300話 世界の中心
日本、世界の中心へ
鹿児島外交施設、史上最大の国交ラッシュ
スペイン・ポルトガルとの戦争が終結して間もなく。
鹿児島にある南洋庁の巨大な外交施設は、世界地図が書き換わったその中心として、かつてないほどの忙しさに包まれていた。
朝から晩まで港には船が出入りし、施設の門前には各国の使節団を乗せた馬車や荷車が並び、外交官たちは休む暇もなく働き続けていた。
戦勝国として、そして圧倒的な科学技術と軍事力を持つ国家として、日本に接近したい国が爆発的に増えたのである。
今や世界中の国々にとって、日本と関係を持つことは利益であり、同時に安全保障そのものでもあった。
かつては東の果ての島国と認識されていた日本は、わずかな年月で、世界政治の中心へと立っていた。
各国の使節が列をなす
鹿児島港には、見たこともない形や装飾の船がひしめき合っていた。
細長い船体の船、色鮮やかな帆を掲げた船、金の装飾が施された船。
様々な国の船が、港を埋め尽くしていた。
岸壁には、それぞれの国旗を掲げた使節団が列をなしていた。
・スウェーデン
・デンマーク
・ポーランド
・ヴェネツィア共和国
・ジェノヴァ
・オスマン帝国
・ロシアの諸公国
・サファヴィー朝
・中国王朝
・さらにはインド洋の諸王国やムガル帝国の使者まで
今まで日本と接点すらなかった国々が、「国交を結びたい」と大挙して押し寄せていた。
港で働く人々ですら、これほど多くの外国人を一度に見たことはなかった。
様々な言語が飛び交い、様々な服装の人々が行き交う。
鹿児島は、まるで世界そのものが集まってきたかのような光景になっていた。
鹿児島外交施設の内部
施設内は、まさに戦時同様の忙しさだった。
受付の外交官たちは、次々と到着する使節の書簡を受け取っていく。
記録係が国名を書き留め、案内係が各国ごとに会議室へと誘導する。
施設のあちこちで、人々の声が絶えず響いていた。
「次はスウェーデン王国の使節団です!」
「ヴェネツィア共和国、代表三名、入ります!」
「モロッコ王国の使者、到着しました!」
「ロシアの諸公国の代表、待機室へお願いします!」
案内役の声が次々と飛び交い、廊下では書類を抱えた役人たちが足早に行き来する。
外交施設の廊下には、異国の服装をした人々が溢れていた。
毛皮をまとった北方の使者。
豪華な衣装を身につけた地中海の商人。
色鮮やかな装束の東方の使節。
それぞれが緊張した面持ちで順番を待っている。
その姿と、日本の重厚な建物との対比は、あまりにも鮮烈だった。
世界は日本の加護を求めていた
どの国も、ほとんど同じ理由を述べた。
・日本と敵対したスペインが滅んだ
・日本は世界最強の海軍と軍事力を持つ
・日本は科学信仰という新しい思想を持ち安定している
・新しい単位や技術が各国で話題になっている
国の規模や文化は違っていても、結論だけは皆同じだった。
今の世界で、日本と敵対する利益はない。
むしろ日本と友好関係を築くことこそ、自国の繁栄と安全につながる。
そう考える国が急増していたのである。
戦争を避けたい国。
スペインの圧政から逃れた国。
科学技術を学びたい国。
新しい貿易相手を求める国。
様々な理由で、日本へと擦り寄ってきた。
中には露骨にこう言う国もあった。
「どうか、日本の庇護下に入らせて欲しい」
「日本に逆らうつもりは決して無い」
「交易の一部を独占していただいて構わない」
彼らの表情には、かつての駆け引きや警戒心はほとんど見られなかった。
そこにあるのは、日本への敬意と畏怖だった。
スペインとポルトガルを打ち破った国。
世界最強の海軍を持つ国。
世界最先端の科学技術を持つ国。
その日本と友好を結ぶことは、今や各国にとって最優先事項となっていた。
しかし日本の外交官たちは、その状況に浮かれることはなかった。
次々と押し寄せる使節団に対し、書類を整理し、会談の日程を調整し、一国ずつ丁寧に対応していく。
急に友好国が増えすぎる事態を、淡々と、そして着実に整理していったのである。
報告はすぐさま東京の中央政府へ、そして最高顧問・明賢の元へ届けられた。
