない。
だが、その内部には莫大なエネルギーが満ちていた。
あと少しで、それが解き放たれる。
静寂だけが支配していた。
その静けさが、かえって異様だった。
なぜなら、今まさに人類史上最大級の挑戦が始まろうとしていたからである。
地下のコントロールセンターには、多くの人々が集まっていた。
空軍。
海軍。
宇宙軍。
陸軍。
技術者。
博士たち。
誰もが持ち場につき、巨大な表示板を見つめている。
紙をめくる音さえ、大きく聞こえるほどだった。
全員が、これから起きることの意味を理解していた。
もし成功すれば、人類は初めて宇宙へ手を伸ばす。
だからこそ、誰も言葉を発しなかった。
ただ、静かにその時を待っていた。
コントロールセンター
「日本の空は今日、宇宙へと開く」
明賢は、ロケット発射管制室の中央に立っていた。
巨大スクリーンには、発射台に立つ暁星一号の姿が映し出されている。
白い機体。
足元を流れる蒸気。
薄青い空。
すべてが静止しているように見えた。
管制室も、静まり返っていた。
機械の作動音だけが、かすかに響いている。
明賢は、ゆっくりと深く息を吸った。
そして、静かな声で話し始めた。
「今日、我々は新たな歴史を創る。」
その声は、広い管制室へ静かに響いた。
「大陸を越え、海を越え、時代を越え」
全員が、明賢を見つめていた。
「ついに宇宙へと旅立つ。」
言葉が終わるたび、室内の空気がさらに張り詰めていく。
「日本は、この空の先を掴む。」
再び静寂。
誰も動かない。
だが、その目には強い光が宿っていた。
司令官。
主任設計士。
航法士。
通信士。
全員が一斉に立ち上がった。
そして、明賢へ向かって敬礼する。
その動きは、驚くほど静かで、驚くほど揃っていた。
宇宙軍総司令が、一歩前へ出る。
「暁星一号、打ち上げ準備完了。」
声に迷いはない。
「推進系、正常。」
「通信系、正常。」
「誘導系、正常。」
「追跡基地との通信、正常。」
一つ一つ、確認が読み上げられていく。




