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明賢の物語(日本建国物語)正式版  作者: 大和草


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126話 日本領オーストラリア

南洋調査艦隊は、新南島を離れてさらに南西へと進路を取った。

補給を終え、整備を済ませた艦艇は、整然とした隊列を組みながらゆっくりと外洋へ出る。

甲板では乗員たちが最後の点検を行い、煙突からは白煙がたなびいた。


赤道を越えた頃、空気は一層乾き、海の色もわずかに深みを増す。

しばらく荒波に揺られ、船体が軋む夜を幾度か越えたのち、やがて水平線の向こうに見えてきたのは、どこまでも平らに広がる大地、南大陸(オーストラリア大陸)であった。


雲の下に横たわるその陸影は、山々よりもむしろ広大な平原の連なりを思わせる。

大陸沿岸部をなぞるように、艦隊はどんどんと南下していく。


「湾、確認! あれが目的地、シドニー沖です!」


見張りの報告に、艦橋の中がざわめいた。

航海図と照合する士官、双眼鏡を手にする下士官、誰もがその瞬間を見逃すまいと窓の外へ視線を向ける。


白い波が砕け、海鳥が旋回し、風の匂いは土と草を運んでくる。

それは島嶼とは違う、大陸特有の重みを感じさせる匂いだった。


艦隊司令官は望遠鏡をゆっくりと下ろし、低く呟いた。


「ついに来たか。ここが、南半球最大の未開の地だ。」


その声には感慨と緊張が入り混じっていた。

地図の上では単なる空白に過ぎなかった広大な陸地が、今、現実の風景として目の前に広がっている。


上陸はまずシドニー湾において行われた。

天然の良港となり得る入り江を慎重に選定し、ディーゼル艦の低い振動を響かせながら、港予定地近くに船団が錨を下ろす。


荷揚げ部隊が即座に動き出す。

ロープが投げられ、仮設桟橋が組まれ、トラックと建設機械が甲板からゆっくりと降ろされる。


ブルドーザーが砂を押し固め、ショベルが硬い地面を深く掘り起こす。

乾いた土煙が舞い上がり、海岸線に沿って鉄杭が次々と打ち込まれていく。


やがて、最初の港湾施設の枠組みが姿を現した。

鋼鉄の骨組みが陽光を反射し、まだ何もなかった海辺に人工の構造物が立ち上がる。


現場の監督が声を張り上げた。


「こっちは司令部予定地! あとで整地を頼む!」


「了解! 機材はブリスベン行きの船に分けてある!」


無線機越しのやり取りが忙しく飛び交う。

南大陸の開発は、四箇所、シドニー、ブリスベン、メルボルン、パースで同時に始動した。


それぞれの地点には拠点を築く分隊が派遣され、通信装置によって常時連絡を取り合う。

遠く離れた地点であっても、情報は即座に共有され、物資や人員の移動計画が緻密に調整されていった。


まず最初に取り掛かったのは港湾施設の建設だった。

平らな海岸線は港づくりに適しており、大型船の接岸を想定した設計が進められる。


クレーンが唸りを上げ、鋼鉄の支柱が吊り上げられる。

組み上がるたびに、海辺の景色は少しずつ変わっていった。


護岸が完成すると、続いて鉄道の敷設が始まる。

日本から持ち込まれた鉄道建設車両が地を震わせ、枕木が並べられ、レールが一直線に延びてゆく。


果てしなく続く平原の中を、銀色の線が北へ向かって伸びていく光景は壮観だった。


「ここはまるで北海道を広くしたようだな」


技師の一人が、汗を拭いながら笑って言った。


「雨も少ないし、土は硬い。建設が早いぞ」


確かに、地盤は安定している。

湿地や密林に悩まされた新南島とは対照的に、この大地は広く、乾き、そして従順に思えた。


だが、その広大さこそが試練でもあった。

見渡す限りの平原は、距離の感覚を狂わせる。

一つの拠点から次の拠点までの道のりは、想像以上に長い。


それでも、開発の槌音は止まらない。

港、鉄道、司令部、倉庫、発電所。

南半球の大地に、新たな秩序が刻まれ始めていた。


単なる植民ではない。

南洋と南大陸を結び、資源と航路を押さえるための壮大な構想の第一段階であった。


果てしない空の下、鉄と蒸気の音が、静かな大陸に響き渡っていく。


 港から伸びる鉄道の駅には、やがて内陸への進出拠点が築かれた。

港からまっすぐに延びた鉄道は、幾つもの中継地点を経て、ついに内陸への玄関口となる終点へと到達した。

その終点には、資材置き場と簡易宿舎、通信塔が並び、やがて本格的な進出拠点が築かれていった。


燃料ドラムを積んだトラックが砂塵を巻き上げながら走る。

乾いた大地を踏みしめるたびに細かな砂が舞い上がり、後方に長い土煙を残す。

