表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

143/148

143話 追いつけ追い越せ

上陸。


ノーフォークに到着した第一先遣隊は、三隊の中でも最大規模を誇っていた。


艦艇の数。

兵員の数。

資材の量。


いずれを取っても、他の二隊を上回る。


艦列が湾内へと進入するにつれ、濃い緑の森が連なる海岸線が、ゆっくりと、しかし確かな存在感をもって姿を現した。


波は穏やか。

潮は引き気味。

空には薄い雲が流れている。


双眼鏡越しに確認された浜辺は、砂と湿地が入り混じる広い平地だった。


「上陸命令、発令!」


号令が響く。


複数の上陸用舟艇が一斉に降ろされ、海面へと着水する。


エンジンの低い振動が水面を震わせ、舟艇は白い波を立てながら浜へと滑り出した。


「陸地確認! 潮は引いている、上陸可能です!」


先行観測班の報告。


「よし、第一波、前進!」


号令とともに、舟艇はさらに速度を上げる。


船底が砂を擦る音。


兵士たちは跳び降り、膝まで沈む砂浜を踏みしめた。


それが、日本による最初の一歩だった。


上陸と同時に、動きは止まらない。


兵士たちは即座に隊形を整え、周囲の警戒を開始。


その後方では工兵隊が続き、三脚式測量機を担いで内陸へと進む。


地面の高低差。

地質。

水はけ。


線路敷設予定地を定めるため、杭が次々と打ち込まれていく。


赤い布が目印として立てられ、未来の鉄路の位置が示されていく。


その背後では、輸送艦から重機とトラックが次々と降ろされていた。


クレーンが唸り、荷網に吊られた機材がゆっくりと地上へ降ろされる。


木箱。

鉄骨。

レール束。

燃料ドラム。


浜辺は瞬く間に作業場へと変わった。


「この地を拠点にするぞ! 最初にやるべきは港だ!」


現場監督の声が響く。


命令と同時に、杭打機が動き出す。


重い鉄杭が空中から落とされ、鈍い衝撃音が浜に響く。


一本。

また一本。


海へ向かって伸びる杭列。


クレーンが鉄骨を運び、仮設桟橋が骨組みから形を成していく。


木材が組まれ、板が敷かれ、波止場の輪郭が次第に現れる。


工兵たちは潮の流れを見極め、干満差を計算しながら、防波堤と倉庫群の建設位置を定めていった。


地面には白線が引かれ、倉庫の基礎位置が示される。


杭が打たれ、土台が組まれ、その日のうちに木組みの枠が立ち上がる。


同時進行で、背後の森林では伐採班が作業を開始していた。


鋭い刃が幹に食い込み、重低音が森に響く。


木は大きく揺れ、やがて地響きを立てて倒れる。


倒木は即座に枝払いされ、一定の長さに切り分けられる。


太い幹は桟橋材へ。

細い材は倉庫骨組みへ。


さらに、選別された良材は線路の枕木として加工される予定だった。


切り出された木材は、臨時に設けられた製材所へ運ばれる。


電気式の鋸が回転し、板材が次々と積み上げられていく。


その日のうちに、最初の線路の土台が組み上がった。


まだ数十メートル。


だが、確かな始まり。


浜辺には、旗が立てられた。


日章旗。


その足元では、汗にまみれた兵士と工兵が、休むことなく作業を続けている。


潮の匂いと、木の香りと、機械油の匂いが混ざり合う。


ノーフォークの静かな海岸は、わずか半日で建設現場へと姿を変えた。


まだ砦もない。

街もない。


だが、杭が打たれ、木が組まれ、線が引かれたその瞬間から、ここは「拠点」になったのだった。


「こんなに早く線路を敷くのか。まるで戦のようだな」


若い技師が、まだ組み上がったばかりの枕木を見つめながら呆然と呟いた。

汗が額を流れ落ち、手袋には木屑と油が染み込んでいる。


その横で測量機を覗いていた技官が、片目を細めて笑った。


「戦だよ。だが、相手は人ではない。」


ゆっくりと顔を上げ、遠くの森林を指す。


「時代そのものだ。」


その言葉には、銃声も砲煙もない。

だが、確かな緊張があった。


周囲の者たちは一瞬だけ手を止めたが、すぐに何も言わず再び作業へ戻った。


鉄槌が落ちる音。

ディーゼル機関の唸り。

掛け声。


ここでは一日の遅れが、未来の一年を失うことに等しいと、誰もが理解していた。


やがて数日が経つと、ノーフォークの港湾部は別の顔を見せ始める。


仮設とはいえ、整然と並んだ倉庫群。


白線で区画整理された物資置き場。

規律正しく配置された宿舎棟。

そして中央に建てられた通信局。


通信塔には高くアンテナが張られ、無線で本国および艦隊と常時接続されている。


港には仮設桟橋が三本伸び、汎名運河を通過した小型貨物船が順次接岸。


物資は滞りなく搬入され、帳簿に記録され、即座に内陸輸送へ回される。


背後では、一本の線路が真っ直ぐに内陸へと伸びていた。


まだ単線。

まだ短い。


だが、その直線は強い意志の象徴だった。


森を切り開き、地を均し、橋を架ける。


鉄路は止まらない。


同時に、内陸調査隊が次々と派遣されていった。


北へ。


未だ海外勢力が明確に進出していない広大な森林地帯。

湿地と河川が入り組み、天然資源の眠る可能性を秘めた地。


西へ。


地図にほとんど描かれていない未知の大地。


彼らは馬とトラックを併用し、物資を積み、測量機と地質調査器具を携行する。


有線通信を引き延ばしながら進み、定期的に本部へ報告を送る。


「地盤良好、鉄道延伸可能。」

「北方に大河確認、架橋に時間を要する可能性あり。」


その一報一報が、やがて大陸の輪郭を形作っていく。


目的は明確だった。


北米大陸の中枢を、いち早く押さえること。


港だけでは足りない。

線路だけでも足りない。


内陸の交通結節点、資源地帯、河川航路。


それらを結び、線として掌握する。


ノーフォークの拠点は、もはや単なる港ではなかった。


物資が集まり、情報が集まり、命令が発せられ、隊が送り出される。


まるで鼓動のように、人と物が絶え間なく動く。


ここから血流のように線路が伸び、道路が延び、通信線が広がる。


ノーフォークは、北米開拓の「心臓」として、確かに動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