317話 管制基地
通信の目と耳 世界三拠点 パラボラネットワーク
人工衛星は地球を周回する。
ならば、一つの場所だけでは常に通信できない。
衛星が地球の裏側へ回り込めば、電波は届かなくなる。
衛星を確実に運用するためには、地球上の複数地点で絶えず追跡し、通信を引き継ぐ必要があった。
そこで日本は、人工衛星計画と並行して、世界規模の通信網を秘密裏に整備していた。
その中核となるのが、巨大なパラボラアンテナを備えた三つの通信基地だった。
琉球通信基地
日本本土側の拠点。
日本最南端の重要施設として、巨大な通信基地が建設された。
地上局コード:RYUKYU-01
周波数帯:VHF/UHF/SHF
任務:衛星打ち上げ後の捕捉(AOS)
付帯設備:衛星軌道解析センター
巨大なパラボラアンテナ群は、海を見下ろす高台に設置された。
昼夜を問わず、技術者と通信員が待機している。
衛星が地平線から姿を現すと、真っ先に電波を捉え、各種データを受信する。
受信された情報は、即座に解析室へ送られた。
軌道。
速度。
高度。
電源状態。
内部温度。
通信状態。
あらゆる情報が表示装置へ映し出され、衛星の状態が常に監視される。
琉球通信基地は、日本全土への通信中継も担っていた。
衛星の健康状態を最初に受信し、本土へ伝える。
人工衛星運用の最前線であり、宇宙と日本本土を結ぶ最初の窓口だった。
羽合通信基地
発射場と同じ島に設置された中心局。
地上局コード:HAWAII-00
五基の直径六十メートルの巨大パラボラ
任務:衛星との主要交信、姿勢制御コマンド送信
専用光ファイバーで発射場と常時リンク
羽合通信基地には、世界でも類を見ない巨大アンテナが並んでいた。
遠くから見れば、白い皿が山肌にいくつも立ち並んでいるように見える。
その姿は、この時代の常識から完全に逸脱していた。
基地内部には、衛星管制室、通信室、計算室、データ保存室が整備されていた。
発射場とはケーブルによって結ばれ、常時情報がやり取りされている。
衛星へ送る指令。
衛星から届く観測データ。
軌道計算結果。
すべてがここへ集まり、そしてここから発信される。
そのため、技術者たちはこの基地を、人工衛星の心臓と呼んでいた。
フロリダ通信基地
新大陸側の前線司令局。
地上局コード:FLORIDA-02
任務:衛星が地球の反対側へ回り込む際の補完
特徴:海軍基地内に設置され、軍用無線とも直結
広大な海岸線の一角に、巨大なパラボラアンテナが建設された。
基地の周囲は海軍施設によって守られ、厳重な警備が敷かれている。
衛星が日本上空を離れ、太平洋を横断し、地球の反対側へ回り込んでも、ここが通信を引き継ぐ。
受信したデータは、光ファイバー通信網を通じて羽合へ送信される。
そのため、人工衛星は地球を周回している間も、常にどこかの基地と交信し続けることができた。
こうして三つの通信基地は、互いに連携しながら運用されることになった。
琉球。
羽合。
フロリダ。
三つの拠点が地球規模で結ばれ、人工衛星を追跡する。
これにより、人工衛星は地球を一周する間、通信が一度も切れない体制となった。
この時代の世界では、海を渡るだけでも数か月を要する。
遠方との連絡には、帆船と伝令が必要だった。
しかしその裏で日本は、宇宙空間を飛ぶ人工衛星を、地球規模の通信網によって常時監視しようとしていた。
欧州の誰も知らない間に、日本は世界初の、「グローバル衛星管制網」を完成させていた。
そしてロケットは完成した
ロケット組立工場。
第3結合ベイ。
そこに、巨大な白い機体が静かに横たわっていた。
それは、日本が長い研究の末に完成させた、最初の人工衛星打ち上げロケットだった。
NV-01(日本ロケット1号)
形式:液酸液水式・二段ロケット
全長:42m
重量:92t
衛星搭載能力:45kg(低軌道)
誘導方式:慣性誘導+電波誘導補助
冷却:液体水素ブリードオフ方式
巨大な機体は、工場の照明を受けて白く輝いていた。
外装には、整然と文字が記されている。
「日本国宇宙軍」
そして、「暁星一号」の文字。
機体はまだ静かに眠っている。
しかし内部には、衛星を宇宙へ解き放つための仕組みが、隙間なく詰め込まれていた。
その姿は、まるで巨大な白蛇が眠っているようだった。
誰も声を発しない。
技術者たちは、ただ静かに機体を見上げていた。
数十年に及ぶ研究。
無数の失敗。
幾度もの破壊試験。
積み重ねてきたすべてが、今、この一本のロケットに結実していた。
あと残された仕事は、ただ一つ。
この白い巨体を起こし、人類史上初めて、人工の星を宇宙へ送り出すことであった。