荷台に積まれた燃料ドラムが揺れ、金属音を響かせながら、車列は内陸へと進んでいった。


「この先に鉱脈があるかもしれん、地質調査を急げ!」

指揮官の声が無線越しに飛ぶ。

周囲に散開した調査隊は、地図と測量機器を手に、それぞれの持ち場へと急いだ。


調査隊が地面を掘り、試料を採取する。

硬い地層にドリルを打ち込み、慎重に岩石を砕く。

砕けた石を袋に詰め、番号を記し、記録係が帳面に書き留めていく。


やがて、報告が上がる。

通信兵が息を切らしながら司令部の天幕へ駆け込んだ。


「司令! 鉄鉱石を確認!」

赤く重い鉱石が手のひらに載せられる。

その質量と色合いは、確かな手応えを感じさせた。


「さらに北西の丘陵地帯では、石炭の層が!」

別の報告書が差し出される。黒く光る層が地中深くまで続いているという。


「ボーキサイトも見つかりました!」

白褐色の鉱石が並べられ、分析官がうなずいた。


司令部は沸いた。

天幕の中で地図を囲んでいた将校たちの間にざわめきが広がり、互いに顔を見合わせる。


それはまさに、南大陸の底に眠る無尽蔵の資源が目覚めた瞬間だった。

長い年月を経て地中に蓄えられてきた資源が、今まさに掘り起こされようとしている。

その事実に、誰もが胸の高鳴りを覚えていた。


一方で、調査の最中に彼らはアボリジニと呼ばれる先住の民と出会う。

乾いた風の中、遠くの丘の上に人影が現れた。

静かにこちらを見つめる視線があった。


槍を手にした男たちが距離を取り、じっと見つめてくる。

彼らは一定の距離を保ち、足を止め、ただ観察していた。互いに不用意に近づこうとはしない。


若い通訳官が両手を挙げ、静かに歩み寄った。

武器を持たぬことを示しながら、一歩一歩、慎重に歩を進める。


「我らはこの地を奪いには来ていない。共に生きる道を探しに来たのだ。」

穏やかな声が風に乗って広がる。


長老はしばらく沈黙したあと、静かにうなずく。

深い皺の刻まれた顔が、わずかに動いた。

その視線は鋭くもあり、同時に長い年月を見つめてきた静けさを湛えていた。


「争いはいらぬ。お前たちがこの地を大切にするのなら、我らもそれを見守ろう。」

低く、しかしはっきりとした言葉が返される。


こうして、南大陸での日本人と先住民の最初の協定が結ばれた。

簡素な取り決めではあったが、それは確かに両者の間に橋を架けるものだった。


これによってオーストラリア大陸は正式に南大陸とした日本領へと組み込まれた。

地図上に新たな線が引かれ、行政区分が定められていく。


開拓は共存の理念のもとに進められる。

拠点では交易品の交換が始まり、互いの生活様式を尊重しながら距離を縮めていった。


鉱山予定地では早速、重機と発電機が稼働を始めた。

発電機の低い唸りが大地に響き、掘削機がゆっくりと土砂を削り取っていく。


露天掘り鉱山の開発が進み、鉄鉱石、石炭、ボーキサイトが次々と採掘される。

削られた岩肌がむき出しになり、巨大な採掘現場が姿を現した。


港まで延びる鉄道は夜を徹して伸び、やがて貨物列車が走り始めた。

夜間作業の灯りが線路を照らし、枕木が一本ずつ敷かれていく。


「初号車、出発します!」

合図とともに汽笛が鳴る。


石炭を満載した貨車がゆっくりと動き出す。

重い車輪が軋み、やがて一定のリズムで回転を始める。


その車体には「南大陸資源輸送線 一番列車」と記された。

白い文字が夕日に照らされ、誇らしげに浮かび上がる。


のちにこの路線はさらに拡張され、支線が各地へと延び、輸送網は網の目のように広がっていく。


大陸を横断する巨大な鉱物運搬鉄道として整備されることになる。

東西を結ぶ幹線が完成すれば、資源は絶え間なく港へと送り出されるだろう。


夕暮れ、港のクレーンがゆっくりと回り、巨大な腕が音もなく動き、貨物を吊り上げる。


荷を積んだ貨物船のディーゼル音が響く。

低く重い振動が桟橋を伝い、海面に波紋を広げた。


遠くの地平線では赤く燃える太陽が大地を照らしていた。

乾いた空気の中、空は茜色に染まり、影が長く伸びていく。


日本国の旗がゆっくりと風にはためく。

高く掲げられた旗は、夕陽を受けて静かに揺れていた。


その下で、人々は新たな大地に根を下ろし、仮設の宿舎からやがて恒久的な町へと姿を変えながら、生活の基盤を築いていく。


静かに、しかし確実に未来を築き始めていた。

広大な南大陸の空の下で、その歩みはゆっくりと、だが止まることなく続いていった。

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