東京の外務省庁舎では、鹿児島から届く報告書が机の上に山のように積み上げられていた。
外交官たちは昼夜を問わず書類を整理し、新たな使節の来訪予定を確認している。
その中でも、一つの報告が特に目を引いていた。
使者が文書を手に取り、静かな執務室で読み上げる。
「報告いたします。スペインに続き、ヨーロッパ・北アフリカ・中東・インド洋の諸国より、国交樹立の申し込みが殺到しております。」
使者は一度息を整え、さらに続けた。
「各国とも日本との通商、外交関係の樹立、そして恒久的な友好を求めております。」
部屋は静まり返った。
明賢は机の上の世界地図へ静かに視線を落とした。
そこには、新たな領土を加えた巨大な日本の勢力圏が描かれている。
しばらくの沈黙の後、明賢は短く答えた。
「当然の流れだ。」
そしてゆっくりと続ける。
「日本を中心とする世界秩序が、ようやく始まったのだ。」
その言葉には、驚きも慢心もなかった。
ただ、世界が必然的に向かう先を確認するような、静かな確信だけがあった。
スペインとポルトガルが敗れたことで、世界は一つの事実を認識した。
日本はもう遠い東の島国ではない。
世界そのものを動かす、新たな中心なのである。
そして明賢は、次の方針を示した。
世界中に日本大使館を建設する
鹿児島南洋庁外交施設が、世界各国の使者で溢れ返ったあの日から。
日本政府は、ある決断を下した。
「世界各国に、スペインと同じ日本式外交施設を建設する。」
「わざわざ鹿児島まで来ずとも、日本と即時に連絡できる体制を整えよ。」
明賢の号令によって、世界規模の外交網構築作戦が始まった。
それは単なる大使館建設ではない。
世界そのものを、一本の巨大な連絡網で結ぶ計画だった。
外交官、技術者、建築家、通信士。
各分野の人材が直ちに招集され、建設計画が立案されていく。
世界地図の上には、建設予定地を示す印が次々と書き込まれていった。
パリ。
ヴェネツィア。
イスタンブール。
モスクワ。
イスファハーン。
北京。
インド洋沿岸の諸都市。
日本の外交網は、海と大陸を越えて広がろうとしていた。
日本大使館とは?
それは、スペインに建設された施設と同じ思想によって作られる。
・治外法権(日本の領土扱い)
・秘匿無線通信施設完備
・日本海軍の軍艦を中継局として利用可能
・現地語を話すことのできる外交官が常駐
・各国の情勢を常時受信できる情報センター
それは単なる外交施設ではなかった。
各国との友好を維持し、情報を収集し、必要であれば迅速な支援や調整を行うための、
実質的な日本の前線基地である。
もっとも、日本は各国への配慮も忘れなかった。
見た目は文化に合わせて調整された。
ヨーロッパでは石造りの宮殿風。
中東では壮麗な中庭を持つ建築様式。
東アジアでは現地の景観と調和する外観。
一目で異質な存在と映らないよう、細心の注意が払われた。
しかし内部だけは、全て日本の規格で統一された。
世界のどこへ行っても、そこには日本と直接つながる拠点が存在する。
それが、明賢の描く新しい世界秩序だった。
各国への申し入れ
日本は、国交を結んだ各国へ同じ文言で申し入れを行った。
「日本は貴国の首都、または沿岸部に日本外交施設を建設したく存じます。」
「これは貴国との連絡を迅速にし、友好と平和を維持するためのものであります。」
各国は、この申し入れに驚いた。
しかし返答は、ほとんど例外なく同じだった。
「承諾する。」
しかも、多くの国では即日だった。
議論すらほとんど行われなかった。
それほどまでに、日本への信頼と畏怖は大きくなっていた。
むしろ、こう申し出る国もあった。
「ぜひ、日本の施設を建てていただきたい。」
「我々も安全がほしいのだ。」
「日本との連絡を、いつでも取れるようにしたい。」
「日本が近くにいてくれるだけで安心できる。」
かつての列強であれば、外国の施設建設に警戒しただろう。
しかし、日西戦争後の世界では違った。
日本の強さを知った世界は、日本の存在そのものを一種の安全保障として求めていたのである。
そして、日本の外交官たちは淡々と新たな書類へ印を押していった。
世界は今、かつてない速度で日本と結ばれ始めていた。




